コレステロールは悪なのか

Matsuda
koushikai
Published in
6 min readNov 13, 2017

最近の健康ニュースでは、LDLコレステロールを「悪者」扱いにしている記事が少なくなってきているとはいえ、まだまだ一般には浸透していないように思い、まとめてみました。

はじめに

人の体は、たんぱく質、脂質、ミネラルそして水分などの成分でできています。

全体の構成としては、水分が最も多く約60%、脂肪が約20%、タンパク質が約15%、ミネラルが約5%そして糖質が1%以下となります。

さて、何かとイメージが悪いコレステロールは、人の体を構成している60兆個もの全ての細胞の細胞膜の原料になっているだけでなく、例えば脳では、65%が脂質で、その脂質の25%がコレステロールです。さらにコレステロールは男性ホルモンや女性ホルモンなどの原料です。すなわち生命を維持する必須な物質なのです。

コレステロールはほとんど肝臓で合成され、食物に含まれるコレステロールが少ない時は、肝臓がせっせと合成量を増やし、逆に摂取量が多い時は肝臓での合成量を減らす機構になっていて、血液中のコレステロールの量を一定に保つように調節されています。

善玉!悪玉?

これまで、コレステロールは、HDLコレステロールが「善玉」で、LDLコレステロールは「悪玉」と言われてきました。

ところが、HDLもLDLも、状況によって構成成分が異なるだけで、同じリポタンパク質です。

どういうことかと言いますと、コレステロールは脂質のため水に溶けないので、そのままではうまく血液中を流れません。そのため、脂質の周りを親水性のあるタンパク質で包んでいるのです。この構造をリポタンパク質といい、例えばコレステロール(脂質)を乗せて血液中を移動するカプセル(タンパク質)のようなものです。

そしてタンパク質の密度の違いで、LDL(低密度リポタンパク質)とHDL(高密度リポタンパク質)に区別されているだけなのです。通常のLDLコレステロールは、全体の約40%をコレステロールが占め、コレステロールを肝臓から末梢組織に運んでいます。一方HDLコレステロールは、末梢組織の細胞で細胞膜の原料としてコレステロールが使用されたあと、余ったコレステロールを回収して肝臓に運んでいるのです。両方とも人の体に必要なものです。

こんな論文報告もあります。

「血液透析患者では血清総コレステロール値が死亡リスクと逆相関することがよく知られている。一般的に、LDLコレステロールの高値は死亡リスクの上昇につながるとされていたが、血液透析患者には当てはまらない。血液透析患者の死亡原因の第1位は心血管疾患であるが、次に多いのが感染症であり、LDLコレステロールは細菌性毒素の吸収および不活化に働いて、先天免疫に関与している可能性が考えられている。米・University of California Davis School of Medicine の George A. Kaysen 氏らは、こうした観点から血液透析患者のアウトカムに関する国際的なデータベースを解析し、実際にLDLコレステロール高値が感染症による死亡リスクの低下と関連していることを、米国腎臓学会・腎臓週間(ASN Kidney Week 2017、10月31日~11月5日、ニューオーリンズ)で報告。」

そうして、2015年、アメリカでは「コレステロールは過剰摂取を懸念すべき栄養素ではない」として、従来の食事指針を撤回しました。それを追うように同年、日本においても「科学的根拠が得られない」としてコレステロールの摂取目標量をとりやめました。日米ともに、コレステロール摂取制限をしてきたことが無意味だったと認めたのです。

もう少し詳しく説明すれば、厚生省の「食事摂取基準策定検討会」の報告書の中で、「コレステロール摂取量が直接血中総コレステロール値に反映されるわけではない」と言い切っています。

これまで、忌み嫌われていた悪者、卵や肉類、揚げ物、炒め物は、疑いが晴れました。

じっと潜んでいた悪玉!?

それでは心臓や脳の血管に悪さをする悪玉はいないのかというと、実はコレステロールとは全く違うものだったのです。「酸化LDLコレステロール」と「小粒子LDLコレステロール」!

LDLコレステロールが活性酸素と結びついたものが「酸化LDLコレステロール」で、粒が小さく密度の高いLDLコレステロールが「小粒子LDLコレステロール」。小粒子LDLコレステロールは酸化LDLコレステロールに変化しやすいという点で、問題があるとされています。

酸化LDLは血管壁を傷つけ、健康な血管が本来持っている血管拡張作用を損ないます。また酸化LDLが血管壁に沈着すると、白血球のマクロファージがこれを異物と見なして集まり、酸化LDLを次々に捕食して動けなくなります。その残骸がプラークと呼ばれる粥状の物質となって血管壁にたまり、動脈硬化を引き起こします。

酸化を引き起こす攻撃因子を酸化ストレスといいますが、通常は抗酸化酵素やビタミンE・Cなど、体に備わった抗酸化能が酸化ストレスから防御しているため、LDLがすぐに酸化されることはありません。しかし喫煙などによって酸化ストレスが増大したり、加齢などに伴って抗酸化能が低下すると、LDLの酸化が促進されると考えられています。

「LDLコレステロール」が体内で役目が終わって肝臓に戻ってくるのが2日程度、小粒子LDLコレステロール」は5日と言われています。血中にとどまっている時間が長い分、酸化される確率が高いというわけです。

まだまだ従来の検査方式が多い中で、「酸化LDLコレステロール」を測定する検査は、MDA-LDL検査と呼ばれるものですが、病院によっては行なっていない場合もありますので、事前に連絡をした方が良いと思います(保険適応)。

「小粒子LDLコレステロール」が多い人は、中性脂肪値が高い人やインスリンが分泌されていても効きが悪く血糖値が高い人、血圧が高い人、内臓脂肪型肥満の人、つまり生活習慣病を持っている人です。

LDLが小型化しているかどうかを調べる検査には「小粒子LDLプロファイル」という特殊な検査がありますが、高価で保険適用されていません。そこで、通常はLDLサイズを推定できる「リポ蛋白分画精密測定」が用いられています。

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