睡眠と口腔機能

Matsuda
koushikai
Published in
4 min readOct 24, 2017

ここ数年、睡眠や睡眠時無呼吸症候群(SAS)が取りざたされることが多くなっています。

医学界のみならず経済界でも問題になっています。

昼間の眠気が大きな事故につながる危険性が高いというだけでなく、日常生活のQOLの低下、仕事効率の低下による経済的損失、また全身の病気と深く関係していること、さらに未治療の場合の生存率に大きく影響していることも明らかになっています。

睡眠時無呼吸症候群とは、「寝ている間に呼吸が止まる病気」で、眠りに入った後、舌が奥の方に落ち込んだり、喉周辺の筋肉が緩むことで、空気の通り道が狭くなるのです。

そして、この状態で息をすると音が出ます。これが「いびき」です。

患者さん自身が SAS に無自覚なまま生活している場合が多く、現在日本での SAS の有病者は200~300万人以上とも言われています。

この疾患に対処するには歯科と医科の連携が必須であり、また歯科は早期発見につなげることのできる唯一の臨床現場であることから、歯科にとって、対岸の疾病とはもう言えない、看過できない状況になっています。

今回のフォーラムの要旨をまとめました。

「病は夜作られる ー睡眠医学と歯科医科連携ー 」

茨城県立こころの医療センター病院長 土井永史先生

寝たきりあるいは要介護を余儀無くされる状態を引き起こす病気Aを発症するには様々な要因があるが、その要因を見落として、対症療法を行っても、病気が治らないだけでなく、新たな病気Dを誘発してしまったり、病気Aを悪化させてしまう可能性がある。

病気Aとは、高血圧、糖尿病、心筋梗塞、心房細動、うつ病等の精神疾患、または逆流性食道炎のことであり、新たな病気Dとは脳梗塞や脳出血のことである。

いずれも日本ではありふれた病あるいは生活習慣病である。そしてこれらの病気を誘引する要因とは睡眠時無呼吸症候群だとしている。したがってSASを正しく診断し治療すれば、多くの疾患(高血圧、脳卒中、多血症、不整脈、逆流性食道炎など)が改善される可能性が期待される。

それではSASをきたす要因は何かというと、多くの場合肥満と考えられてきたが、そうではなく、上気道狭窄(小顎症、下顎後退などの先天性の形態因子や、扁桃腺肥大など)であり、肥満は二次的要因あるいは増悪因子に過ぎない。肥満でないからといってSASを見過ごしてしまうことは要注意である。

SASは「ありふれた病」「隠れた病」そして「万病の元になる病」であり、「糖尿病」「脳卒中」「心筋梗塞」「精神疾患」は全てSASの下流あるいは隣接にある疾患である。

とりわけ「精神疾患」においては、SASが見落とされ、「アルツハイマー型認知症」「うつ病の遷延化」「統合失調症の重症化」と誤診され無益な治療が行われる事例が散見される。

SASの早期発見と早期治療こそが、現代における疾病に対する最大の医療課題であろう。

歯科医療の現場は、単に虫歯の治療を行うだけの場ではない。

SASの下流に位置する疾患が顕在化し重症化する以前の段階でSASの疑わしい事例に遭遇し、早期発見に繋げることのできる唯一の臨床現場なのである。

なぜなら、年少者から高齢者まであらゆる年代の、しかも上記疾患を必ずしも合併していない人の口腔内をじっくり観察し、下顎後退の有無、軟口蓋・舌の高さなど上気道の状態を評価できる場なのであるから。

しかも、スリープ・スプリント(マウスピース)作成、歯列拡大矯正などを通して、その治療を提供する場でもある。

次回は「閉塞性睡眠時無呼吸OSAに対する歯科の役割」 外木守雄先生

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