マーベリックスに訪れた”素晴らしき日々” by Jonathan Tjarks

Masashige Sato
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12 min readJun 26, 2018

レアル・マドリード所属、19歳、時代の寵児。ルカ・ドンチッチはユーロリーグのかつてのレジェンドたちが通ってきた道ならば全て通ってきた。ダラスという、これ以上ないほど完璧な環境に彼は降り立つ。その街は、彼の能力をNBAでも発揮できる場所だ。

ルカ・ドンチッチのような先例はバスケット史上稀である。スロベニアの神童はホークスに全体3位で指名され、その後ドラフト当日の夜に起こったトレードによりマブスに送られた。世界で2番目のリーグであるヨーロッパリーグでは、19歳の選手は誰しもがプレータイムを得られず苦労する。だが、ドンチッチはユーロリーグのファイナル4ではMVPに輝いた。通常ならMVPは評判を確固たるものとしたベテランのプレイヤー、例えばNBAでは活躍ができなかったアメリカ人や、NBAに足を踏み入れることができなかった海外の選手が賞を取るものだ。過去30年の歴史を紐解くと、25歳以下でMVPを受賞した選手は彼以外にたった5人だけ存在した。彼以前の最年少受賞は、21歳だった。ドンチッチは、MVPを受賞したある2人の選手のハイブリッドである。多分読んでいる方もお気づきだろう。トニー・クーコッチとマヌ・ジノビリだ。

もしNBAのチームが純粋に記録とスタッツだけで選手をドラフトするとすれば、ドンチッチは圧倒的1位指名候補にだったにちがいない。この12ヶ月でありとあらゆるチャンピオンに輝いてきた。ゴラン・ドラギッチと組みユーロバスケットのタイトルをスロベニアにもたらし、レアル・マドリードの一員としてユーロリーグ、そしてスペインのACBのタイトルを獲得した。ユーロリーグの優勝チームでベストプレイヤーとなり、その後NBAに来たクーコッチやジノビリと同じくして、インターナショナルバスケットボールの世界では、ドンチッチが手に入れてないものは何一つないのだ。もし疑問が残るとすれば、かのような舞台でスターに輝いてきた能力が、最も高いレベルでも通用するのかどうかにある。

彼の運動能力には懸念が残り、ドラフトの日も順位を下げた理由にもなっている。ドンチッチは彼より前で指名されたデアンドレ・エイトンやマーヴィ・バグリー3世の2人ように優秀な運動能力を持ってはいない。一歩目の素早さもなく、空中に浮くようなジャンプも持ち合わせてない。そして、ワークアウトで身体能力に優れた7フッターのビッグマンたちが残すような印象を与えることはこれからもないだろう。海外で多くの成功を納めてきたドンチッチが、アスレチックなウィングの選手に対してドリブルでスペースを作ることが難しそうにする場面もあった。NBAではもっと多くのスイッチディフェンスに対峙することになるだろう。エリートディフェンダーたちは、ヘルプを呼んでドンチッチにパスを選択させることよりも、自分との1:1で勝負しなければならないような状況を作りだすだろう。

NBAとヨーロッパではスピードとアスレチック能力のレベルは比較にならない。ドンチッチのピックアンドロールのパートナーであり、かつてのロッタリーピックのアンソニー・ランドルフのようなエリートアスリートは沢山いるが、彼らはNBAでは自分の持つ身体能力を活かすことができなく、その結果NBAに居続けることができなかった。もしどのプレーでも一歩遅れてしまうのであれば、その選手がどれだけ大きいかや速いかは重要ではないのだ。ドンチッチに与えられたパスコースやドライブレーンは狭くなるだろう。これまでの試合では幾つかあったかもしれないが、フロア内で最高のアスリートとなる機会はもう訪れないだろう。

しかし、怪我を除いて、彼がNBAで失敗することはほとんどないのだ。

ドンチッチは優秀なボールハンドリングとパスのスキルを持ち、ドリブルから3ポイントを打つことができる。6–8、103キロの体を持つが、彼はポイントガードができるフォワードではない。ドンチッチはれっきとしたポイントガードであり、スモールボール時のパワーフォワードのサイズを持つと表現することができる。バスケットにおいて最もレアなスキルの組み合わせを持つ選手の1人だ。最悪のケースであっても、10年NBAで活躍できるだろう。フロアのスペースを広げ、フォワードのポジションからプレイメイキングをし、リバウンドを取ることができるのだ。彼はすでにNBAでプレーできるのに十分な肉体を持っている。NBAのストレングスとコンディショニングのプログラムをこなせば、今よりもっと強くなるだけである。

ドンチッチの最高のシナリオは、ジノビリの持つオールラウンドなスキルのコンビネーションに、クーコッチのサイズを持ち、ゲームを支配するプレイヤーだ。スパーズは常にジノビリのプレー分数を慎重に制限してきた。コート上に出れば全てを注ぐスタイルなので、35分以上出せば怪我やキャリアを縮める恐れがあったからだ。ドンチッチは戦車のような肉体を持つ10代の選手であり、彼のサイズと強さがあればNBAのディフェンダーに食らいつきながらドライブで侵入し、木に囲まれたようなマークの中でも生き残ることができるだろう。ブルズ時代のクーコッチが自分のサイズを活かして小さいプレイヤーを背中に抱えながら、ハイポストからボールを供給したように、ピックアンドロールマシンとして活躍することもできる。

ドンチッチは彼の先人たちと比べてはっきりとしたアドバンテージがある。インターナショナルプレイヤーたちがNBAへの道を切り開いてきた結果、現代のNBAはジノビリやクーコッチが海を渡ってきた時代とは根本から異なったバスケットをしている。NBAのチームは1番から5番まで3ポイントを打てることを重要視していて、ベストプレイヤーはゴールから30フィートの距離から3ポイントを打つことができる。クーコッチは36分平均で3.5回3ポイントを打っていた。ジノビリは5.4回。ドンチッチはユーロリーグやACBのシーズンである61試合を通じて、6.9回試みている。ドンチッチのような選手にもっと自由にドリブルから3ポイントを打たせれば、優秀な運動能力がなくても試合を支配できるチャンスは増えるだろう。

ベストプレイヤーたちの世界では、バスケットからかなり遠いところでオフェンスを展開することで、スピードや素早といった要素を無効化することができる。ステフ・カリーやジェームス・ハーデンはラッセル・ウェストブルックのような身体能力を持ち合わせていないが、守るのがもっと難しくなる。ステフらがハーフコートを越えるとすぐにディフェンスをし始めないといけないからだ。クーコッチが2巡目でドラフトされた3年後、NBAに来た1993年当時、3ポイントに対する考え方は依然として黎明期にあり、ほとんどの試合ではペイント内の狭いエリアでプレーしていた。多くのディフェンダーをレーンに配置して密集させることは、イリーガルディフェンスのルールが導入されたことで防がれた。それゆえ、オフェンスはできるだけバスケットの近くに留まれるようなビッグマンが、1:1の機会を作るようにデザインされたのだ。

ドンチッチはクーコッチと異なり、トライアングルオフェンスをプレーすることはないだろう。ダラスにトレードされたことは、ドンチッチが取りうるシナリオの中で最高のものだった。マブスのヘッドコーチのカーライルが導入している複数のボールハンドラーが関わるオフェンスに、まさにうってつけの選手だ。フロアを広げることと、できるだけ多くのプレイメイカーをコート上に配置することの重要性をリーグで最も早く取り入れたコーチの1人がカーライルである。2人のポイントガードを同時に出すことを好み、時には3人同時に出すことで知られる。6–3の身長のデヴィン・ハリスを3番で起用するようなリスクがあってもだ。ドンチッチは2人目、3人目どちらのポイントガードの役割でも最高の選手となる。何故なら、身長のことでディフェンスを犠牲にすることなく、フォワードのポジションからオフェンスの指揮を執るようなタイプの選手であり、その役割を受け入れらるからだ。

ドンチッチが、昨年に全体9位で指名された並外れた身体能力を持つポイントガードのデニス・スミスJr.とどれだけフィットできるかという心配は大げさだ。ヒューストンにおけるハーデンとクリス・ポールのように、ドンチッチかスミスのどちらかがマブスのコート上に立つことができる。どちらかが休んでいても、ボールを独占する時間を与えることが可能になる。ドンチッチはまたオフボールの動きでも成功できるかもしれない。トップオブザキーでデニスのためにスクリーンをセットしたり、スクリーンの周りを走り回ってキャッチアンドシュートを沈めるからだ。スミスとドンチッチのディフェンダーがスクリーンを交代するのは非常に危険になるだろう。ドンチッチは2マンゲームでしばしば作れる4:3の状況で素晴らしいプレーができるはずだ。

昨シーズンにマシューズとバーンズを合わせて1試合あたりたった4.7アシストだったマブスを、ドンチッチは劇的に変えるだろう。マシューズはブレイザーズ時代の最終年アキレス腱を怪我してから昔のような状態に戻ることは決してなかった。一方バーンズは自ら動くことでプレイメイクしたり、フロアの状況を読むことよりも、プレースタイル上自分のシュートを決めることがずっと心地よさそうに見える。両選手共オフェンスでの優先順位を下げることで、もっと効果的な選手になるだろう。タレントがいないために自分たちの不得意なプレーを要求されていたが、ダラスにくる前にやっていたようなサブの役割に徹底することで活躍するはずだ。

マブスに対する最大の疑問はセンターのポジションがどうなるかにある。ナーランズ・ノエルの実験は散々なものだった。ドワイト・パウエルはいつの間にかNBAでも最も素晴らしいロールマンの1人に成長したが、彼は限定的な役割を持つビッグマンであり、ディフェンスの要になったり、相手のセンターを封じることはできないだろう。ドンチッチとスミスをポールとハーデンに変える為に、ダラスは彼らにとってのクリント・カペラを必要としている。良いニュースがあるとすれば、マブスはキャップスペースがありフリーエージェントで積極的に勧誘することができる。欲しいビッグマンの選択肢が不足することもないだろう。

ダラスは長いことデマーカス・カズンズを調査していた。だが、彼のボール支配を要求するスタイルと、ディフェンスでのむらはドンチッチとスミスと噛み合わないだろう。彼らにはコートの反対側をカバーしてくれるようなエリートロールマンが必要なのだ。その最右翼となるのがまさにカペラであり、マブスが制限FAの彼にマックス契約を提示することで、ロケッツの手から引き離すかもしれない。もう一つのオプションはデリック・フェイバースだ。ユタではルディー・ゴベールの隣で本来ではないポジションでプレーをしていた。彼は完全FAになる。マブスはまたドワイト・ハワードを検討することもありうる。ただ、彼がポストアップでのプレーを要求することを説得できればの話だが、理想的なフィットになるかもしれない。

ドンチッチをドラフトすることで、ダーク・ノビツキーがベンチから出ることになりそうだ。ルーキーシーズン以来初めてのことである。マブスのレジェンドは40歳である現在でも依然として優秀なシューターだ。だが、ディフェンスで競り合う能力を失って随分経ち、マブスのオフェンスが要求するようなロールマンにはなれない。現在のラインナップでは居場所がないのだ。ダラスはスミスとマシューズのバックコートに傾きつつある。ドンチッチとバーンズがウィングだ。ダークはセカンドユニットに短時間でのブーストをもたらすことで、近年非常に効率的であった。健康でいられる限り、今後数年間その役割をこなせるだろう。彼の身長が縮んだり、シュートの仕方を忘れるようなことはないだろうから。

このリーグで最も愛される選手の1人であり、誰もが認めるチームのリーダーとしてNBAで優勝を飾った最初のヨーロッパ選手であるノビツキーは、ドンチッチにとって最高のメンターだ。ドンチッチの年齢よりもNBAで長くプレーをしている、本当のプロフェッショナルである、コートの内外でも19歳にとって最高の相談役担ってくれるだろう。ノビツキーはドンチッチにシューティングのコツを伝えられるし、フランチャイズの顔でいることに対して、プレッシャーを和らげてあげることもできる。それだけでなく、インターナショナルプレイヤーとしてどこまで成長できるか、ダラスの街では誰も疑問に感じないだろう。

ヨーロッパから来た偉大なガードやビッグマンはたくさんいる。しかし、ユーロリーグは、NBAで最も重要なポジションであるウィングで、かつ6–8の身長を持つようなタイプのスーパースターを生んだことはない。ヤニス・アンテトクンポはそこまでのレベルにたどり着いたことはなかった。そして彼は大部分のアメリカの選手より運動能力に優れている。ドンチッチは欧州が生んだ最も先駆的な有望選手であるが、ドラフトの日でさえまだ疑問視されていた。彼のプレーはスピードよりスキルに頼っているからである。もしそのポテンシャルが余すことなく発揮されたならば、次世代のルカ・ドンチッチはきっと1位指名になるだろう。

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There aren’t many historical precedents for Luka Doncic, the Slovenian prodigy the Hawks took with the no. 3 overall…www.theringer.com

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