健康と歯科

加藤武彦:横浜市開業・歯科医師・加藤塾(全国訪問歯科研究会)主宰

Matsuda
koushikai
5 min readNov 15, 2017

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私はこのようなテーマで原稿依頼を受けたのは初めてです。

考えてみれば、歯科が存在する意義は、「口から食物を食べ、栄養として取り入れ、体の健康に寄与する」学問なはずです。

ところが、今の歯科医学・歯科医学教育を見るに、いかに歯牙や歯周組織を治療するか、その治療方法を言い換えれば、「作り方教室」に終始している感は否めません。先端技術と称して CAD/CAM やインプラントが、商業雑誌を賑わせているのが現状です。

現在の超高齢社会において、我々歯科界が求められている最近の考え方は、「オーラルフレイル」というものです。

これは、今まで健常に食べられていた人が、「口から食べることに少しの異常をきたし、硬いものが食べられなくなったり、むせや、滑舌の低下」 などが起こり始めた時に、その歯科治療をしっかり行い、機能低下をしている口腔を、口腔ケア・口腔リハビリそして食生活・栄養の指導を行ったうえで、従来の健康体に戻して差し上げる。

そのことが、いわゆる「要介護・寝たきり」を予防することに通じ、ひいては「健康寿命の延伸」に通じるという「介護予防」が重要なテーマです。

また、それ以上に症状の進んだ患者さんには「かかりつけ歯科医」として、今まで診ていた人が来られなくなったら、診察に行って差し上げ、 食べるところまでを見ることが、社会から求められております。

この様に、来院出来ない患者さんは、多かれ少なかれ、認知症の方もおられます。歯科医学教育の中で、認知症や障害者に対する教育がされている学校・学部は少ないと聞いております。

認知症の末期になれば、義歯を外して呼吸管理が主になることもありますが、施設や家族から依頼される患者さんの多くは、義歯を 入れ、口腔ケアをして食べられるようになれば、元気になれる程度の認知症の方が多いです。

私の経験でも、義歯治療の結果、食べられるようになることによって、健康の回復はさることながら、今まで介護者を困らせていた、BPSD(周辺症状)がぴたりと止り、介護が楽になったと家族から喜ばれた症例は多くあります。いかに口から食べることが体の健康だけでなく、精神的安定をもたらすかということだと思います。

それともう一つ大きな問題は、食べたいがために作ってもらった義歯が、落ちたり浮き上がったり、噛むと痛いといって使えない、そして、とどのつまりは、食事のときに外していることであり、そのことについて、私のところにNHKが取材に参りました。

その原因の一つが、80年前の高齢者の顎堤が十分にあった時代の、ギージー歯槽頂間線法則で、今なお29校の歯科大学が教育していることです。

今の100歳高齢者は、下顎はまっ平ら、下顎のアーチに対して上顎のアーチが小さい、これに歯槽頂間線法則で人工歯を排列すると、舌房が狭くなり「耐えられない」義歯になります。

このような体験から、エディンバラ大学のワット先生などが唱える「天然歯が元々あった位置」に人工歯を排列する「ニュートラルゾーン理論テクニックによるデンチャースペース義歯」に作り変え、患者に喜んでもらっています。

大学教育も時代の変化に合わせて、変わってもらいたいものです。

また、歯科大学実技教育の軽視による、手の動かない歯科医が多くなっていますが、医科・介護界から「この人を食べられるようにしてください」と言われたときに、その場で床を伸ばし、吸着をもたせたうえで、咬合調整を行い、食べるところまで見る診療が出来なければならないと思います。

私の提言

1.大学は国家試験だけを目標とせず、臨床に出て役立つ歯科医を育てるために、実技実習の教育に力を入れてもらいたいと思います。

2.そもそも、大学とは「勉強の仕方」を教えるところだと思いますが、卒業後の長い臨床経験を、常に自分の資質の向上に役立てる必要があり、「良く観察」をし、「良く考える」ために、レントゲン一枚をシャープに撮影し、10年20年後にもあせない現像をしさらに写真で症例をしっかりと記録し、その治療の結果を検証出来るような教育をしてもらいたいものです。

3.各県の歯科医師会や同窓会の講演会のテーマは、大学教育では手のまわらない介護や認知症などの問題など、社会が必要としている喫緊のテーマを取り上げて欲しいです。

4.また、新卒の歯科医の就活時の選定基準は、上記のような記録をしっかり取った臨床を行い、良く指導してくれるところを選ぶべきです。 最初に勤めたところにより、その人の人生が左右されると思います。

以上、55年の臨床経験から、歯科界及び歯学教 育がこうあってほしいと述べさせていただきました。

このようなことが、「歯科と健康」に私は通じると思うからです。

NPO 恒志会

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