『トリウム原発』はメシアになりうるか

Matsuda
koushikai
Published in
12 min readApr 23, 2017
福島原発

2009年に発足した民主党政権に対し国民は大きな期待を寄せた。バブル崩壊後の低迷し続ける社会、それを打破する方策を打ち出せない政府、畢竟、長期の政権は極度の淀みを呈していたからだろう。

新政権へ臨むことは、まずは行政改革、そして安全で安定した食とエネルギーの確保。その他年金や教育問題等々、枚挙にいとまがなかった。

ところが、2011年、東日本大震災が勃発した。とりわけ津波による被害は想像を絶するものだった。そして、福島原発事故。低コストで安全でクリーンなエネルギー「原発神話」がもろくも崩れ去ってしまった瞬間だ。6年経った現在でも、何ら解決の糸口さえ見えない。

さらに、その間、原発の設置基準が見直されたり、自然エネルギーの有用性と普及が叫ばれたが、原発事故の根本的論議もないまま、今また、停止していた各地の原発の再稼働が始まっている。元の黙阿弥である。

一方、新しいエネルギー源についても取り沙汰されてきた。

通常、原発論議は原発推進か脱原発かの二者択一であるが、第3の道を模索する動きが台頭している。それはトリウム元素を使った、より安全な原発「トリウム原発」を作るということだ。

「トリウム原発」は第3の選択肢になりうるだろうか。

主だった記事から「トリウム原発」について書き出してみようと思う。

トリウム原発の利点は

埋蔵量が多い

廃棄物が少ない

核兵器の転用が少ない

安全性の高い原子炉を作りやすい

となっている。

そもそも「トリウム原発」のアイデアは、1960年代に米国のオークリッジ国立研究所の学者たちによって切り開かれたもので、日本でも京都大学などが研究を続けていた。

しかし、このトリウム原子力技術は具現化しないままで終わってしまった。その最大の理由は、技術的な課題が克服できなかったことに加え、核兵器への転用が困難という、その軍事的背景がその本質的特性であると言えるだろう。その結果、核兵器に容易に転用できるウラン原子力技術が戦略上必要不可欠とされ、各大国は競って研究・実験を推し進め、そして現代に至っている。(核保有国:アメリカ合衆国、ロシア、イギリス、フランス、中国の五大国、そしてインド、パキスタン、北朝鮮が保有を表明している。またイスラエルも公式な保有宣言はしていないものの、一般的には核保有国とみなされている。)

しかし、日本の福島原発事故、イランや北朝鮮など途上国の核開発問題がクローズアップされたことなどにより、核兵器の転用が難しく、かつメルトダウンが起こりにくいなど、より安全なトリウム原発に、再び注目が集まり、次世代の原発として技術開発を進めようという動きが国際的に高まっている。

そして既に、世界各国で「トリウム原発」の基礎的研究・実験が開始されている(トリウムを多く産出するインドでは、既に商業用原子炉が運転中である)。

以下、各利点についての要点を示す。

埋蔵量が多い

トリウムはモナザイト砂(希土類:レアアース)に含まれ、精製する際の副産物として出てくるが、これまで使い道のなかったトリウムを燃料にすることができる。またその埋蔵量はウランの数倍あり(同程度という調査もある)、含有量はウランの約10倍、さらに有効反応成分量で比較するとウランの約100倍〜1000倍と言われている。

そして、ウラン鉱石が特定の国に偏在しているのに対して、トリウムは比較的各国に広範囲に分布しており、現在世界中で発掘されているレアアースの副産物としてすでに年間約1万トン採掘されている。しかし放射性物質のため処分に困る。それを利用できるとなると燃料問題はおよそ片付いてしまう。なぜなら、年間1万トンのトリウムで100万kWeの原子力発電所を1万基稼働できるからだ。

そして日本でもモナザイト、トリウムの存在が確認されているが、その量は多くないとされている(モナザイトは陶器の釉薬として使用)。

核廃棄物が少ない

科学者の試算では、有害廃棄物がウランより1000分の1以下である。

しかし全くゼロではないので、ウランと同じように廃棄物処理に関する研究を推進し、廃棄物処理の道筋を明確にしておく必要がある。

残念ながら、原子力発電が導入されてからこれまで、核廃棄物の処理に関する明確な道筋がない。

高レベル放射性核廃棄物をガラス固化し、ステンレス容器に入れて埋設する、低レベルのものはドラム缶に入れセメントで固めて埋設される。

しかし、どんな方法を採用しても、廃棄物は何万年もの間有害な放射線を放出し続け、格納する容器等の劣化は避けられない。何万年の間、安全に管理し続けなければならないのに、その具体的な方策は何もない。

その問題を解決するかのように喧伝されているのが、核廃棄物の再処理である。そのことは一見リサイクルと同じようなイメージだが、実際は、残存した廃棄物からプルトニウムを取り出す作業であり、廃棄物の量はほとんど変わらないし、廃棄物を安全に処理することとは全く異なる。

したがって、その処理技術が確立しない限り、現在では隔離するしか方法はない。

しかも、原子炉は50年もすれば廃炉することになるが、原子炉を解体するときに出る放射性廃棄物は急激に増えることになる。こうして増え続ける廃棄物の行き場がなくなったら、原子炉を解体することなく、そのまま原子炉ごと包埋することになる。当然立ち入り禁止地区になり、二度と利用できない地域が地球上に増え続けてしまう。

本来、これらの根本問題に道筋をつけた上で実施しなければならないことを、目先の利益や効率のためにないがしろにされ続けている。

(フィンランド核廃棄物最終処分施設「オンカロ」は世界で唯一、着工された最終処分場で、2020年から一部で利用が始まる。原発の使用済み核燃料を10万年保管するというもの。しかも300年のちに運営を見直すとしている。)

フィンランド オンカロ

核兵器の転用が少ない

トリウムに熱中性子を連続的に衝突させることによりウラン233が生成され、これが核燃料になる。ウラン233の核分裂反応によってプルトニウムその他の核兵器製造原料をほとんど生み出すことがない。

しかも、ウラン233は崩壊するときに中性子を放出するが、純粋なウラン233であれば、臨界に達すればそのまま燃え続けるが、トリウムだけだとそうはいかない。つまり中性子の生成が不十分で臨界状態が続かないためプルトニウムで中性子を補なってやる必要がある。そのためこれまで貯蔵されてきたプルトニウムを消費していける。

安全性の高い原子炉を作りやすい

トリウムの溶融塩を700度程度にとかして使用するため、燃料棒を整形する必要がない。また燃料が最初から溶融しているため、燃料棒のメルトダウンということはありえない。何らかの理由で温度上昇が生じても、原子炉のタンクへの配管中のバルブが溶け、燃料は重力で流れ落ち、タンクには核分裂を起こす黒鉛がないため核分裂は停止する。

核廃棄物の半減期が短いことも大きなメリットに挙げられている。トリウム原発の反応を設計し、半減期を30年(ウラン廃棄物は10万年)まで短縮できると言われている。

トリウム溶融塩は沸点が1,500℃という高温で、かつ化学的には空気と反応したりすることがない安定したもので、しかも大気圧で運用し高圧にする必要がないため、軽水炉のように分厚いものは必要がない上、水蒸気や水素が容器や格納庫に溜まって爆発することもない。

さて、それでは日本ではこのような「トリウム原発」の研究・技術は育っていないのかといえば、1980年ごろ古川和男博士は、安全性の高さからトリウム原発の開発を主張していた。しかし当時アメリカでは、前述のように軍事戦略上で原子爆弾の原料となるプルトニウムが得られるウラン軽水炉が有利になることから、トリウム原発を進めることができなかった。その煽りを日本も食って、日本でも軽水炉の原発になった。

しかし日本では、古川和男博士の流れがあり、アメリカが一度は諦めたトリウム原発の研究を育ててきており、そのグループ「トリウム溶融塩国際フォーラム」が世界で最も進んだ研究成果と技術を持っているとさえ言われている。

化石燃料に頼る時代はいつか必ず限界がくる。その時までに新たな次世代の原発の開発が必要であるのなら、日本政府の掲げるこれまでの原子力政策を転換することが必須であろう。

古川和男博士 略歴

1951年、京都大学理学部化学科卒業、
1952年、東北大学金属材料研究所・助手として、無機液体構造化学研究に従事。
1960~61年、ロンドン大学 Birkbeck Collegeにて、統計熱力学的研究、X線液体構造解析に従事。
1961年、東北大学助教授に就任し、液体金属・熔融塩の構造・物性論研究に従事。
1962年、日本原子力研究所に出向し、高温融体の原子力利用研究に従事。
1966年、同・ナトリウム研究室長に就任し、液体Na基礎技術の総合開発に従事。
1968年、米国ORNLを訪問し、MSREの順調な運転を知る。
1971年、同・高温融体材料研究室長に就任し、核分裂炉・核融合炉・加速器炉への応用に従事。
1980年、
AMSB(加速器熔融塩増殖炉)を発明し、U233核燃料の大量製造を可能にした。
1983年、東海大学 開発技術研究所・教授に就任し、Th熔融塩核エネルギー協働システムを提唱。
1985年、
FUJI(小型熔融塩発電炉)を発明し、炉心黒鉛取替・連続化学処理を不要とした。
1992年、ウクライナ科学アカデミー・外国会員(終身)に推挙。
1996年、東海大学を退職。トリウム熔融塩国際研究所代表。

緒方 守氏からの手紙

トリウム熔融塩炉による第4世代にあたる原発エネルギーに関してです。

東洋の哲人と言われている李登輝氏が、その著書で日本はトリウム原発を開発せよと提言し、また原発禁止運動に深く関わっていた長瀬氏も、その著書でトリウム原発に舵を切り替えろと主張しているにも拘わらず、一向に我が国はこのエネルギー問題に向き合わず、第3世代の原発エネルギーに留まったままです。

そもそもこの第3世代の軽水炉原発を開発した本人が、これは危険だと悟って実験開発しようとしたのが、この第4世代の熔融塩炉です。その驚異的に無事故安全な実験結果にも拘わらず、その開発に乗り出していた米国は核兵器に役立たないとのことなのか、その開発を突然止めてしまいました。

その米国が最近この第4世代の原発エネルギーに取り組み出したということです。木下氏にお話を伺ったところ、現在第4世代の原発には6種類のものが研究され、アメリカはそのうちの2つの原発を選択したとのことです。その2つのうちの1つが、このトリウム原発とのことです。

第3世代では確かに大きなエネルギーを確保できるが、お金がかかり過ぎるということと、福島原発の事故にやはりショックを受け、第4世代の原発に舵を切り替えて来たとのことです。

何故近代国家は戦争をせねばならなくなるのかを問えば、それはエネルギー確保を他の国家よりもより多く保有することを求められているからです。決して原始生活の方向へ戻ろうとしない人類の文明生活への要求がより大きなエネルギー消化を必要としているからです。

いつ、我が国の上に核爆弾が落ちてもおかしくない時代となって来ましたが、エネルギーが安価でしかも核兵器に使用できない安全なもので、しかも唯一プルトニウムを地中や深海に保管するのでなく、炉の中で消滅してしまう方法に本腰を入れようとしないのか?

化石燃料に頼っているばかりでは、ますます地球環境は悪化するばかりです。

地球存続に一番よいのは原始生活に戻ることですが、人類がそんなことを出来るわけありません。

かつて、片山恒夫先生と話していたのですが、「一生懸命歯の治療やっていて、隣に原爆が落ちたら何にもならんではないか」となり、「歯医者は原爆を無くす方法は何かを考えながら治療せねばならない」との結論でした。

「上医は国を治し、中医は人を治し、下医は疾病を治す」と言われてますが、歯医者も医者だとすると、上医の歯科医の治療法とはどんなものなんでしょうかね?

ここまで第4世代原子炉の中から「トリウム」を原料とする「トリウム溶融塩炉」について述べてみた。

確かに多くの利点があるが、欠点がないわけではない。その第一のものは、 すべての新型炉の技術は創始期の原子炉運用者の経験が少ない場合に危険性がより大きいことである。

原子力工学者のデイビッド・ロッシュバウムは「ほとんどすべての種類の核事故は当時の先端技術で起こっている」と説明している。

彼は「新しい原子炉と事故の問題は2重である。予測実験で計画できない筋書きが起こることと人間のミスである」と主張する。

そして、技術面においても、配管の腐食による脆化や、使用済み燃料に含まれるタリウムの同位体が放出するガンマ線の処理など、解決しなければならない課題が残っている。

NPO 恒志会

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