日野原先生の「謎の言葉」

Matsuda
koushikai
Published in
4 min readAug 17, 2017

日経メディカルのインタビューで、佐藤綾子氏(ハリウッド大学院大学客員教授)は、今年105歳で亡くなられた日野原先生の思い出から、「2つの謎の言葉」について語っておられる。

日野原先生とのお付き合いのきっかけは、聖路加国際病院で立ち上げようとした「医療パフォーマンス学会」の先駆けとなるシンポジウムに、すでに「パフォーマンス学」を提唱し研究していた佐藤氏をシンポジストとして要請したことであった。

このシンポジウムは成功を収めたにもかかわらず、翌年以降は残念ながら開催されることがなかった。

日野原先生はパフォーマンスという言葉が大変気に入っていたようで、ご自身の著書「癒しの技のパフォーマンス」(春秋社、1997年)に次のようなことが書かれている。

私はパフォーマンスという言葉が好きなのですが、これは、音楽の演奏(パフォーマンス)で言えば、音楽家が、音楽についてのいろいろな知識、理論を勉強し、演奏のためのテクニックを身につけた上で、舞台で実際に楽器を演奏したり歌ったりする、そしてそれに対して聴衆がいろいろな反応をして、それがまた演奏にフィードバックされることでもあります。
私は、医療があらわれる現場では、医師や看護婦と、患者が、共同でこのようなパフォーマンスを行っているのだと思います。医師や看護婦が、医学や看護を実践する、そして、患者や家族が積極的に医療者と一体となって、医療に関与するのです。

そして、佐藤さんに対して、「佐藤さんは兵隊の位を付けないからダメなんです」

意味不明に感じた佐藤さんは、どういうことですかと尋ねたところ、

佐藤さんは、自分の会社や組織で、がんばった人をきちんと評価したり、遇したりする仕組みを作っていますか。能力がある人、業績をあげた人をきちんと評価しないと、組織は伸びません。佐藤さんがやりたいことも実現できません。軍隊には、兵隊に階級を厳格に付けて、がんばった人を引き立てる仕組みがきちんとできています。兵隊の位(くらい)とはそういうことです。

とお答えになったそうだ。佐藤氏は、その後組織のなかで、人の仕事を評価する意識を持つようになったということだ。

また、ある日、

人が手を広げて一人で作れる円は小さな円。みんなで手をつないで作れば大きな円になります。人は大きな円(ラウンド)の弧(アーク)であれ

と言われたが、佐藤氏は素直に「個人がどんなに才能を持っていても、一人では何もできない。みんなで手をつなげば、一人ではできないことも成し遂げられる……という意味だとその時は理解したのですが、もっと深い意味があったと述壊しています。

すなわち、円と弧の話は、1800年代のイギリスの宗教詩人・ロバート・ブラウニングが残した「アプト・フォーグラー」(アプト・フォーグラーは当時の英国の作曲家)というタイトルの詩が原点のようで、その詩の中に、「地上では欠けたる弧、天上では全き円」という言葉がありました。

自分が地上にいる間は短く水平に近い弧に過ぎない。巨大な円の完成は、他の仲間たちや後輩たちの弧を合わせて完成するという意味だったと。

現世の一人の人間のなしうるものは小さく不完全なものだが、いつの日にか、そういう人たちの力が重ねられ、繋ぎ合わされ完成し、大きな円になる。

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