デザイナーの育成で大切にしたこと

1年目のデザイナーに教えたほうがいいことや、デザイナーを育てるとはどういうことなのか

Nobuo Suzuki
NOBUOSUZUKI
9 min readApr 3, 2017

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ここ4年、育成に関わらせてもらって過ごしてきたのですが、久々に育成する人がいない4月を迎えるので、新卒デザイナーを育成する際に気をつけていたことを、この機会に振り返ってみようと思います。

自分のことはどうにかなってきた20代中盤、「デザイナー育ててね」と突然言われても何から始めればいいのかもよく分からないし、どうやってアドバイスしたらいいかも分からなかった当時、デザイナーの育成に関する記事があまりに少ない印象だったので、同じような境遇の人の役に立てば嬉しいです。

本人が課題を感じて初めて成長する

突然ですが、他人に言われた時よりも自分で課題を認識できた方時の方が腹落ちしませんか?

どれだけ教える側(メンター)が一方的に課題感を感じていたとしても、一方通行では意味がなくて、逆に本人と課題感を共有できると、認識してるゴールが明確になるので、お互いに成長実感を得やすいです。

どうやって課題を共有するのか

まずはお願いする仕事を用意します。

バナーなどの単位の小さい仕事が良いです。バナーは情報設計の最小単位なので、いきなりLPやUIデザインをお願いしてしまうと、どこが分かっていて、どこが分からないのかが不明確になってしまいます。また、バナーのような商業デザインは、大学ではあまり教えてもらえませんし、「簡単に作れる」と思っている学生が多いというのもあり、最初の仕事としてはちょうど良いです。もちろん、その職場での仕事と紐付いている前提です。

仕事の内容については最低限伝えますが、期限は特にこちらから設定せず、自分で設定してもらいます。

  • 「 期限は自分で決めてね」
  • 「わからないことがあればいつでも質問してね」

という2点に関してのみ伝えます。
目的は、

  • 見積もった時間との誤差がどれぐらいあるか
  • アウトプットに対してどれぐらい説明できるか

の2点です。

仕事の内容も最低限伝えて、分からない部分は質問してもらうようにしていました。なぜなら、質問して答えを引き出すのもデザイナーの重要なスキルだからです。
こういうプロセスを経て、「自分で決めたことでの失敗」を経験してもらったタイミングで、初めてフィードバックします。はじめに痛みを伴う失敗を経験すると、本人が課題感を得やすく、立ち上がりの成長がスムーズになります。

どのようにフィードバックするか

最初は気になって色々なことを言いがちですが、結果相手の頭の上にはてなマークがたくさん浮かんでいるのを何度もみて、「失敗したなぁ…」と思い、なにごとも言い過ぎるのは良くないんだなと経験しました。
この、「色んなこと」には2点あり、

  1. 量が多い
  2. 粒度がばらばら

が問題なんだと感じたので、絞ることにしました。

1.フィードバックの量を絞る
例えば一度のフィードバックで10のことを伝えてしまうと、それがタスクリストになってしまい、それ以外のことに目を向けずらくなります。
なので、まずは本当に重要な2,3のポイントに絞って、自分で考える余地を作ります。被せるように質問がくるのですが、ぐっと我慢して、核心は答えず自分で考えてもらいます。

2.フィードバックの粒度を絞る
これは1点目ができればクリアできていると思います。

例えば、先に構図の話をした後に、トリミングやアイコンの形、そして文字詰めというようなディテールの話をすると、細かい話の方が残ってしまいます。本当は構図の話の方が重要にも関わらずです。
なので、細かいところが気になるのはすごく分かりますが、そこはぐっとこらえて、基本的な方向性として間違っていないかどうかをまずはフィードバックするようにします。

言葉で伝えるより、まずは自分で作ってみせることも重要

言うだけでは無くとにかく作ってみせることもデザイナーなら重要なことです。こうした方が良くなるんじゃないかと言うのを、実際目の前で修正案を作ってみます。

実際、リアルタイムで修正するケースというのはやりとりする中で多々あります。ミーティング中にその場で手直しして「こんな感じですかね?」と聞けるのか、一旦持ち帰らないといけないかで、スピードが全然違ってくるので、実際の現場を背中で見せて教えることはとても重要です。

また、スピードをあげるための細かなテクニックは、こういうタイミングだからこそ教えられることです。

相談しやすい雰囲気を作る

半年後、1年後を踏まえたときに、レビューをする必要はあるものの、都度承認とったり、あれはダメこれはダメ、というような雰囲気になってしまうと、相談もしづらくなってしまい、新しいことにチャレンジしようという雰囲気自体がなくなってしまいます。新卒・中途にかかわらず、相談を受け付けてもらえる雰囲気・解決に繋がる雰囲気というのが大切です。

ですので、興味やトライしたそうなポイントを引っ張って伸ばします。本人が気がついていない場合もあるので、チャレンジを促すようにしていました。

  • 成長するには次に何が必要か
  • この環境でどういうことが用意できるか
  • 本人は得意そうなことは何か

周囲にもあらかじめ「次にこういう仕事頼みたいなと思っていて」と相談しておけば、お願いしたい仕事も集まりやすいはずです。

ミーティングは環境を変える
週に1回程度の振り返りミーティングをすることが多いのですが、何回もやっていると段々新鮮さがなくなってしまい、作業的なミーティングになってしまいます。

そこで、急に場所を変えて見たり、ふらっとコーヒーついでに話を聞いて見たり、話を聞くキッカケを増やすと良いです。

急に伝えると、PCもないですし、丸腰です。すると、普段考えていたこと・言いたかったことをしゃべりやすくなり、好評でした。

伝えるべきことはしっかり伝える
ただただ相談しやすくて、話しやすいだけではただの友達と一緒です。褒めるよりも厳しいことを言うことの方が、何倍もしんどいです。怒る(キレる)のではなく、叱らないといけないので、感情的にならずに伝えるべきことを伝えて、相手も「なぜダメで、どうすべきだったのか」きちんと理解してもらう必要があるからです。

その際に気をつけていたのは、以下の3点です。

1.その場で伝える
時間が経つと本人の記憶が薄れてしまって、突然「この間もやってたけど、そもそもさ」なんて言われてもピンときませんし、話を聞くのが嫌になります。必ずその場で言うようにしています。

2.伝える場所は選ぶ
他のメンバーの前で叱られると、内容よりも周りに聞かれていることの方に意識がいって、内容がきちんと伝わらないので、1対1になれる場所で伝えるようにします。その状況であれば、原因含めプラスアルファで話も聞くことができます。

3.あだ名でよばない
他のメンバーがどれだけあだ名で呼んでも、自分だけは意識的に呼ばないようにしました。厳しく言わざるを得ないタイミングで厳しいことを言うためです。メリハリ重要。
逆に、普段あだ名で呼ばれていたのにいきなり名前で呼ぶことで、「いつもと違う雰囲気」にして注目してもらうのも、ありだと思います。

言語化する習慣を作る

プロのデザイナー(給料をもらってデザインをする人)としてチームで作るようになるため、アウトプットについて説明する機会が増えます。また、周囲もデザインを理解してくれる人に説明することと、企画職・エンジニアに対して説明することでは、まったく異なります。

これは1年目だけではなく、2年目以降もずっと向き合うことなので、早めにデザインを言語化する習慣をつけると、のちのち幸せです。

デザイナーの仕事は「作れる」だけでなく「話せる」ことも含まれています。しかし、デザイナーが自分のデザインを言語化できない人があまりにも多いと思います。

逆に言えば、言語化できるだけで多くのデザイナーを追い抜けるということでもあります。言語化だけに限りませんが、一日で習得するのは難しいどこの環境でも通用するソフトスキルこそ大切なので、その重要性をこれからも伝えていくといいのではないでしょうか。

その取っ掛かりとして、「新卒自身が考えていること・悩んでいること」や「どういうプロセスでアウトプットしたか」といった身近な部分を、新卒と一緒に考えましょう。一日で習得が難しいことは、習慣付けすることが大切だと思います。

ここまで言っておいて最後は、新卒本人の気持ち次第なのかもしれません。ただ、自分に当てはめてみると、社会人になって一人で生きてこれたとはとても思えませんし、むしろ「今でも覚えている先輩からの言葉」は少なくありません。
そう言った意味で「新卒本人の気持ち次第」というのは、何が響くかは本人次第で、最後は自分自身で気がついてもらうしかない。

そのためにメンターができることは、「正面から向き合って本気で考えること」、それに尽きるのではないでしょうか。

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Nobuo Suzuki
NOBUOSUZUKI

Digital Product Designer for Android, iOS & Web at Mercari, inc. / Mercari US→UK / #productdesign #servicedesign #uiux デザイナーを育てるのが大好きです。