Precision Medicine

Precision Medicine(精密医療)とは?

Matsuda
koushikai
8 min readNov 20, 2017

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2年前私たちは、第10回創健フォーラムにおいて、「細菌叢とメタゲノム」をテーマにした講演会を開催しました。

講演会の中で私たちは

☆細菌叢の遺伝子と細菌情報を同時に網羅的に収集するメタゲノム技術が2004年に開発され、さらに近年における次世代シークエンス技術(NGS)の革新的な進歩がなされたこと。

☆2008年にヒト常在菌叢ゲノム(ヒトマイクロバイオーム)研究の国際コンソー シアム(IHMC: International Human Microbiome Consortium)が立ち上がり、とくに腸内細菌叢研究は一気に世界的に加速したこと。

☆その結果、ヒト腸内細菌叢の生態及びその生理機能について多くの新知見が得られ、これらの研究から、ヒト腸内細菌叢がこれまでの想像を越えて多様かつ密接にヒトの病態と生理状態に関係することが明らかとなってきたこと。

☆腸内細菌叢のバランスの異常が疾病につながると想定されるのであれば、それらの疾病おいては腸内細菌叢の改変が根本治療の可能性を担うのは食事であり、日々の食生活や日常生活が重要であること。

等々に触れました。

そして、近い将来、現在の医療の主流であるEBM(根拠に基づいた医療)から更に進んだオーダーメイド医療(オーダーメイド医療は和製英語)が確立される可能性があるのでは、と思わずにはいられませんでした。

しかし、その端緒は現実にすでに始まっていたのです。

Precision Medicine(精密医療)とは、患者の個人レベルで最適な治療方法を分析・選択し、それを施す医療。最先端の技術を用い、細胞を遺伝子レベルで分析し、適切な薬のみを投与し治療を行う。2015年1月20日のオバマ アメリカ合衆国大統領の一般教書演説において、“Precision Medicine Initiative”が発表され、世界的にも注目されました。

Precision Medicine (精密医療)と類似した言葉として Personalized Medicine(個別化医療)がある。

Precision Medicineとは、いわば各個人に応じたオーダーメイド医療であり、これまでの医学では、ある疾患にはこの治療という型にはまった治療法しかなく、その治療法が必ずしも効を奏するとは言えませんでしたが、医学とりわけ遺伝子解析研究の進歩により各個人に最も適した治療が可能になってきました。

特に、がん患者のがん遺伝子を調べ、選択的な治療薬の投与を行い、乳がん、肺がんなどで実績を上げています。一方、効果の期待できない薬の副作用を回避できる反面、遺伝子検査を受けても対応できる薬が見つからない場合も出てきます。

しかし、現在では薬の開発から1 − 2年という短期間で臨床試験に移行することも多くなり、診断時に薬が見つからなくても時間の経過とともに、新薬が開発・使用される可能性も出てきました。

米国のある大学では遺伝子検査を受けた患者さんとコミュニケーションを取り、ケアを行うメディカルコンシェルジュという職種も存在しています。

Obama大統領の2015年の一般教書演説「今夜、私はがんや糖尿病などの病気の克服を実現化し、我々の健康を維持するために必要な個別化情報にすべての国民がアクセスするための新しい方策「Precision Medicine」イニシアチブを立ち上げる。私は、ポリオを克服し、ヒトゲノムを解き明かした国(米国)が、新しい時代の医療 ー 適切な時に適切な治療を患者に届ける医療 ー を牽引することに期待する。」

それ以前にもアメリカでは、バイオテクノロジーに基づき患者の個別診断と、治療に影響を及ぼす環境要因などを考慮し、数ある医療方法から患者に適した治療法を抽出・提供する考え方(Personalized Medicine )がありました。しかし、患者1人1人に適した治療法を検討・提供することは、極めて有効な医療方法ですが、同時に医療費の高騰につながり、これまで以上に高額な医療費を負担できる富裕層のみが享受できうるものでした。

いわゆるオバマケア(医療保険制度改革)や医療費高騰抑制施策などの医療制度改革を推進するアメリカ政府にとって、この医療をすべての国民に適用させることは、医療コストの増大を意味し、費用対効果の観点からは極めて非効率であるのに対し、Precision Medicine は、患者を“特定の疾患にかかりやすい集団(subpopulation)”に分類し、その疾患集団ごとの治療法や疾病予防を確立し提供するもので、費用対効果で優位であり、富裕層のみならず広く中間層や低所得者層へも効果が及ぶもので、医療制度改革の一環として登場しました。

しかも、この Precision Medicine が広がれば、さらなる産業の活性化を引き起こし、米国の経済再生にさらに大きく貢献することが確実であると言われています。

Precision Medicine は「精密医療」と訳される場合もありますが、まだ一般に認知されたネーミングではありません。個人の遺伝子情報などを含む詳細な情報を基に「より精密な対応を行う医療」という意味と捉えると、個別化医療(予防・先制医療を含む)、あるいはゲノム医療の延長線上の概念と考えるほうがわかりやすいでしょう。

Personalized Medicine (個別化医療)は、ヒトゲノム情報などを用いて、疾患への罹患性や薬物感受性等の遺伝子多型情報を基に、個人に適した治療を提供することを目指した医療です。近年、次世代シークエンサー(Next Generation Sequencer : NGS)解析などの著しい進歩により、個人ゲノムやその他の生体分子情報が精密・迅速に分析されるようになり、疾病の原因や発症の過程や薬剤適合性の有無などが分子レベルでより詳細に理解されるようになってきました。

つまり、これまでの医療は疾患中心であり、疾患の原因を探索したり、その治療法を開発することが主な目的でした。 しかし疾患の状態は個々人で千差万別であり、同じ病気であっても同じ治療法を適用することが必ずしも正しいとは言えないことが以前より知られてきました。 しかし、そのような治療効果の個人差は治療とその効果を観察しなければ分からないものであり、個々人に最適な治療計画を行うことは難しいからです。しかも、行った治療や薬が適正でない場合は、病は癒えずかつ要した費用が無駄になるわけです。

一方、ヒトゲノム計画によるDNA配列の解読や個々人で異なる一塩基多型 (SNP) の特定、DNAマイクロアレイなどによる大量の情報を瞬時に取得できる技術の発達によって、ある個人が他人とどのように異なるかを観測できるようになってきました。そこで、これらの情報を利用して、患者個人に最適な治療方法を計画するオーダーメイド医療が可能になってきたのです。

具体的には、ある治療薬がその患者に有効であるかどうか、あるいは投薬量や副作用についても見積もることで、どの治療薬を用いるのが正しいか、どの程度の投与を行うかといったことが分かるようになるのです

日本においては

2015年、国立がん研究センター東病院をはじめ、全国200以上の病院と15の製薬会社による、「SCRUM-Japan」というプロジェクトが始められました。進行した肺がん、消化器がんなどを中心に、がん細胞の遺伝子変異を分析し、もっとも効果が期待できる薬の投与を行います。患者3000人が参加、うち3分の1の患者に薬が効く可能性がある遺伝子変異が見つかり、約100人が臨床試験に入りました。参加する施設は全国への広がりを見せています。

検査にかかる費用

Precision Medicine(精密医療) を行うには、遺伝子検査が不可欠です。そして、Personalized Medicine (個別化医療)に比べて、「費用対効果が優れている」といっても、遺伝子情報に基づく検査や治療で保険適用されているものは、ほとんどないのが現状。 複数の遺伝子異常が一度に分かる網羅的ながん遺伝子検査は、ほぼすべてが公的保険の対象外で、検査費用は40~100万円と言われています。

ただし、国立がんセンター等は無料(臨床試験扱いとなるため参加製薬会社が負担)。

NPO 恒志会

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