遠隔診療論文紹介の総括

9ヶ月間で学んだこと

西村章子(Shoko Nishimura)
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5 min readJan 3, 2018

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論文紹介のきっかけ

医療を十分に受けられない環境下にある患者さんを受け持ち(具体的には船員さんですが)治療に手こずった経験が、私を「遠隔診療」に取り組ませることになりました。

後先考えずに実践から始めたわけですが、開始後少し経って、遠隔診療が果たして有益なのかどうか、あやふやな思いのまま診療を続けることが気持ち悪くなり、発表された論文を調べていこうと思いました。

と同時に、折角調べるのなら、多くの医師達も私と同じような疑問をもっているのではないか?と思い、もしかしたら余計なお世話だったかも知れませんが、私自身が面白いと思った論文、参考になった論文を紹介することにしたわけです。

実際にサマリーに目を通したものの紹介に至らなかった論文も多数あります。本当はもっと沢山紹介したかったのですけれど。

特に、昨年(2017年)の夏から経済産業省主催の「始動Next Innovator 2017」に参加させて頂きましたので、そちらに時間とエネルギーを注いだ結果、急激に紹介論文数が減少しました。

しかし、限られた紹介論文を見て頂いても、一定の傾向が見て取れるのではないかと思っています。

論文を調べてきた感想

遠隔診療に関する論文は年を追って増えてきています。臨床系の論文に限ってみても、様々な科、様々な観点からユニークな論文が沢山発表されています。

社会学的な視点から研究された論文や技術面でのイノベイティブな報告もありました。

まさに、今現在、遠隔診療の歴史が作られてきていることを実感します。

この時点で総括をする理由

私の当初の疑問は、果たして「遠隔診療」は有用なのだろうか?という点でした。自信を持って続けて行って良いのか?ということです。

ある程度の結論が私の中で見えてきました。

1)診療科により遠隔診療の親和性が異なる。

2)長期にわたるデータが揃いつつある。

3)現時点では対面診療には及ばないものの、慢性疾患では上手に対面診療と遠隔診療(テキストタイプのものも含めて)を組み合わせていくことで医療の質を保つ/向上させることができそうである。

4)患者の利便性は一般的に向上する。医療機関を受診する心理的負担を大幅に軽減するケースもある。

5)一般的に経済効果はかなり大きい(交通費等を含めた患者負担額の軽減、就労継続など)。

6)対面診療とは違った診療上の「コツ」がありそう。

7)ハード面の機能向上に伴い、今後、遠隔診療が発展していく可能性が大きい。

総合的に見て、私は遠隔診療を「是」と結論づけました。もちろん、絶対的に対面診療でないと不味いケースもあります。また、対面診療を望んでいる患者さんにわざわざ遠隔診療を導入させようとは思っておりません。

日本で未だに遠隔診療が普及しない大きな理由は、認知度が低いことと「医療機関側の」経済的メリットの低さ、新システムに移行する心理的障壁なのかなと思いますが、もしかしたら、そもそも日本人自身が現時点で遠隔診療をそこまで必要としていないのかも知れません。

私自身の実際の診療について

私の診療スタイルは遠隔診療を取り入れる前とほとんど変わりなく、ほんの一握りの方に別枠で遠隔診療を提供しているレベルですが、それで構わないと思っています。一方で、取り入れた遠隔診療を止める必要性も全くないと思えるようになりました。

実際の遠隔診療では患者さん個人個人でやり方を変えています。

オンラインで予約を入れて頂いて診療する場合もありますが、船員さんの場合には予定が立てられない場合が多く(運行状況や海の荒れ具合など)、やれそうな時に直接電話を入れて頂いてその場でビデオ通信に切り替えています。電話だけでいいじゃないか?という意見もあるでしょうが、電話とビデオ通信とでは得られる情報量が圧倒的に異なります。

私の場合はZoomを使っていますが、他にもSkype やappear. inなど今は沢山の無料サービスがありますので何でもいいと思います。世界的に普及しているビデオ通信システムは激しい競争を勝ち抜いたものばかりでプライバシーの面でも信頼できます。

遠隔診療とは直接関係ないかもしれませんが、多くの方がビデオ通信に慣れていけば、実は、緊急時あるいは災害時に大いに役に立つ可能性があると思っています。だから遠隔診療の普及を!というと、それはそれで少し違う気もしますが(笑)。

今後の予定

今回、遠隔診療論文紹介の総括を行いましたが、こちら方面のアンテナは今後も立てておきたいと思っています。頻度は低くなるでしょうが、面白い論文がありましたら今後も紹介していく予定です。

一方で、私の興味が「人工知能と医療」にシフトしてきている事もあり、新規コーナーを作ろうかと思っております。

どうぞお楽しみに!

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