Upstream Developerから見たOpen Infrastructure Summit, PTG 2019 Denver

Kota Tsuyuzaki
nttlabs
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9 min readMay 9, 2019
会場のコロラドコンベンションセンター

こんにちは。NTTの露崎です。2019年4月29日から5月4日にかけて実施されたOpenStackのイベントであるOpen Infrastructure Summit(ビジネスカンファレンス)とOpenStack PTG(開発者会議)について情報共有をしたいと思います。本記事ではOpenStack Swiftのメンテナとして6年弱活動してきた身として、今回のSummit、PTGに参加して思ったこと感じたことを書きたいと思います。ここで話す内容はあくまで個人の主観であり、自分の所属する組織の総意でないことは明記しておきます。セッションなどの紹介は同じNTT Techblogの他の記事などで紹介される予定ですのでそちらもご参照ください。

OpenStackは良くも悪くも安定した

今回のSummit、PTGの参加を通して私自身が強く感じたのがこの事実です。OpenStackは2010年に誕生し約10年、19回のリリースを経て、何千のユーザ、企業により、何百万ものCPUコアの上で動いており約6.1億ドルの市場規模まで成長した事実など、これまで十分に成功してきたことをOpenStack FoundationのJonathan Bryce氏はKeynoteで主張しました。この開発やユーザの拡大を支えたのは4つのOpen(Open Source、Open Design、Open Development、Open Community)であると言うことは間違いないと思います。このコミュニティ、活動自体の透明性によって、多くの企業が参画しオープンコラボレーションとして様々な機能が開発されてきました。こうして開発された機能が世界中の様々な企業で安定して利用されているのは素晴らしいと思います。

一方で、今回から会議名をOpenStack SummitからOpen Infrastructure Summitにリブランディングしてまで期待した変化を感じなかったと言うのも一つの事実でした。セッションのカテゴリは元々OpenStack Summitで推進していたAI/HPC、CI/CD、Containers、Edge Computing、NFVなどが主で新しいカテゴリへの変化は見えませんでしたし、Keynoteで他のOSSとの大きな連携などについての発表などはありませんでした。今回のSummitで「初参加」の率が比較的多かった事実は興味深い統計でしたが、総計の参加者としては北米開催で約2000人と前回のベルリン開催からも減少しているそうで、新しいビジネスやユーザニーズ、他のインフラ系OSSとのコラボレーションを狙いたかったOpenStack Foundationの意図とは少し外れた結果になったように思います。

一つ要因として考えられるのはOpenStackは様々なプロジェクトがあるものの、多くのプロジェクトは認証や共通ライブラリで依存関係があり、個別に外部のプロジェクトと連携しずらいのがあるのではないかと考えています。使うのであればOpenStack全体を使ってその上に外部OSSを載せたり、といった使い方がどうしても標準となってしまいます。OpenStackは既に十分実績のある安定したプロジェクトではあるものの、こうした事実により、プロジェクト単位で切り出して、OpenStack外の他のOSSと結合するといったことがやりづらく、連携がうまく進んでいないではないかと思います。

OpenStack Foundation自体は新しい取り組みとしてコンテナ技術のセキュリティ対応を目指すKata Containerの拡大、Edge Computing向けのAirshipの開発などを推していますが、これらはOpenStack Foundationがホストするものの、あくまでOpenStackの外のプロジェクトとして位置付けられています。これらの開発が積極的に進められている背景として、新しい分野への挑戦は目指したいが、その際には既存プロジェクトの疎結合化ではなく新規プロジェクトとして別のものを作る方が効率が良い、とならざるをえないのではないかと考えていますし、それは合理的であるようにも感じます。一方で、こうした安定した既存のプロジェクト達をOpenStack Foundationがどのように進めていく考えなのか、そういった部分についてはKeynoteで語られませんでした。この点はOpenStack のコア開発者としては少し残念に感じたSummitとなりました。

OpenStackで起きている変化

Community Contributors Awardsの授賞式

OpenStackはこの9年の歴史の中で様々な変化をしてきましたが、私の中では今回が最も大きな変化でした。その大きな変化はOpenStack Swiftのプロジェクトリード(PTL)をOpenStackが発足した時から勤めていたJohn Dickinson氏がSwiftのPTLをTim Burke氏へと交替したことです。今回のSummitのSwift Project Updateの中で彼は “Swiftは私の子供だ” と話していました。その一方でSwiftは長い開発の中で多くの強いメンテナに支えられ、John氏はそのメンテナを信じ、今後をそこに託したと話しました。彼自身はメンテナとしてコミュニティに残り、引き続きOpenStack Swiftへ貢献する意向を示していますが、コミュニティの安定を信じ、新しいプロジェクトリードへ役割を託すことで、別の変化を期待するという彼の判断に大きく衝撃を受けました。

彼の功績は Open Infrastructure Community Contributors Awards として表彰されています。彼はオープンソースコミュニティの力を信じ、いかに最大化するかを考えていました。コミュニティに参入する多くの人の窓口となり、関連するコラボレータを結びつけ、時にはOpenStackのGovernanceと衝突しながら強いプロジェクトを作ることに尽力し、その結果、今のOpenStack Swiftコミュニティが形成されています。この事実と彼のこれまでの活動に私は心から敬意を表したいと思い、紹介させて頂きました。

OpenStackは開発者を大切にしている

Swift Dev Room

変化と言うキーワードで考えた時、Open Infrastructure Summitではビジネス的に大きな変化を感じられなかった一方で、OpenStack PTGではFoundationの “開発者を大切にする” と言う思いを感じました。

開発に集中するためにPTG(開発者会議)をSummit(ビジネスカンファレンス)から切り離して別日で開催する方針はそのままに同じロケでの開催することでSummitとPTGの両方参加する必要のある開発者の移動コストを下げるなどの工夫をしています。またコーヒー、おやつ、議論卓、ホワイトボードなど必要な資材をきちんと提供してくれているので、今回の3日間、本当に有意義な議論、コーディングに励むことができました。忙しくなりやすいカンファレンスなどの中で集中して共同作業できる空間があるのは素晴らしいことだと思います。

実際にこうしたFoundationの努力により、体感ですがPTGの参加者は前回(約200)よりも増えていた(約300)と思います。Summitの参加者が減る一方でPTGではきちんとアクティブな開発者の数を維持している、この事実は安定してきたOSS、プロジェクト、またそれを使うユーザにとって最も重要なファクターの一つだと私は考えています。またこの結果はOpenStack FoundationがOSSの開発、Upstream Developerをきちんと大切にする努力をしているからであると考え、とても好感が持てました。

OpenStack Swift の次期(Train) Releaseについて

こうした集中できる環境の中でSwiftの時期リリースに向け、様々なトピックについてプロダクティブな議論できたPTGはとても有意義な時間でした。新しいPTLの方針では、最重要なタスクは、年内に移行が必要なPython3の対応で、それと並行しLots Of Small Files、Auto-Sharding、Continerization、Auto-Scaling Task QueueなどSwiftそのものを抜本的に改善していく仕組みについて精力的です。いずれも面白い機能・改善の仕組みを採用する案で進められていますので、この辺の技術詳細についてはまた別途、勉強会かBlogで取り上げられればと思います。

まとめ

今回の参加を通じてOpenStackとそのコミュニティの安定については今後ユーザとして利用するのに十分成熟していると感じられた一方で新しいビジネスやマーケットと言う点ではFoundationの方針やその効果については課題があると感じました。こうした感覚はやはり会議に参加し、経験することで得られるものだと思い、今回紹介させて頂きました。他に参加された方で、おそらく別の見え方をしている人もいると思いますので、一つの意見として参考にして頂ければと思います。OpenStackが引き続き健全でロバストなコミュニティであることを期待して今後も活動を続けていければと思います。

おわりに

私たちNTTはオープンソースコミュニティで共に活動する仲間を募集しています.ぜひ弊社 ソフトウェアイノベーションセンタ紹介ページや,採用情報ページをご覧ください.

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Kota Tsuyuzaki
nttlabs
Writer for

Research Engineer at Nippon Telegraph and Telephone Corporation (NTT). OpenStack Swift core team member, OpenStack Storlets Project Team Lead.