なぜ噛ませるのか

Matsuda
koushikai
Published in
11 min readNov 10, 2017

ー噛むことの大切さをどう伝えるのかー

かつて、片山恒夫が30回にも及ぶセミナーの中でいつも声を大にして話していた「噛むこと」の重要性。セミナーを収録した録画の中から、一部まとめてみました。

噛むことが大事だからといって、患者さんに「噛め、噛め、噛め」と強要してもピンとこない。

まずは、適度な咬合圧による歯根膜の刺激は歯周組織を健康化していくことを説明する。

(咬合圧による健全化は割愛)

それで今度は、噛むことによって唾液が出るんだと。唾液が出ないことには消化機能が始まらない。

つまり、外から食物を取り込んで、体に必要なもの、大事なものを入れていっても、それらがそのまま排泄されたのでは無駄になってしまう。

無駄にしないためには、その食物が消化され、栄養素となって腸管で吸収されなければならない。

その吸収が始まる引き金になるのが唾液を出す事、すなわち噛むことだ。

唾液が出て初めて吸収が始まるというその循環をどう説明するのか、その説明の仕方も考えておかなければいけません。

患者さんが十分理解できる言葉で、しかも納得できる流れで、色々なメディアを駆使して、効率的に説明するようにする。

実際、私のような話し方は下手なんです。もっと上手に話をしていくことに心掛けなければいけません。

これはやはり、教育の一つの方法として、述べ方を勉強するのも大事だと思います。だから、教育に携わる先生におつきあいを願って、色々教えてもらうことも大切だと思います。誰に教わるかというと、それは中学校の先生あたりが良い。

学校医、学校歯科医になった時に、自分が専門家だというので、一方的に検診するだけでなく、向こうの専門家から教え方、話し方を教わって帰る。だから学校へ行けば、大事なものを拾って帰るという根性を働かせて、勉強するという事。これが大事だと思いますね。

私は長らくそういうふうに考えてたんだけれど、未だにあまり上手にならないんですがね。

話を戻しますが、消化吸収の時には何から話すとかというと、唾液は、一体どこから出てくるの?という事ですね。

これはどこか穴が開いていて、つまり「唾液腺管」から出てくる。その出来る元はどこなんやと。それは体液・血液の中から絞り出される。そうすると、その分だけ血液・体液の中の液体成分が足りないようになるはず、そうするとすぐ補わないと困るから、それじゃ茶碗でお茶を飲んだら、というとこれは間違いなんですね。それをやるから吸収が悪くなるわけ。つまり絞り出た唾液を飲み込んだら飲み込んでいく間に、栄養物と一緒になって、体液を元に戻してゆく。これが吸収なんですね。

だからまず第一に唾液を余計に出して、余計に減らしておく。そうするとその分取り込もうとするし、消化力がついてくるわけですよね。
そして消化して吸収されたもの、栄養物を含んだものとして入ってくる。

まあそこで唾液が一体1日にどれくらい絞り出されてくるのかというと,一升ビン一瓶、1,500 ㎖ぐらい、つまり1升は1,800㎖ですから、酒の1升ビンよりチョット少ない8合目ぐらい,それが一番よく出るのは食事の時。間食をしなければ、1食につき約3合くらいになる。
そうするとビールグラスの3杯くらい。

これはいっぺんに飲んだらお腹がダブダブになるほどの量ですよ。
それを飲み込むから余計なものが食べられない。
つまり食べる量がセーブされるわけ。
それがなかったら余計に食いすぎるわけ。
だから腹8分目というのは、唾液を十分出して唾液を飲み込めば、自然に腹8分目になる。

唾液をそれだけ飲み込むためにはそれだけ唾液を出さなきゃいかん。
出すためには噛まなきゃいかん。

どのくらい噛むかといえば、1口50回噛んで食べれば、腹8分目で腹一杯になるわけ。それどころか、食べ物を半分に減らしても「もう要らん」というほど腹が張るということです。お腹一杯になる。

で、それは何回やったら癖になるかというと、まず1,000回、1,000回というのは、私は何においても言うんです。何でも1,000回やったらまず判る。
何でも1,000回やってからでないと「ものを言うな」と「やったという事を一切言うな」と言うんです。

だから1日に1回であれば、3年かかりますよね。365日だから……「面壁3年」というのは「1日に1回座れ」という事ですよ。
そうすると3年かかっちゃう。だけど1日に3度食うんですよ。
それで1食に何回、口に運ぶか。人によるけど、1週間から10日やったら1,000回になります。

だから、とにかく1週間1口50噛みを確実にやる。
家族みんなで約束をして1週間だけ日曜日から始めて土曜日の晩までやったとしたら、もう「1口50回噛み」なんてな事を忘れても50回噛むようになってます。

いいですか。
だからそうやって癖を付けていくわけ。
つまり消化吸収から判り易く話を始めていって、それから今度は唾液の中の成分、消化に携わるアミラーゼなどの話をする。
これは多くはデンプン質のものに作用する、なんてな事を言っても言わないでも構いませんが、アミラーゼという消化酵素があって、というだけぐらいでいいでしょう。アゼラーゼも言わないでいいかも。

消化酵素が入っているから50回噛む。
50回噛む時間は何分かかるか。落ち着いて噛めば、1回を約1秒と考えると50秒かかる。
30秒以上、口の中で唾液に食物を混ぜ合わせていけば、次ぎの一番大事な発癌物質、例えば農薬だとか、永くキレイに見せるための添加物だとか、色付けだとか、又しなびないようにコーテングするだとか、色々ありますが、つまり絶えず入って来る発癌性の物質を無毒にしてゆく。口の中に30秒間、混ぜ合わせてゆけば、多くの発癌性物質は無毒になる。

そういうラクトペルオキシターゼと言うのが入っているというのが、同志社の西岡一さんの説ですね。
まあ発見というのか。だからどうしても30秒つまり30回噛めということを西岡さんはいろんなところへ書いていますね。
知らないのは歯医者だけみたいなもので、患者さんの方がよう読んでいる、というのでは困っちゃうわけ。
だからそれはまあしっかりと話をする。

それからまた歯槽膿漏だとか歯肉炎だとかというようなことであれば、歯槽膿漏だとか歯肉炎は感染というのも手伝っているということになると、感染をさせないように唾液の中でチャンと唾液の中にリゾチームというものが含まれていて、それで特に球菌なんですけれども、感染するのを防いでいるという感染防止のための物質というか、大事な力を持っているものも含まれているんだと。

また、ムチンという粘性のある物質が口腔粘膜や喉などの粘膜の表面を覆っていて、物理的に外的刺激から守っているだけでなく、ウィルスの侵入を防ぐ抗ウィルス作用もあるし、タンパク質の吸収を促進する働きもある。もちろん、目や鼻や消化器系の粘膜にも含まれていて、外界から守っているわけですが。

それだけではなしに、やっぱり「噛めば噛むほど味が出る」とか「噛めばなんとか」と色々言われているでしょう。
どんなものでもよく噛んで食べると、美味しいという味覚を発達させるというか、味覚を呼び覚ますというか、そういう力をもっているガスチンというものが含まれている。
だから噛めば噛むほど美味しくなるという事ですね。

それからもう一つは、むし歯予防のためにもなるんだと。
むし歯予防のためになるというのは、むし歯というのは歯が溶けて穴があいてというようなもの。

まずは唾液の緩衝作用、つまり食べ物を食べれば口の中が一旦酸性になり、それが歯を脱灰して虫歯という現象を起こすわけですが、唾液が口の中の酸性を中和していく、そういう働きがある。

さらに、その逆作用が、つまり唾液が触れることによって唾液の中のタンパク質がまず歯面にへばりついて、それでペリクルとして結集されて来る。
アクワイアード・ペリクルという状態になるわけですね。
その中に今度はもう一遍、溶けたところに唾液の中のカルシウムがへばりついて、溶けたところにまたアパタイトとしてへばりついて表面から修復してゆく力を待っている。

そういう酵素がスタテリンというエナメルの、アパタイト化する酵素とでもいいますかね。スタテリンが入っているということですね。
これで6つお話したと思うんです。

アミラーゼ、リゾチーム、ムチン、ラクトペルオキシターゼ、ガスチン、ステタリンとお話しましたね。

もっとありますが、このくらいはやはり話してやればいいと思いますね。

それからもう一つ、今度は治療に役立つ、つまり治りが早いということ。
つまりよく噛んで唾液が出てくることのために、口の中の歯槽膿漏でやられたその組織が回復してゆくのが非常に早い。
噛まないでいると治りが悪いし治らんと。そういう話をする。

あんた治しに来ているんだけれど、薬を塗れば刺激のために余計に悪くなると、それよりもあんたは自分の力で治ってゆく力を持っているんだと、それが今あんたには欠けているんだと。
治ってゆく力はどこから出てくるかというと、唾液から出てくるんだよ。
だから他よりも口の中の傷は早く治るでしょう。あるいは犬は傷を舐めて治すでしょうと。
それでお母さんの唾はといって、転んだ時にヒザ小僧擦ったらツバをつけて「治れ、治れ」と言うでしょう。そういうツバの力があると。

これは一体どういう力なのかというと、これがスタンレー・コーエンという人が見つけたエピデルマール・グロス・ファクター。

エピは上、デルマールは皮膚,エピデルマールは上皮。上皮を生成してゆく、作りあげてゆく、グロス・ファクター。
これが唾液腺から唾液の中に含まれて、唾液が生成されても口の中には出て来ないんですよ。口腔の中に出てくる道中途中から再吸収されてしまって、だからこれはホルモンなんです。そういうホルモンが見つかってます。

もう一つ、昨日話した頭が良くなるという事ですね。これは神経です。
ナーブ、神経のグロス・ファクター。ナーブ・グロス・ファクター。略してナーブのN、グロスのG、ファクターのF。N・G・F。

それからエピデルマール・グロス・ファクターは、それを略すと、E・G・F。そのE・G・Fのほうはスタンレー・コーエンという人。

ナーブ・グロス・ファクターというのは、イタリアのおばあちゃんで、僕より1つ下だから今82、3歳だろうと思います。
レヴィー・モンタルチーニという人です。
その人が確立してしました。見つけた。アヤフヤではなしに、はっきり学会で認められた。
この二人がこの発見・確立のためにノーベル賞を貰ったのが何年だったかな。

何年ですか?(平井さんの声:1986年です)1986年。これが確かです。

その2つがどうです。
これがあるからこそ、それはホルモンとして身体の中に入って、血行に乗って、身体の隅々で、それで傷があるところへそれがパッーと集まって傷を治してゆくんです。
だからそれが少なければ傷の治りが遅いんですよ。

だから歯茎の傷を治すんだったら、噛んだら治るんですよ。
極端に言えばね、噛まなきゃ治らんのだ。
だからしっかり噛んでもらうんですよ。

で、噛まさないで、それを言わないでブラッシング、「磨け、磨け」と言うたら、皮をめくって傷つけて悪くするだけじゃないの。

だから噛むことの目的をキチッと話すのが歯医者の役目だ、義務だと。歯医者に義務付けてゆく。

歯医者は自分に厳しくオブリゲート(義務を課す)してゆく。そういう事ですね。それが歯医者の使命なんです。

それに、歯医者の相棒として働いているのが歯科衛生士。
衛生士は、歯ブラシ屋と歯磨き剤屋のお先棒を担いで働いている、そんなミミッチイものとは違うんだから、そこのところをはっきり頭に入れて置くことですね。

NPO 恒志会

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