モバイルコアのOSS magmaの最新動向 ~Magma Developers Conference 2021参加レポート~

Yohei Motomura
nttlabs
Published in
12 min readMar 30, 2021
図1. Promotional Image by the Official Website of Magma Developers Conference 2021

こんにちは,NTT研究所の本村です.
今回私は2021/02/03に開催されたMagma Developers Conference 2021に参加してきました.そこで本記事ではConferenceで得られたmagmaに関する情報を中心にmagmaの最新動向をご紹介したいと思います.

なお、Conferenceの様子は動画としても公開されていますので興味のある方はこちらも併せてご参照ください.

【Magma Developers Conference 2021公式サイト】
https://magmadevelopersconference.splashthat.com/

【Magma Developers Conference 2021のRecap情報】
https://www.magmacore.org/community/magma-dev-conference-recap-2021/

【Magma Developers Conference 2021の動画リンク集】
https://www.magmacore.org/blog/magma-dev-conf-videos

そもそもmagmaとは?

2019年2月のMobile World Congress 2019のタイミングでOSSとして公開されたモバイルコアです.

【Open-sourcing Magma to extend mobile networks】
https://engineering.fb.com/2019/02/25/open-source/magma/

magmaは新興国やルーラルエリアにインターネットアクセスを届けることを目的に,Facebook Connectivityの取り組みの1つとして開発が開始されました.現在ではLinux Foundation配下のプロジェクトとして,Telecom Infra ProjectOpen Infrastructure FoundationOpenAirInterface等のコミュニティとも連携しつつ開発が進められています.

また,magmaはモバイルコア(EPCや5GC)そのものの機能を担うAccess GWだけではなく,Access GWを管理・制御する機能を提供するOrchestratorや認証連携機能を提供するFederation GWも含めた機能群から構成されています(図2).

図2. magmaの概要 (出典: magma公式GitHub)

magmaは他のOSSのモバイルコアにはないユニークな特徴を有しています.その1つが分散コア(distributed core)です.図2に示したOrchestratorからAccess GWを管理・制御できる機能により,magmaはエッジ拠点ごとにAccess GWを配備することや配備された多数のAccess GWを一元管理することが可能となっています(図3).

図3. Magma Abstractions & Interfaces A Systems Approach to Access Networks by Ulas Kozat (Facebook Connectivity)

もう1つの特徴はコンバージドコア(converged core)です.magmaのモバイルコアであるAccess GWは様々なRAN(4G,5G,Wi-Fi)を同時に収容可能なコアを目標に開発が進められています(図4).この特徴により様々なユースケースでフレキシブルにmagmaを適用することが可能です.このようにmagmaは他のOSSのモバイルコアにはないユニークな特徴を多数有しています.

図4. Magma Abstractions & Interfaces, A Systems Approach to Access Networks by Ulas Kozat (Facebook Connectivity)

※ magmaの機能や特徴のより詳しい情報は以下に掲載しているOpen Mobile Network Infra Meetup #1における私の発表資料「magmaの概要および特徴の紹介」(図5)をご確認ください.

図5. Open Mobile Network Infra Meetup #1 magmaの概要および特徴の紹介 by Yohei Motomura

Magma Developers Conference 2021とは?

OSSプロジェクトmagmaのコミュニティでは,magmaの開発情報やユースケースの共有,コミュニティの活性化などを目的に年に1度Conferenceが開催されています.昨年開催予定のConference 2020は新型コロナウイルスの影響もありクローズド開催となってしまったため,今回私が参加したMagma Developers Conference 2021はConference 2019@Menlo Park以来となる1年半ぶりのオープン開催のConferenceとなります.

また,今回のConference 2021はオンライン(Zoom)で開催されました.オンラインということもあり,企業や大学関係者など約700名,日本からも約10名の方が参加していました.Conference 2021では,magmaの開発方針・ロードマップの共有や5G機能のデモ,ユースケース適用事例の紹介等,15件の発表がありました.本記事ではこれらセッションの中でも個人的に興味深く感じた内容をいくつかピックアップして簡単にご紹介したいと思います.

magmaの最新動向

magmaの最新の開発状況について

日本でも5Gの取り組みが非常に盛り上がっていますが,magmaコミュニティとしても5Gに向けた対応が急務となっているようです.magmaではTelecom Infra ProjectOpen Core Network Project Groupの取り組みと連携して最小構成の5GC(Minimum Viable Core: MVC)の開発が進められてきました(図6).

【Telecom Infra Project Open Core Network Project Group, Applications and Services Technical Requirements v1.0】
https://cdn.brandfolder.io/D8DI15S7/as/94qj5rmgkhcmsgf6tb693bm/TIP_OCN_WS1_Applications_and_Services_Technical_Requirements_v10_Final.pdf

図6. Magma Development Roadmaps by Amar Padmanabhan (Facebook Connectivity)

今回のConference 2021では暗箱内で5Gの電波を飛ばすデモ環境(α版環境)の構成や,実際にデモ環境を動作させた際のUE RegistrationやPDU Session establishのシーケンスの様子が共有されました(図7).実装としては5GCのAMF,SMF,UPFに相当する機能,特に5GCが外部と接続する際に必要となるN1,N2,N3インターフェースに関連する機能の実装を進めているようです.内部接続のN4,N11インターフェースに関連する機能については既存のmagma 4Gの機能を活用しつつ開発されているようでした.また,α版のソースコードは既にmainブランチに取り込まれており,誰でも参照することが可能になっているとのことでした.

図7. Magma 5G Demo by Mansoor Khan (Wavelabs Inc.), Narendra Dhara (ACL Digital)

また,今後のロードマップも別途共有されました.5GCの機能がstable版で使用可能となるのは次期リリースのv1.5から,ユースケースとしてもMobile Broadbandや5Gが2021年のロードマップに設定されるなど5G対応がコミュニティとしても重要な目標になっているようでした(図8).

そもそもmagmaとは?で述べましたが,magmaは分散配備する仕組みなど他のOSSにはないユニークな特徴を有しており,これら特徴はプライベートLTEやローカル5Gのユースケースの一部に非常に適しています.magmaの今後の開発状況にもよりますが,日本のローカル5Gでmagmaを導入するというケースが将来的に出てくる可能性もありそうだと感じました.

図8. Magma Development Roadmaps by Amar Padmanabhan (Facebook Connectivity)

magmaと企業の連携

magmaを実サービスとして提供することを目的に,企業と連携した取り組みも多く進められているようでした.

◇ FreedomFi社との連携
magmaをOpenStack上(Whitecloud)でvEPCとして提供するWhitestack社のWhiteEPCという製品がありますが,こちらとは異なり”物理”のHWにmagmaのAccess GWを導入した製品(図9)を$299でFreedomFi社が販売を開始するとの発表がありました.FreedomFi社によりSaaSとして提供されるmagmaのOrchestratorも追加オプションとして購入可能になっており,そのためRAN製品さえ用意すれば簡単にmagmaの環境を準備することが可能になります.このような容易にかつ低コストでmagmaを試せる環境が帝京されることはモバイル環境構築を検討する企業にとっても採用するEPC/5GCの選択肢が増えることになるため,業界としても非常に良い動きだと感じました.

図9. Using Magma and Helium Blockchain to Build The World’s First People’s Neutral Host Network” by Boris Renski (FreedomFi), Mark Phillips (Helium Systems)

◇ Arm社
Arm社のCPU上でmagmaを動作させるための取り組みも進められています(図10).こちらの取り組みは,エッジに小型・省電力なHWを配備したいユースケース,例えばRaspberry PiのようなデバイスでAccess GWを動作させたいといった場合では非常に有効になると感じました.

図10. Magma on Arm - porting and best practices by Augustine Phillips (Arm), Allaukik Abhishek (Arm)

◇ Amazon Web Services社
End User SiteにAWSのエッジ向けサービスAWS Outposts, AWS Snowball edge, AWS Snowconeを導入した環境でmagmaを動作させる取り組みについても発表がありました(図11).こちらもArmの取り組みと同様にユースケース次第にはなるものの,より低遅延なエッジ処理が必要な場合やセキュリティの関係で通信をエッジ内に閉じたい場合など,特に自営のユースケースで非常に有効になる取り組みだと感じました.

図11. Magma Cloud Deployment on AWS by Sigit Priyanggoro (Amazon Web Services), Sudhi Kandi (Facebook Connectivity), Rabi Abdel (Amazon Web Services)

おわりに

本記事ではMagma Developers Conference 2021の情報を中心にmagmaの最新動向をご紹介いたしました.次回記事ではmagmaの環境構築の方法についてご紹介いたしますので,是非そちらもご覧いただけますと幸いです.

また,私たちNTTは,モバイル分野に関するオープンソースコミュニティで共に活動する仲間を募集しています.興味のある方はぜひ弊社採用情報ページをご覧ください.

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