EBMについて

Matsuda
koushikai
Published in
5 min readNov 19, 2017

EBMはEvidence-Based Medicineの略であり、日本語では“根拠に基づく医療”のことです。現在利用可能な最も信頼できる情報を踏まえて、患者さんにとって最善の治療を行うということです。つまり、EBMとは医療を円滑に行うための道具であり、行動指針と言えます。

EBMには5つのステップがあります。

step 1疑問(問題)の定式化:患者から生じる疑問や問題点をわかりやすい形に整理する過程。疑問をPICOの形にすることを疑問の定式化と呼びます。

· Patient:どんな患者が(中年男性の高血圧患者が)

· Intervention:ある治療・検査をするのは(降圧剤を服用するのは)

· Comparison:別な治療・検査と比較して(服用しないのと比べて)

· Outcome:どうなのか(脳卒中の発生率が減少するか)

PICOで定式化した問題は、どのような種類の問題かによって、疑問のカテゴリーが決められます。

問題のカテゴリーには、以下のようなものがあります。

1.治療 2.予防 3.頻度 4. 診断 5.予後 6.病因・危険因子 7. 害・副作用

step 2定式化した問題を解決する情報の収集

step 1で定式化した疑問を解決すると思われる情報を探します。

情報源としては、教科書、研究論文、2次資料、専門家の意見、学会・講演会、インターネット、マスコミ、患者からの情報など、様々なものが挙げられます。それぞれに長所と短所があります。
原著論文を検索する場合は、(動物実験ではなくて)実際にヒトを対象とした研究でないと、直接は目の前の患者の診療の参考にできないため、(基礎研究ではなくて)臨床研究論文を検索します。また、Step 1で分類したカテゴリーによって、最も信頼性の高い臨床研究のデザイン(=研究手法)が異なります。従って、検索の際には,それぞれの疑問に最も適した研究デザインの臨床研究論文を探す必要があります。

step 3得られた情報の批判的吟味

step 2で得られた具体的な情報(主に論文)の評価を行う。

医学研究には、その計画からデータ収集、解析、報告に至るまで、さまざまな形で結果に影響する要因(バイアス)が存在する。その有無を適切に評価した上で、その研究結果をどれだけ信頼できるか(内的妥当性)、どれだけ他のケースに応用できるか(外的妥当性)を判断します。医学的な知識はもちろんのこと、臨床疫学や統計学の知識が求められます。

step 4批判的吟味した情報の患者への適用

step 2、step 3で得られた情報を目の前の患者にどのように利用していくかを考えます。

エビデンス(=治療法や検査法などが有効であるという情報)があれば全てそれを患者に使わなくてはいけないというわけではありません。臨床研究論文のエビデンスに組み入れられた患者が、目の前の患者と似た背景を持つとは限らないからです。このように、step 2、step 3で得られた情報の元となった患者集団と、目の前の患者の背景がどれだけ似ているかを検討することを、外的妥当性(適用可能性)の評価と呼びます。
また、治療法や検査法が優れているか否かというだけではなくて、患者の考えや思いがどういうものなのかということも重要です。有効な治療法がありながら、それを敢えて使わないという選択肢もあるわけで、患者と話し合う中で決めていくのが原則となります。

step4で情報を患者に適用する際には、エビデンス、患者の病状と周囲を取り巻く環境、患者の好みと行動、医療者の臨床経験の4つを考慮すべきとされています。したがって、EBMを実践して、患者にどうするかを判断する際には、エビデンスだけでは決まらず、他の要素も考慮するために、しばしばエビデンスの示すものとは異なった判断をすることがあります。決してエビデンス通りの判断をすることがEBMではないのです。

最終的に患者と共に診療行動を決定するというこのstep 4が,EBMの5つのstepの中で最も重要なのです。

(治療法や検査法が優れているか否かというだけではなくて、患者の考えや思いがどういうものなのかということも重要です。有効な治療法がありながら、それを敢えて使わないという選択肢もあるわけで、患者と話し合う中で決めていくのが原則)

step 5step 1~step 4のフィードバック

step 1~step 4でたどってきた道をもう一度振り返ります。

自分の医療行為で目の前の患者はどうなったか?改善すべき点はなかったか?あるとすれば、どのように改善すれば良かったか?などといったことを考えます。

EBMに対する誤解/多くの場面でEBMは誤解を受けています。そのために、EBMは一つの流行で終わってしまうのではないかという危惧も。

「EBM」と「エビデンス」を混同している。

統計学的有意差と臨床上の有意差が同じであるという誤解。

「EBMを実践すること」と「エビデンスを当てはめる」ことは同じであるという誤解

ランダム化比較試験がなければエビデンスがないという誤解

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EBMに則った考え方は徐々に浸透し、有効な臨床結果を集積した論文集や教科書が出版されるようになり、現在ではEBMの重要性に疑問を持つ医療者はいないでしょうが、情報をたくさん仕入れてエビデンスを知っても,それを患者にどう使えばいいか分からなければ情報を知らないのと変わらない。つまり, EBMはエビデンスを個々の患者にどのように当てはめるのかを考えるStep4が最も大事なのです。

NPO 恒志会

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