メディアによる歯科 ”アドバイス” の危険性

Elise Sarvas, DDS

この春は幸先の良いスタートをきりました。乳歯について、「乳歯がある間にどのようなケアが大切か」という記事が発表されたのです。

通常、口腔の健康ケアのことが見出しになることはあまりありません。大抵ニュースとしてとりあげられるのは歯科に何か大きな問題があるときのみです。

この見出しには、小児歯科医および公衆衛生の研究者として、大変うれしく思いました。口腔の健康に関する情報を一般の人々に伝え、同時に歯科医療に関する多くの誤解を正すのになんと素晴らしい手段だろう、このようなことがもっと必要だ、と思いました。

しかし、他にも歯科に関する記事が出ましたが、論調が違っていました。記事の著者は、目新しいものではなく、古くからの「歯科医は悪である」という言い回しに戻ってしまいました。「フッ化ジアミン銀(SDF)により、ドリルでの治療は不要だ!」「毎年、レントゲンを撮る必要はない、あなたは歯科医にだまされている!」 「フロッシングは過大評価だ!」

私たちは歯科医の固定観念から長い間逃れられなかったということを私は知っておくべきでした。

こうした見出しは間違っているわけではありません。フッ化ジアミン銀(SDF)は米国の新薬であり、ある種の小さな虫歯を治せるという大きな期待がよせられています。誰もがX線とフロッシングという不快で退屈な古い慣行を覆すような論争を巻き起こしたいと思うことでしょう(特にフロッシングについて)。

ですから、新聞雑誌の記事は、年に2回、歯科医を叱責するための恰好な手段となったのです。2016年の夏が終わる頃には、新聞雑誌により歯科医は再び悪者へと引き下げられました。

これらの記事を、歯科医として、私は非常に心配しました。その理由を明確にするのに数日かかりました。

私が最も問題視しているのは、これらの記事の信憑性が疑われるということではなく(フッ化ジアミン銀(SDF)が歯の形と機能を回復させることができないと言っているのではなく)、また、漠然と誤解を招くような情報であるということでもありません(歯科医はX線の照射時間だけでなくさまざまな要素に基づきその頻度も決定している)。また、証拠に乏しい研究であるということでもありません(フロッシングの利点についてのテストが容易でないだけであって、フロッシングにより虫歯や歯肉の疾患のリスクは下がらないと言っているわけではありません。)

私が問題視しているのはこうした記事により、最も社会から取り残された人々に不当な害を及ぼす口腔の健康に関する情報が永続してしまうということです。

米国では、虫歯は隠れた慢性疾患なのです。最も一般的な幼少期の慢性疾患です。 — — 幼稚園に入園する子供の60%は少なくとも1本の虫歯があります。

しかし、その程度は均等ではありません。最も深刻な虫歯を抱えるのは一部の子供達です(虫歯の80%は4分の1の子供達が占めます)。そして、最も深刻な影響を受けるのは貧困層や有色人種の方々です。治療しなかった歯科疾患は深刻な痛み、話し方への支障、食べることへの支障、自尊心の低下、歯の早期喪失、歯周病、QOLの低下、歯性感染、膿瘍、更には死に至ることもあります。このように歯の疾患は危険です。しかし、一方で、完全に予防可能です。

先ほどの記事は低リスクの人を前提に書かれているのに、それが全ての人に適用されてしまうことが問題なのです。全ての人に適用することは不可能であり、そうしてはなりません。歯の疾患の原因は多因子性であり、個人個人で異なり、有色人種と社会的地位の低い人々が影響を受けます。

歯の疾患発症のリスクが低い人々にとっては、これらの記事は理に適うかもしれません。しかし、虫歯のリスクが高い人にとっては当てはまりません。

これらの記事の主張に反し、虫歯のリスクの高い子供達ではフッ化ジアミン銀(SDF)を用いても既にある大きな空洞は治せません。虫歯になりやすい人達にとっては問題が深刻化するのを防ぐためにX線をもっと頻繁に照射せねばならないかもしれません。

さらに、高リスクの人達にとって、フロッシングは低コストで痛みを防ぎ、高価な治療を不用とさせるかもしれません。こうした歯の処置の重要性が矮小化されることにより、必要なケアが手遅れとなり、小さな虫歯が致命的な感染症に進行する可能性もあります。そして、高リスクの人達は不必要に苦しみ続けるかもしれません。

これらの記事は、個人の健康リスクを考慮せずに、ファーストフードは「常に」健康に悪いという概念を「払拭」することに似ています。通常の好ましい食習慣の人がたまにチーズバーガーを食べても基本的には無害ですが、ファーストフードが主食となる食習慣は不健康です。

心疾患のリスクが高い人にとっては、こうした健康「指導」は過度に危険です。医療専門家からのアドバイスでなく、メディアからの派手なアドバイスを取り入れることは致命的な結果をもたらす可能性があります。

真に危険なのは、こうしたメッセージが時代精神に浸透するときです。なぜなら、既に重い健康負担を経験している人達に思わぬ害を及ぼす影響力があるからです。

新聞雑誌の記事は、歯の健康を促進し全身の健康の正当化へつなげる上で、効果的、効率的な方法です。今後、書き手は固有の傾向(偏見)、すなわち情報を濾過する特権的なレンズを認識すべきです。それらにより発信される医療アドバイスはどのような影響を与えるのかということを認識すべきです。

記事は、読み手がとびつくような危険な餌を提供するのではなく、患者と歯科医の関係を親密にし、促進させることを目指すものであるべきです。そうでなければ最も脆弱な状態にある人々へ悲惨な結果が及ぶことでしょう。

Translated by Yukiko Ogata


NPO 恒志会
学び合う医療 支えあう医療 ほんまもんの医療
http://koushikai-jp.org
One clap, two clap, three clap, forty?

By clapping more or less, you can signal to us which stories really stand out.