Mobile World Congress 2019 で感じた5G×Automotive, 5G×XRの今後

Katsuhiro Suzuki
nttlabs
Published in
11 min readMay 8, 2019

こんにちは,NTTの鈴木です.今回は2019年2月25–28日に開催された, Mobile World Congress 2019に参加してきました.

Mobile World Congress(以下MWC)はmobile関連の世界最大規模の展示会です.今年はスペイン・バルセロナのFira Gran Viaにて開催され,世界を代表する通信事業者,メーカーなど2400社もの企業が最新の技術,製品及びサービスを展示しました.
また,今年のMWCでは98ヵ国から延べ109000人が参加しました.

展示はテーマ毎にパビリオンとゾーンによって区切られ,特定の分野をハイライトするように設計されていました.テーマの例としては,以下のものが挙げられます.

GSMA Innovation City:モバイル機器を使ってどのように住みやすく,働きやすい街を作るかに焦点を当てた展示ゾーン

・NEXTech Hall 8.0:AI, IoT, ドローン, ロボティクス, AR/VRなどの最新技術トレンドを求めている企業・参加者に焦点を当てた展示ゾーン

どの展示スペースでも専門家や興味を持つ人達が集まり,活発な議論が行われていました.また,MWCでは展示だけでなく,会議も多数開催されています.4日間に渡った会議プログラムでは今年のテーマであるIntelligent Connectivityに加えて,Connectivity, AI, Industry 4.0, Immersive Content, Disruptive Innovation, Digital Wellness, Digital Trust, The Futureなどの様々なトピックについて講演が行われました.

今回はMWC2019の中から特に興味深かった5G×Automotiveと5G×XRの2つについて深堀りして解説したいと思います.

5G×Automotive

Automotive関連は5Gのユースケースとして規模が大きく注目されています.MWCでは,ここ数年自動車メーカーの出展が増えています.完全自動運転やリアルタイムの危機予測は自動車内部の計算機やセンサ情報のみでは実現できないため,低遅延・大容量の通信が必要不可欠です.また,車同士や車と外部が通信を介して連携することでリアルタイム渋滞予測サービスやeCall(事故が起きるとすぐに救急車が駆け付ける)サービスなどの様々な利用法が期待されています.

また通信業界と自動車業界は共同で5G Automotive Associationを立ち上げ,次世代のインフラについて議論を進めています.今回のMWCでもNTTをはじめ,KT,Qualcomm, Toyota, BMW, Audiなど企業が通信と車に関する次世代のConnectivityについて展示を行いました.

その中でも一番個人的に目を引いた展示はOoredooのaerial taxiです.空飛ぶ車は昔から構想はありましたが,今回は実物大の大きさで試乗することも可能でした(もちろん飛びはしませんが).空飛ぶ車による次世代交通インフラの構築は自動車業界や航空業界を筆頭に検討されれています.aerial taxiはAIによる完全自動運転も目指しており,このような交通手段が世の中に登場する未来はそう遠くないかもしれません.

5G×Automotiveの講演は5G Automotive Associationが主催するConnecting the Mobility World with 5G-V2Xにて行われていました.自動車,IT業界,通信業界のトップスピーカーたちが2019年から2020年の間に計画されているMobility Systemについて発表を行いました.

セッション1のテーマはConnecting the Mobility World with C-V2Xです.

C-V2XはCellular Vehicle to Everythingを指し,モバイル用の通信ネットワーク(LTE, 5G)を用いて自動車と全ての物を通信で繋ぐシステムを指します.このセッションでは,Qualcomm, Huaweiがプレゼンテーションを行い,車路間連携(Vehicle to Infrastracture),V2XとEdge Serverとの連携,都市を使ったC-V2X実証のデモンストレーションプロジェクトなどについて発表しました.また5Gが商用化される2020年を目途にC-V2Xを商用化するために必要な観点や技術,政府と連携して取り組むことの重要性などが語られました.

海外はもちろん日本でもC-V2Xを導入すべきかはまだ議論が進められています.周波数帯の問題やDSRCを用いたシステム(ETCなど)をどのように置換するのかといった課題は多く残っており,今後C-V2Xを巡って行われる自動車業界,通信業界,政府の議論にも注目していきたいと思います.

Session2のテーマはFrom LTE-V2X to Fully Automated Driving with 5G-V2Xです.

現在はLTEベースで導入が進められているC-V2Xの技術ですが,今後5Gの実用化により5G-V2Xが主流となると考えられます.このセッションでは,Audi, Ericssonがプレゼンテーションを行い,5GのKey Applicationやユースケース,5Gの発展により解決できる業界の課題について発表を行いました.5G-V2XのユースケースとしてはV2P Safety(車と人のスマートフォンを連携して,衝突回避を行う)などの遅延を要求されるユースケースやGroup StartやCooperative Mergingなどの協調動作による交通の最適化,AR/VRを活用した新しいエンターテインメントなど多岐にわたって紹介されていました.

またAudiはAutomotive Trial HighlightとしてCES2019にてデモが行われたCooperative Four-Way-Stopを紹介しました.

各プレゼンテーションスライドはこちらを参照してください.

5G×XR

5Gのユースケースとして個人的に注目しているのはXRです.XRはAR/VRなどを複合した総称として使用され,近年よく耳にするようになりました.現在のAR/VRデバイスは高価な計算リソースを必要とするが,リッチな体験を提供できるハイエンド型VRデバイスと手軽で外部の計算リソースを使用しないが,バッテリーや品質に限りがあるスタンドアロン型VR/ARデバイスの2つに大別されます.リッチな体験と手軽さの両立が難しい事が課題として挙げられていましたが,5G×XRはこの課題を解決できる可能性を秘めています.

デバイス側で処理することが困難なリアルタイムレンダリングなどの処理を5Gを介してエッジクラウドへとオフロードすることで,ハイエンド型のリッチな体験とスタンドアロン型の手軽さの両立を実現できるかもしれません.今回はそれらの実現に取り組んでいた展示・講演を中心について紹介します.

Microsoft Hololens2とAzure Kinect

MWCから遠ざかっていたMicrosoftですが,今年は満を持して新しいハードウェアと共に帰ってきました.そのMicrosoftが今回新たに発表したハードウェアがMicrosoft HoloLens 2とAzure Kinectです.

HoloLensもKinectもComputer VisionやAugmented Realityを専門としている方なら一度は使用・目にしたことがある製品だと思われます.HoloLensはMicrosoftが発売しているMixed Reality向けのデバイスであり,レンズを介して情報を実空間に重畳することができます.Kinectは元々Xbox360向けに発売されたゲーム向けコントローラでしたが,当時高価な機材が必要だったモーションキャプチャや人物認識を1台数万円で行えることから研究用に活用されました.Microsoft HoloLens 2とAzure Kinectはそれぞれの後継機です.スペックが大幅に上昇したことはもちろんですが,一番の注目点はMicrosoftのクラウドサービスであるAzureとの連携強化であることは間違いないと思われます.マルチプラットフォームで複数ユーザが同じ空間を共有するためのAzure Spatial Anchorsと計算負荷が高いレンダリングをAzureで実行し,リアルタイムにデバイスへストリーミングするAzure Remote Renderingが同時に発表されました.Microsoftは今後の戦略としてHoloLens 2,Azure Kinectとインテリジェントクラウド,インテリジェントエッジクラウドの連携戦略を打ち出しており,どのような活用事例が生まれるかは注視すべきポイントでしょう.

今回MicrosoftブースではMicrosoft HoloLens 2の体験スペースがあり,自分は建築物ができる過程を可視化するというデモを体験したので所感を述べたいと思います

視野角:視野角は評判通りかなり広がっていました.横に関しては文句ありません.縦に関してはデモ中に上下が見切れる場合があり,個人的には改善の余地があるようにも思います.

表示:解像度と発色がHoloLensと比べて改善されており,かなり見やすい印象でした.ただデモ中は現実物体と重ねて見る状況や,背景色を見えづらい色(例えば白など)に変更するといった状況は発生しなかったため,そのような状況でどのように見えるのかは気になります.

操作:デモ中はタッチ,ピンチ,掴むなどのジェスチャをかなりの精度で認識していました.デモ中には他のユーザに持っているオブジェクトを渡すなどのインタラクションがスムーズにできて非常に好印象でした.

装着感:装着は眼鏡をかけていても被ったあとに後頭部のダイヤル調整で簡単に行うことができました.また,強めに締めればデモ中は全くずれることがありませんでした.

Azure Remote Renderingは残念ながら体験することができませんでしたので,発売された後に体験してみたいと思います.

MicrosoftがMWCにて発表した内容を更に詳しく知りたい方はこちらを参照してください.

GSMA Cloud XR Summit

GSMA Cloud XR SeminarはGSMAが主催する講演です.Cloud XRとはクラウドベースの技術とExtended Reality(XR)を組み合わせて,XR分野の課題であったリッチな体験と手軽さの両立を目指す取り組みです.Cloud XR実現のためには高データ転送,低レイテンシの5Gだけではなく,よりユーザに近い位置でタスクを処理するエッジコンピューティング技術が必要不可欠であるため,通信事業者は重要な役割を持つことが考えられています.

今回の講演ではCloud XRをリードする企業の中からHuawei, Intel, Microsoft, Tencentが発表を行いました.特に興味深かった発表はTencent Future Network Labの5G Novel Cloud Services Enabled by Edge Computingです.TencentはTARSというPaaSを提供しています.今後このTARSをEdge Computing PlatformのトータルソリューションとするためにChina Telecomと協力して開発を進めていました.5G Edge Cloud Computingの新しいサービス環境構成を挙げ,Cloud XRやCloud Gamingを実現するために必要な要素としてLow Cost Deploymentと100Mbpsを超えるStable High BandWidthが重要であると強調しました.

おわりに

私たちNTTは未来の通信インフラを支える技術を共に考え,議論できる仲間を募集しています.ぜひ弊社ソフトウェアイノベーションセンタ紹介ページや,採用情報ページをご覧ください.

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