Vehicle-to-Grid — EVの遊休バッテリーの可能性を引き出す

世界の電気自動車(EV)市場は、過去10年間で急速に拡大しています。2020年末には、世界中で1,000万台以上のEVが走行していました。この勢いは、普及促進のための枠組みや政府による追加的なインセンティブ、そして継続的なバッテリーコストの低下により、パンデミックの間も持続しました。この勢いは今後も続き、2030年には世界のEV保有台数が1億4,500〜2億1,500万台に達すると予測されています[1]。

そのため、EVの電池容量は今後10年間で大幅に増加し、定置型のエネルギー貯蔵容量を大きく上回ることが予測されています。当然ながら、ほとんどの時間で駐車場に待機しているEVのアイドル・バッテリーを活用する議論が活発化しています[2]。

世界のEV用電池(オレンジ)および定置用エネルギー貯蔵(青)の累積容量(出典:IHS Markit

そのなかでも「V2G(Vehicle-to-Grid)」と呼ばれる技術は、多くの専門家から有望視されているアプローチです。この技術は、EVのバッテリーで使われなかった電力を系統に戻すことを可能にします。言い換えれば、EVは必要なときには車両として動作し、系統に接続されたときには蓄電装置に変わるのです[3]。

再生可能エネルギーの割合が増加し、送電網のバランスをとることがますます難しくなっていることから、V2Gは系統運用者とEVオーナーの間でWin-Winの関係を築くことができます。EVのバッテリーは、経済的かつ効果的な方法で、ピークカットや谷間の充填をおこない、必要な柔軟性を提供するのに役立ちます。一方で、EVの所有者は、できるだけ頻繁にEVにプラグをつなぐことで、経済的なインセンティブを得ることができます [4]。

EVオーナーから見たV2Gのビジネスモデル(出典:Nuvve

現在、V2Gの分野はまだ試験的・商業的な試行段階にあり、大規模な導入を実現するためにはいくつかの障壁を克服する必要があります。例えば、V2Gの前提条件である双方向充電に対応したEVがまだ少ないこと。また、EVオーナーの中には、充電量の増加によるバッテリーの劣化を懸念して、参加をためらう人もいます。しかし、初期の研究では、充電は逆に、正しく管理すれば実際にバッテリーの寿命を延ばすことができるという結果が出ています[2, 5]。

V2G分野のパイオニアのひとつであるカリフォルニアのNuvve社は、過去10年間に世界中でいくつかのV2Gプロジェクトをすでに実施しています。デンマークの水道・ガス公益事業体であるFrederiksberg Forsyning が、デンマーク工科大学(DTU)の協力を得て5年前に開始したプロジェクトがそのひとつです。これは、世界初の本格的な商用V2Gハブとして知られています。

このプロジェクトに参加しているEVは、「Nuvve GIVe™ Platform」と呼ばれるソフトウェアで制御される10kWの双方向充電器を介して系統に接続されています。このソフトウェアが、あらかじめ設定されたEVの走行ニーズに応じて、必要な充電電力量を計算し、余剰電力を系統サービスに利用するなど、EVの充電プロセスを自動的に制御します。

Frederiksberg Forsyning のEVは、1日平均17時間系統に接続され、2017年から2018年までの2年間で、約2,000米ドル/EVの市場収益に貢献しました。これにより、Nuvveは、充電器費用の削減、電気料金の低額化または無料化、車両管理ツール、年間メンテナンスなどのインセンティブを提供することができます[6, 7]。

Nuvve社をはじめとする革新的な企業は、増え続けるEV市場でV2G技術を拡大し続けています。フォルクスワーゲンのような自動車メーカーもその可能性を見出し、新しいEVに双方向充電を実装し始めています[8]。V2Gは、大規模な導入が実現すれば、将来の送電網の柔軟性を確保し、電力構成における風力・太陽光エネルギーの割合を高めることを可能にするという、重要な役割を果たす可能性があります。

参考資料

[1] IEA (2021), ‘Global EV Outlook 2001 — Accelerating ambitions despite the pandemic’, Online: https://iea.blob.core.windows.net/assets/ed5f4484-f556-4110-8c5c-4ede8bcba637/GlobalEVOutlook2021.pdf

[2] Hilton, George (2021), ‘Vehicle-to-grid outlook’, Online: https://www.pv-magazine.com/2021/08/10/vehicle-to-grid-outlook/

[3] Sovacool, B. K. et al. (2020), ‘Actors, business models, and innovation activity systems for vehicle-to-grid (V2G) technology: A comprehensive review’, Renewable and Sustainable Energy Reviews, 131(January), pp. 1–21. doi: 10.1016/j.rser.2020.109963

[4] Wang, Z. and Wang, S. (2013), ‘Grid power peak shaving and valley filling using vehicle-to-grid systems’, IEEE Transactions on Power Delivery, 28(3), pp. 1822–1829. doi: 10.1109/TPWRD.2013.2264497

[5] Uddin, K., Dubarry, M. and Glick, M. B. (2018), ‘The viability of vehicle-to-grid operations from a battery technology and policy perspective’, Energy Policy, 113(August 2017), pp. 342–347. doi: 10.1016/j.enpol.2017.11.015

[6] Nuvve (2020), ‘Nuvve Corporation Announces Four Years of Consecutive V2G Operations of Electric Vehicle Fleet in Denmark’, Online: https://nuvve.com/four-years-of-consecutive-v2g-in-denmark/

[7] Nuvve (2021), ‘Nuvve and Frederiksberg Forsyning Celebrate 5 Years of Continuous V2G Operations’, Online: https://nuvve.com/nuvve-and-frederiksberg-forsyning-celebrate-5-years-of-continuous-v2g-operations/

[8] Handelsblatt (2021), ‘ „Bidirektionales Laden“: So will Volkswagen am Speichern von Strom verdienen‘, Online: https://www.handelsblatt.com/mobilitaet/elektromobilitaet/elektromobilitaet-bidirektionales-laden-so-will-volkswagen-am-speichern-von-strom-verdienen/27052182.html

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Text by Christian Doedt

Translation by Shota Furuya

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Shota FURUYA
ISEP Next Energy Transformation Micro Research

環境エネルギー政策研究所, 研究員/Institute for Sustainable Energy Policies, Researcher