Open Networking Foundationにおけるオープンモバイル技術の最新動向~COMACやOMECの現状と展望~

Yohei Motomura
nttlabs
Published in
11 min readOct 11, 2019
The Official Logo of ONF Connect

こんにちは,NTT研究所の本村です.
今回私はONF (Open Networking Foundation)が主催するイベントONF CONNECT 2019に参加してきました.本記事ではONF CONNECT 2019で得られたモバイル技術の動向,特にモバイル関連のプロジェクトであるCOMAC (COnverged Multi-Access and Core)とOMEC (Open Mobile Evolved Core)の最新動向についてご紹介したいと思います.

なお、ONF CONNECT 2019の公式サイト で各セッションの発表スライドやビデオは公開されています.ご興味のある方はこちらも併せてご参照ください.

・ONF CONNECT 2019公式サイト:
https://www.opennetworking.org/onf-connect-2019-resources/

図1. 会場の様子 (Santa Clara Marriott Hotel)

そもそもCOMACおよびOMECとは?

ONFではEPC機能そのものはOMEC, OMEC含むインフラ基盤全体の構成やユースケース検討,今後の方針などに関する議論はCOMACという切り分けでモバイルに関する開発が進められています.本記事ではONF CONNECT 2019における動向を紹介する前に,まずはCOMACとOMECの現状や活動体制について共有したいと思います.

ONFにおけるオープン技術への取り組み

図2. ONFのオープン技術への活動指針 (出典: ONF Strategic Plan)

ONFは2018年3月に発表したONF Strategic Plan (図2)を元にオープン技術の商用導入を目指して活動を続けています.ONFでモバイルに関連するプロジェクトは現在COMACとOMECの2つがありますが,これらについてもONF Strategic Planを元に活動が続けられています (図3).

ONF Strategic PlanにおけるRD (Reference Designs)とは,ユースケースを実現するために必要となる機能要件や定義等をまとめたドキュメントです(≒設計図).また,Open Source ComponentsはONOSやStratumなど,各個別のOSSプロジェクト (≒部品)を示し,EP (Exemplar Platform)はRDで定められた仕様を基に部品であるOpen Source Componentsを組み合わせて実装される基盤環境(≒製品)となります.このようにONFはRD, EPの考え方を基に設計→開発→導入→保守のサイクルを回すことでオープン技術からなるシステムの構築ならびに商用環境への導入を進めています.

図3. COMACおよびOMECとONF Strategic Planの関係性 (出典: COMAC Overview)

OMEC (Open Mobile Evolved Core)とは?

OMECはONFが開発を主導しているOSSのEPC (Evolved Packet Core)です.CDF (Charge Data Function), CTF (Charge Trigger Function), PCRF (Policy Control Rules Function)といったポリシーや課金を制御する機能や,高速パケット転送 (DPDK)の機能,CUPS (Control and User Plane Separation)と呼ばれるC/U分離の機能が実装されるなど,他のOSSのEPCと比較して非常に高機能・高性能なEPCとなっています (図4).また,OMECはONF Strategic Planの中でOpen Source Componentsに該当します.そのため,OMEC単体で活発に開発を進めるというよりも,COMACにおけるRDやEPを実現する際に不足する機能が生じた場合にOMECの追加機能開発を進めるということが多くなっています.

図4. OMECの機能一覧 (出典: OMEC Architecture)

COMAC (COnverged Multi-Access and Core)とは?

COMACはモバイルや有線のアクセスネットワークをシームレスに終端 ・ 管理することを目的とするプロジェクトです (図5).COMACはモバイルのみをターゲットにしているわけではなく,有線含むアクセスネットワーク全体を対象としてクラウドネイティブ化に向けた実装やエッジ処理に向けた構成などの検討や実装に取り組んでいます.OMECはCOMACで検討される構成を実現するための1機能 (部品)という位置付けです.また,COMACはONF Strategic Planの中でRD (Reference Designs)とEP (Exemplar Platform)に該当しています.そのため,COMACのRDを元にOMECの開発やCOMACのEPの実装は進められており,例えば,エッジ処理に関するRDがCOMACで定められた際には,OMECでエッジ処理に必要なC/U分離機能の開発が進められました.

図5. COMAC の構成 (出典: COMAC Platform)

ONF CONNECT 2019で得られたモバイル技術の最新動向

最新のCOMACの開発状況について

現在構築済みの最新のCOMAC環境 (EP)では,クラウドネイティブ化に向けたKubernetes対応の実装,エッジ処理構成に向けたC/U分離機能の実装が追加されており,ONF CONNECT 2019ではこれら実装を含む最新の環境が展示されていました (図6).このデモ展示はONFの拠点 (MENLO PARK:図6 黄色部分)をクラウド環境,会場内のサーバ (SANTA CLARA:図6 青色部分)をエッジ環境(図7),各拠点間はVPN接続という構成で構築されています.この環境により,コントロールプレーン (SANTA CLARA)の集中管理による管理コスト低減を図りつつ,エッジ処理による低遅延の両立を実現しています.

図6. COMACのデモ構成
図7. COMACデモ展示におけるエッジ環境

今回のデモ展示のCOMAC環境で新たに実装されたKubernetesやC/U分離は特に目新しい技術というわけではないのですが,OSSを用いてC/U分離構成を取り,加えてその環境をKubernetes上に構築した例はまだまだ少数であり,リファレンスモデルという観点から見てもCOMACの環境は非常に有効かと思います.この環境の課題としては要求マシンスペックが非常に高い点,構築の難易度が高い点の2点が挙げられるのですが,前者は2020年1月のRDでライトウェイ化を計画中,後者も構築自動化ツールを作成中という状況で,既に課題解決に向けた取り組みが進められているようです.

COMAC環境の自動構築ツールについて

ONF CONNECT 2019のTutorialセッション(Mobile & 5G Tutorial — Part 4: Hands-On with COMAC-In-A-Box on CloudLab)ではcomac-in-a-box (図8)と呼ばれる環境の紹介がありました.これはONFが開発している自動構築ツールautomation-toolsを用いて構築されるCOMAC環境で,このツールを使用することで汎用サーバ上で容易にCOMAC環境を構築できます.実際に私も現地のTutorialで動かしてみましたが,インストール手順は以下に示す3行のコマンドのみという非常に簡単なものとなっています.

$ git clone https://gerrit.opencord.org/automation-tools 
$ cd automation-tools/comac-in-a-box
$ make

また,comac-in-a-box導入時にはOpenAirInterfaceの基地局・端末エミュレータも同時にインストールされるため,基地局などの特別な機器を準備することなく疑似モバイル環境を試験的に動かすことが可能となっています.このように今まで課題となっていた環境構築の難しさについても解消する方向へ取り組まれているようです.

図8. COMAC-in-a-Boxの構成 (出典:Mobile & 5G Tutorial — Part 4: Hands-On with COMAC-In-A-Box on CloudLab)

COMACおよびOMECの今後の開発方針について

COMAC and OMEC at DTOMEC: Architectural Challenges with Evolution Standards, Road Ahead and 5GなどのセッションではONFにおけるモバイルプロジェクトの今後の方針も述べられました.キーワードとしては大きくライトウェイト化と5G対応の2つとなります.5G対応はまずは部品となるOMECで5GコアのAMF, SMF, UPFに相当する機能を中心に開発を検討しているとのことでした.また,ライトウェイト化は現在増加しつつあるプライベートユース (プライベートLTE・ローカル5G)を商用導入のターゲットの1つとしたい意向があるようです.というのも,COMACやOMECの導入数が伸びていないことはコミュニティの課題にもなっており,プライベート向け市場を開拓することでこの課題を解決したいようでした.私個人としても,現状のCOMACとOMECはプライベート向けとしては過剰スペックとなるケースが多い印象を持っていたため,このようなライトウェイト化の流れは良い方向性だと感じています.COMACやOMECの今後の開発状況にもよりますが,日本のプライベートLTEやローカル5GでCOMAC環境を導入するというケースも将来的には出てくるかもしれません.

図9. 5G and Open SourceのPanel Discussionの様子

おわりに…

私たちNTT研究所では,プライベートLTEやローカル5Gに関するオープンソースコミュニティで共に活動する仲間を募集しています.ぜひ弊社 ソフトウェアイノベーションセンタ紹介ページ及び,採用情報ページをご覧ください.

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