First OpenAirInterface North America Workshop 参加レポート

Yohei Motomura
nttlabs
Published in
11 min readAug 8, 2019
Promotional Image by the Official Website of First OpenAirInterface North America Workshop

こんにちは,NTT研究所の本村です.
今回私は2019/06/25–06/27 にNOKIAベル研究所(アメリカ ニュージャージ州)で開催されたFirst OpenAirInterface North America Workshopに参加しました.そこで本記事では,Workshopに参加して得られたOpenAirInterfaceに関する情報をいくつかご紹介したいと思います.

なお、以下の公式サイトでWorkshopにおける発表資料が公開されていますので、興味のある方はこちらも併せてご参照ください.
https://www.openairinterface.org/?page_id=5500

First OpenAirInterface North America Workshopとは?

モバイル網技術に関するOSSプロジェクトOpenAirInterfaceのコミュニティでは,OpenAirInterfaceの最新の開発情報やユースケースの共有,コミュニティの活性化などを目的として年に2回Workshopが開催されてきました(※1).今回私が参加したFirst OpenAirInterface North America Workshopは,北米(アメリカ ニュージャージ州)で初めて開催されたOpenAirInterfaceのWorkshop(第7回)となります.

【過去のOpenAirInterface Workshop一覧 (※1)】

  1. 1st OAI General Workshop, 22 Jan 2016, Bell Labs, Paris, France
  2. 2nd OAI Workshop/Training, 17–20 May 2016, EURECOM, Sophia Antipolis, France
  3. 3rd OAI Workshop, 27–29 April 2017, BUPT, Bejing, China
  4. 4th OAI Workshop, 7–8 November 2017, Orange Gardens, Paris, France
  5. 5th OAI Workshop and Training, 20–22 June 2018, BUPT, Bejing, China
  6. Joint ETSI — OSA Workshop: Open Implementations and Standardization, 11–13 December, 2018, Sophia Antipolis, France
  7. First OAI North America Workshop and Training, 25–27 June 2019, Nokia Bell-Labs, Murray Hill, NJ, USA

今回のFirst OpenAirInterface North America Workshopには企業や大学関係者など,140名もの方が集まり,日本からもOpenAirInterface Software Alliance (OSA)に加盟している企業のメンバーを中心として約10名ほどの方が参加していました.
また,Workshopではキーノートセッション4件,テクニカルセッション20件,デモ展示4件が実施されました.今回はこれらセッションの中でも個人的に興味深かった内容についてピックアップして簡単にご紹介したいと思います.

会場(NOKIAベル研究所)の様子

■ OpenAirInterfaceの概要

Workshopにおけるセッションの内容をご紹介する前に,OpenAirInterfaceの概要について説明したいと思います.

OpenAirInterfaceとはOpenAirInterface Software Alliance(OSA)のメンバーが開発を主導するモバイル網技術に関するOSSプロジェクトとなります.OpenAirInterfaceはモバイル関連のOSSの中でも最大規模のコミュニティを持ち,OSAのメンバーには富士通株式会社(Strategic Member)や京セラ株式会社(Associate Member)など日本の企業も名を連ねているという状況です.また,OpenAirInterfaceは大きく分けると無線アクセスネットワーク(RAN)に関するプロジェクトとコア網に関するプロジェクトの2つで構成されており,現在は両プロジェクト共に5Gに向けた開発に積極的に取り組んでいるようです.今回のWorkshopでは,それぞれのプロジェクトの最新の開発状況や将来的な5G対応のマイルストーンの共有がありましたので,こちらも併せて以下でご紹介します.

◇ 紹介内容1~OpenAirInterfaceの開発状況~

(左) The Basics of OpenAirInterface by Florian Kaltenberger(EURECOM) (右) The OpenAirInterface 5G Core Network by Olivier Choisy and Frédéric Leroy (B-COM)

初日(2019/06/25)のセッションではOpenAirInterfaceの開発状況や今後のマイルストーンについての共有がありました.

○ OpenAirInterfaceの5G対応状況について
日本でもローカル5Gなど5Gに向けた動きが盛り上がっていますが,OpenAirInterfacenのコミュニティとしても5G対応が急務となっており,
無線アクセスネットワーク・コア網共に2020年に向けて5Gの機能開発を進めているようです.まず,5Gのコア網ですが現在は5GコアにおけるAccess and Mobility Management Function (AMF: モビリティの管理機能)やNetwork Repository Function(NRF: ネットワークサービスの管理・検索機能)など個別の機能単位での開発が進められており,2019年末~2020年初頭に初期バージョンをリリースすることを目指しているとのことでした.また,基地局(gNB)についても2019年の秋にはNon-Standalone構成での動作(Phase 2),2020年にはStandalone構成で動作(Phase 3)を目指して開発が進められているとのことです.

無線アクセスネットワーク(RAN)機能の開発マイルストーン

まとめると,OpenAirInterfaceとしては遅くとも2020年末には無線アクセスネットワーク・コア網共に動作するものを提供し,OpenAirInterfaceを用いて5G設備を自営で構築できるようにしたいという意向があるようでした.また,日本では2019年末から2020年にかけてローカル5G向けの帯域が順次開放される予定となっています.もしOpenAirInterfaceの開発が順調に進み,帯域の開放時期に間に合えば,日本におけるローカル5Gのシステム構築においてOpenAirInterfaceも選択肢の1つとなる可能性もあるのではないかと感じました.

The OpenAirInterface 4G Core Network by Lionel Gauthier (EURECOM)

○ OpenAirInterfaceの4Gコア(EPC)の開発状況について
上記のようにOpenAirInterfaceでは5Gコアの開発が積極的に進められていますが,4Gのコア(EPC)についても5GのNon-Standalone構成(option 3)に向けた対応やControl and User Plane Separation(CUPS)構成の実装などの機能開発が進められているようです.というのも,OpenAirInterfaceのコミュニティとしても直近もしくは5G初期段階(Non-Standalone)のユースケースでは4Gのコアを使用することが不可欠との認識を持っており,今後も4G/5G両方のコアを並行して開発していく考えを持っているとのことでした.

◇ 紹介内容2~OpenAirInterfaceのユースケース~

(左) CoLTE: Productizing OAI for Rural and Remote Internet Access by Kurtis Heimerl (UNIVERSITY OF WASHINGTON) (右) Reliable, Cost-effective and Interoperable 5G/LTE Communications for High Speed Passenger Trains in the US by Subharthi Banerjee (UNIVERSITY OF NEBRASKA-LINCOLN)

OpenAirInterfaceを実際にモバイルのユースケースに適用してみたという発表もいくつかありました.

○ 取り組み例1:
インドネシアの町村部にインターネット接続を提供することを目的として,OpenAirInterfaceのコア,BaiCells社の基地局,衛星通信からなる設備を構築して検証を行ったようです.現在は約70名ほどのユーザを実際に収容しながら運用をしているとのことでした.

○ 取り組み例2:
アメリカの高速鉄道の車両と車両の通信にOpenAirInterfaceの基地局を使用し,鉄道運行時の電波状況等の動作を検証したとのことでした.

◇ 紹介内容3~OpenAirInterfaceをベースとしたOSSのEPC実装(Magma)~

A Systems Approach to Access Networks by Amar Padmanabhan (FACEBOOK INC.)

Facebook社はOpenAirInterfaceの4Gコア(EPC)のソースコードをForkし,独自にOSSのEPCであるMagmaを開発しているようです.このOSSのEPCはインターネットがない地域にconnectivityを届けることを主目的としており,オーケストレーターやデプロイ,キャリア連携といったEPC機能を効率良く様々な場所へ配備するための機能や配備済みのEPCを容易に管理できるようにするための機能を優先して開発しているとのことでした.

Magmaの構成: Access GatewayのEPCはOpenAirInterfaceの4Gコア(EPC)を使用

Magmaは基本的に新興国をターゲットとして開発されているようですが,日本においても有効となるケースも多いのではないかと私自身感じています.例えばPrivate LTEやローカル5Gなどのユースケースでは,モバイルキャリアのように高性能・高機能なEPCで多数のユーザを収容する集中管理型の構成ではなく,それぞれ個別のローカル環境ごとに小規模なEPCを構築する構成も検討されています.このような多数のEPCをローカル環境に配備するユースケースでは,配備や管理のコストを減らすことができるなどMagmaは非常に有効となる可能性が高いと思われます.Magmaに関してはNTT SICでも継続して調査を続けたいと考えています.

■ おわりに…

私たちNTTは,Private LTEやローカル5Gに関するオープンソースコミュニティで共に活動する仲間を募集しています.ぜひ弊社 ソフトウェアイノベーションセンタ紹介ページ及び,採用情報ページをご覧ください.

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