「日本食養論」 中原市五郎

「食養」の重要性を早くから説き、歯科医師が果たす役割にも触れた慧眼の一冊

Matsuda
koushikai
5 min readJan 18, 2018

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日本歯科大学学内校友会 志賀 博

中原市五郎 銅像

『日本食養道』は、中原市五郎先生が昭和12年(1937)10月1目に石塚食養研究会から発行されたものであり、下記の三幅で構成されています。これを読み解くことで、中原市五郎先生がいかに早くから食養の重要性に着目していたかをうかがい知ることができます。ここではその概要を紹介します。

第一編 学童正食会報告

  1. 国民体位改善と食養

体位(体格や運動能力、健康状態 など)低下の原因が食べ物とその摂り方であること、日本の気候風土に適し、日本人の体質・精神・生活に合った食養の原則を確立し、国民全体に普及することが体位改善には重要であることが述べられています。

2.石塚氏の食養会と予との関係及び 食養会の主張

日本人の主食物は米であり、栄養価が十分である粳(うるち)玄米が最も良いこと、また穀物6、菜果3、肉魚1の割合が最も適当であること、野菜はアルカリの供給者で、これにより内臓諸器官が完全な生理的作用を営むことができること、海藻類は新陳代謝を盛んにすること、漬物は野菜の中のビタミンを破壊せずに加工されていることが述べられています。

3.学童近視眼の矯正

学童の近視眼の増加が問題となっており、原因として諸説があるが、近視が不完全な食生活によって生じ、またそれは正しい食生活によって改善するということを立証するために、学童正食会を企てたことが述べられています。

4.正食会の準備及び献立表、調理法

地理的利便性の高い2校の小学校の近視児童各20名に、石塚氏の食養法に基づいた朝昼夕3食とオヤツの計4食を昭和12年5月から7月までの3ヵ月間提供したこと、この間、飲食物はすべて日本歯科医専食堂か食養会本部にて用意したものを摂ること (日曜のみオヤツと夕食を自宅へ持ち帰らせる)、副食は主食の1/3とし、1口につき80回噛むことなど、さらに主食と副食の詳細についても述べられています。

5.正食児童の体位、視力、体質、性質の変化及び家庭生活に及ぼしたる影響

全員の身長、体重が増加し、頚部リンパ腺、扁桃腺、アデノイド等の腫脹も減衰もしくは消退していたこと、近視に関して、全員が改善もしくは治癒したこと、さらに呼気延長、誹腸筋痛の軽減、挙動の落ち着き、寝起きの良さ等を含む好成績を記録したことが述べられています。

6.児童の感想

正食会が児童にいかなる印象を与えたか観察するため、自宅で食物や特に菓子を食べないよう注意するとともに、正直に感想を記録させたところ、「黄色いご飯がまずそうだったが、噛むごとに甘い味がした」「寝床から時計が見えるようになった」「顔色がよくなり目が大きくなった」「声が大きくなった」「菓子を食べたのがすぐ見つかった、以降食べなかった」などの感想があったことが述べられています。

7.結語

学童正食会が正しかったこと、正しい食生活を実施し頑健な肉体と強固な精神を保持することが大切であることが述べられています。

第二編 食養と歯(食養会会長就任講演)(昭和12年4月3日)

正しい食養により健康を回復・維持できること、また今までの医学は、病気をしてから治療するほうにばかり力を入れて、病気にかからないようにしようとする方面は割合に看過されていることから、歯科医師は予防医学のリーダーとしてその責務を果たさなければならないこと、今後も国家国民の心身改造のために尽力していく所存であることが述べられています。

第三編 歯科医と食物

歯を持つ動物は生命維持のために歯の機能を用いること、固形食物は歯の機能の作用により栄養となるべきものであり、可及的人工的に細粉して食養すれば栄養となるという考えでは健康を維持できないこと、また、歯科医師の職務は、歯牙口腔の疾病を治療し、保存補綴を行い、歯科衛生を実施していくこと、歯科医師の義務と権利は、食物に関する知識を修養し、その習得せる知識を実行し、また社会に知らしめ、人々を指導していくことで家庭の和合・社会の平和を図ることであることが述べられています。

中原市五郎:慶応3年、信濃国伊那郡下平村(現・長野県駒ヶ根市)に生まれる。11歳で旧松本藩御殿医であった戸田義方に入門し医学を学ぶ。16歳で上京し九段で開業している歯科医岡田三百三に弟子入りし歯科技術を学び、22歳で歯科医術開業試験合格、岡田三百三の診療所を購入して開業した。 その後東京市麹町区議会議員に当選。1907年に共立歯科医学校を設立し、1909年(明治42年)には日本歯科医学専門学校と発展させた。

歯科治療用器械や、補綴用装置、特に咬合器の改良、発明に熱心であったとされる。

日本食養論の一節

天地自然の原則も風土気候の関係も顧慮せず、試験管の中の分析のみを標準として外国人も日本人も一緒にしています。
衛生学者は経済生活を念頭に置かず唯栄養のみを教えます。
この誤った食制を正しき道へ引き戻し我国の気候風土に適し、日本人の体質、精神、生活に合った原則を確立し国民全体に普及
しなければ、他の保険運動はすべて基礎工事のない高層建築と同様、戦争と言う地震がくれば全ては瓦礫の如く崩壊してしまいます。
故に旨い物なら何でも良い、栄養分は肉と牛乳と魚と卵だという様な考えや、消化が良いから病人にはパンを食べさせろ、といった様な考えを今一度よく検討して見てその誤りを正すことが現在の急務であると信じます。

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