片山先生への想いそしてケアの心

会員便り

Matsuda
koushikai
6 min readOct 9, 2016

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米山 武義:会員

2007 恒志会会報 Vol.2 より

はじめに

私は沖 淳先生を通して片山先生にお会いする事が出来ました。そして、初めてお会いしたのは、豊岡の診療所というラッキーな男です。そこで、片山先生が翻訳されました WESTON A. PRICE 著「食生活と身体の退化」に出会ったとき、片山先生がとてつもない歯科界の巨人であることに圧倒されたことを覚えています。それ以来、地に足のついた地味な仕事を生涯の中でやり遂げたいという希望が湧いてきました。あれからかなりの年月が過ぎましたが、何一つ進歩がありません。

しかし、片山先生の肉声がまだ脳裏に強く焼きついておりますので、形として見えないですが犬きな後押しとなっている気がしてなりません。本稿では、最近感じていることを稚拙な文章ですが書かせて頂きます。

歯科医療は、技術偏重型の医療?

私は歯科大学在学中、補綴学の実習が大好きであり、一方苦手でした。どういうことかというと、物を作り出す工程は非常に刺激的であり創造的でしたが、その製作物に対しての評価が厳しく、臨床経験が皆無であった私にはその意味がまったく理解できませんでした。

今考えると、当然のことです。歯科医療はそのような経験に裏付けられた、技術の占める割合が非常に高い医療であるといっても過言ではありません。

そのためか卒業後、歯周病科に入局した時は、患者さんに対するプラークコントロールがとても新鮮に感じられました。重度の歯周病のケースでも、患者さんが依頼心を捨て歯周病を治すんだと自分自身で心に決め、生活習慣を見直し、セルフケアを積極的に始めるとみるみるうちに歯肉が改善されていくのです。

こころの中にあるボタンの押し方を教えて差し上げれば、治癒への道が開けてくるのです。

一方、長期にわたってメインテナンスを受けている患者さんでも、一つ悲しい出来事があると、それまでの習慣がいとも簡単に崩れ去ってしまいます。結果、歯周病は再発します。

ですから、からみ合った心の糸を解きほぐすお手伝いをしてあげればいいのです。極論になるかもしれませんが、歯周治療は口腔内科的な色彩の強い医療の分野であると思います。

“人は誰でも心のボタンを持っている”ということを忘れなければ、口腔保健の道は見えてくると思います。

これからの歯科医療人に求められる姿とPOHCの考え方

人口の高齢化が進み、疾病や障害をお持ちの方が急増しています。このことは、健常人を対象としたこれまでの歯科医療では、国民の切なる要望にこたえられないことを意味しています。そして、この傾向は急峻です。

歯科大学、短期大学、専門学校の現行の教育では、国民のニーズに応えられる人材は育てられない可能性があります。このことは何を意味しているでしょうか。

…国民は、旧態然とした歯科医療には尊敬も魅力も感じないということです。現実に在宅や施設、病院で、療養や闘病生活を送っている方々に対し、誠意を持って訪問診療をされている方は、決して多くはありません。

一方、看護師、介護職向けの月刊誌で口腔ケアの特集を掲載しない月はありません。数年前は、“口腔ケア”の執筆者の半数以上は、歯科医療関係者でした。

しかし、今はそれぞれの職種(看護師、介護福祉士)が自前の著者を選び出し、詳細にわたる実践報告をしています。口腔ケアは歯科の独壇場だと間違った認識をしているのは、いまや歯科医療関係者だけです。このミスマッチは深刻です。国民がそれぞれの現場にあった口腔ケアを必要としているのに。

このリクエストに、歯科医療関係者は真剣に応えているでしょうか。
私は、看護師が行う“看護口腔ケア”があってもよいでしょうし、介護福祉士が行う“介護口腔ケア”もあって良いと思っています。ただし、歯科医師、歯科衛生士が行う専門的歯科口腔ケア(Professiona1 0ra1 Health Care=POHC)が中心にしっかり存在していることが前提です。

しかし、残念ながら歯科医師、歯科衛生土自身がこのことの重要性を理解していません。これからの歯科医療人に求められる姿は、他の職種の規範となる口腔ケアを確立し、連携しながら啓発していく人物像であると思います。

歯科衛生士が創るケアの世界

心が開けば、口が開く。口が開けば、心が開く。

口腔は看護の質を表すと言ったヴァージニア・ヘンダーソンの言葉は余りに有名です。それだけ口腔は顧みられていないのです。

1999年の英国医学雑誌 Lancet に「劣悪な口腔衛生は世界中の高齢者において共通する事実である」という論文が掲載されましたが、大変驚いてしまいました。
どこの国でも、高齢者の口腔は護られていないのです。「口は健康(病気)の人口、魂の出口」と言われるように、口腔は肉体と精神の健康と密接に関係しています。

しかし、この「口腔」という領域を歯科と捉えると極めて狭小なイメージを抱きます。医師の多くは、口腔のことにはほとんど関心がありません。

一方、歯科医師は歯のことには関心を抱いても広く口腔のことについては、意外と注意を向けません。ましてや、全身の健康や精神衛生上の健康と口腔を結び付けようという人はほとんどいません。

このことはどういうことを意味するかというと、肉体的、精神的健康と口腔を関連付ける専門家がいないということです。

この現実を考えたとき、歯科衛生士は口腔と健康を結びつける役割を率先して担うべきです。

私は訪問歯科診療で、なかなか口をあけてくれない痴呆のご老人に接する時に、歯科治療が本当に必要だったら口をあけてくれるのではないかと判断し、われわれの価値観を押し付けないことにしています。
無理やり口を開けさせては心を傷つけてしまうと考えるからです。

実際、気長に口腔ケアだけをしていくうち、ある時から急に大きく口を開けてくれるようになり、治療がスムーズに進められたといういくつかの経験があります。歯科治療をスムーズに進めるために緊張感をとる口腔ケアは非常に効果的であり、この役割を担う歯科衛生士の仕事は重要です。

心をそっと開いてもらえるような歯科衛生士の行う口腔ケアは、健常者の健康管理や健康増進においてもその力を十二分に発揮できるのではないでしょうか。

心まで語れる歯科医療人が、今求められています。

米山 武義

NPO 恒志会

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http://koushikai-jp.org

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