NVIDIA SimNet 一般提供のお知らせ

Naruhiko Tan
NVIDIA Japan
Published in
10 min readJun 17, 2021

NVIDIA の丹です。

これまで、早期アクセスという形で提供されてきた、Physics-Informed Neural Networks ツールキットである NVIDIA SimNet が、ついに一般提供を開始しました。この一般提供にともない、様々な新しい機能が追加されたので、そのハイライトを紹介したいと思います。この記事は、こちらの Developer Blog を基にしています。

NVIDIA SimNet v21.06 の一般提供を発表

この度、NVIDIA は、様々なユースケースにおける物理シミュレーションを可能とする、NVIDIA SimNet v21.06 の一般提供を発表しました。

NVIDIA SimNet は、エンジニア、科学者、学生、あるいは研究者のための、Physics-Informed Neural Networks (PINNs) ツールキットで、AI-driven な物理シミュレーションを始めたい方や、実世界における複雑な非線形問題を解くために、自身のドメイン知識を実装する強力なフレームワークを求めている方に最適なツールキットです。

NVIDIA SimNet v21.06 は、早期アクセス プログラムで成功を収めた基本機能をベースとして、新たな機能が追加されています。このリリースでは、電磁気学や二次元波動伝播などの新しい物理現象をサポートするとともに、より複雑な熱流体問題のシミュレーションを可能にする新しいアルゴリズムを導入しています。また、新たな時間更新アルゴリズムが実装され、時間を離散的および連続的に扱うことができるようになりました。

その他の特徴や機能強化としては、各 GPU のバッチ サイズを大きくするのと実質的に同じ効果が得られる勾配集約法 (gradient aggregation)、損失が大きな領域で point cloud の密度を大きくする適応的サンプリング、損失重み付けのための等分散を仮定した不確実性の定量化、STL データやソリッド形状の代理モデルに基づくパラメーター化を行うための迅速な学習を可能にする転移学習アルゴリズム、入力の不確実性が出力にどのように現れるかを評価するための Polynomial Chaos 展開などが含まれます。また、SimNet v21.06 では、既存のネットワーク アーキテクチャを拡張し、Multiplicative Filter Networks を実装しました。

NVIDIA SimNet v21.06 のハイライト

電磁気学

NVIDIA SimNet v21.06 では、周波数領域の電磁界シミュレーションに新たに対応しました。この周波数領域のマクスウェル方程式は、1D、2D、3D のケースでスカラー形式 (ヘルムホルツ方程式) に対応しており、3D のケースではベクトル形式にも対応しています。境界条件は、2D および 3D の場合は完全導体 (PEC) 、3D の場合は放射条件 (吸収条件)、2D の導波管ソースの場合は導波管ポート ソルバーを使用できます。また、2D の TEz および TMz モードの周波数領域電磁界を解くことができます。

電磁界シミュレーション結果

時間進行法

流体力学や電磁気学などの分野では、多くの問題で過渡現象のシミュレーションが必要となります。これまで、ニューラル ネットワークを使ってこれらの問題を正確にシミュレーションすることは困難でした。この分野における革新的な技術を採用することで、NVIDIA SimNet はさまざまな非定常問題を高速かつ正確に解くことができるようになりました。下に示す動画は、Taylor-Green 渦の非定常乱流シミュレーション結果です。

Taylor-Green 渦のシミュレーション結果

転移学習

代理モデルによる設計最適化や、不確実性の定量化など、繰り返し学習を行う必要がある場面において、ニューラル ネットワークが収束までに要する時間を、転移学習によって短縮することができます。ある形状に対してモデルの学習が完了すれば、学習済みのモデル パラメーターを別の形状を解く際に活用することができ、新しい形状に対して一から学習し直す必要がありません。

転移学習による脳動脈瘤内の血流シミュレーション時の損失の比較 (2 つの異なる動脈瘤形状)

勾配集約

複雑な問題に対するニューラル ネットワークの学習では、GPU メモリの上限を超えるようなバッチ サイズが必要になることもあります。GPU 数を増やせば効果的にバッチ サイズを増やすことができますが、利用できる GPU 数が限られている場合には、勾配集約を使うことができます。この勾配集約では、異なる point cloud から複数のミニ バッチを構成し、それらを使用して順伝播と逆伝播を複数回繰り返し、それらを集約してモデル パラメーターを更新します。これにより、バッチ サイズを大きくすることと実質的には同じ効果を得ることができます。 (ただし、学習に要する時間は長くなります)。

バッチ サイズを大きくすることで、ニューラル ネットワークの精度を向上させることができます。

勾配集約を使った場合の誤差比較 (1 GPU での 4 つの勾配集約を行った場合と、 勾配集約無しの 4 GPU での結果はほぼ同等の精度で、勾配集約無しの 1 GPU の結果よりも高精度)

NVIDIA SimNet に関連するオンデマンドのテクニカル セッション

  • “Physics-Informed Neural Networks for Mechanics of Heterogenous Media” — IIT Bombay は、Physics-Informed Neural Networks for Mechanics of Heterogeneous Media と題した発表を行いました。PINNs ベースの NVIDIA SimNet ツールキットを用いて、弾性、弾塑性材料の損傷シミュレーションのためのフレームワークを開発しました。検証を行ったところ NVIDIA SimNet による結果は、Haghighat et al (2020) による解析解と良く一致することが分かりました。
  • “Using Physics-Informed Neural Networks and SimNet to Accelerate Product Development” — Kinetic Vision 社は、航空宇宙産業などで見られるコアンダ効果を含むシミュレーションを、NVIDIA SimNet を用いて行うことにより、製品開発プロセスを加速する事例を発表しました。NVIDIA SimNet に含まれている geometry モジュールを使用して 2D および 3D 形状を作成し、Modified Fourier Network Architecture によってシミュレーションを行いました。その結果、NVIDIA SimNet による結果は、商用 CFD ソルバーである Ansys Fluent による結果と定性的に良い一致を示すことが確認されました。それに加えて、Kinetic Vision 社はパラメトリック シミュレーションを行い、その結果を CAD に統合し Solidworks の UI を通してインタラクティブに推論を行う方法を提供しました。
  • “Hybrid Physics-Informed Neural Networks for Digital Twin in Prognosis and Health Management” — University of Central Florida は、Hybrid Physics-Informed Neural Networks for Digital Twin in Prognosis and Health Management と題した発表で、航空機窓パネルの疲労き裂の発生と進展を予測するデジタル ツインを構築したことを報告しました。NVIDIA SimNet は物理モデルに基づいているため、構造材料の安全管理と予測に十分な精度を有しています。一旦、モデルの学習が済んでしまえば、様々な入力条件に対して高速かつ正確に計算を行うことができます。また、NVIDIA SimNet は、商用ソルバーで高度に細分化したメッシュを用いることで得られる結果に匹敵するような、高精度な結果を得ることができます。NVIDIA SimNet を使うことで予測モデルを 500 機の航空機に拡大することができ、有限要素モデルを使用して同様の計算を行った場合には数日から数週間を要するのに対し、10 秒以内に予測結果を得ることができるようになりました。
  • “Physics-Informed Neural Network for Flow and Transport in Porous Media” — Physics-Informed Deep Learning for Flow and Transport in Porous Media と題した講演で、Stanford University は非混和二相流体の輸送問題 (Buckley-Leverett) をシミュレーションするための手法を紹介しました。このモデルは、初期条件、境界条件、支配方程式を可能な限り満たしつつ、衝撃波と希薄化といった観点からも正確な解を生成します。この事例についての詳細は、こちらの Developer Blog をご覧下さい。
  • “AI-Accelerated Computational Science and Engineering Using Physics-Based Neural Networks” — NVIDIA はこの講演で、リアルタイム シミュレーション (例: デジタル ツイン、自律型マシン) から設計空間探索 (例: デザイン生成、製品設計最適化)、逆問題 (例: 医用画像、石油/ガス探査における full waveform inversion)、物理法則や複雑形状に起因する様々な勾配や不連続性のため、解くことが困難だった物理シミュレーションの高度化に至るまで、様々な最先端の事例を紹介しました。
  • オンデマンド ウェビナー “Building AI-Based Simulation Capabilities in Science & Engineering Courses with NVIDIA SimNet” — 学習データを必要としない順解析、そして逆問題やデータ同化を、NVIDIA SimNet がどのように取り扱っているかについて説明しています。

こちらの文献 “NVIDIA SimNet: an AI-accelerated multi-physics simulation framework” もご参照下さい。

新しく立ち上げた Forum にもぜひご参加下さい。NVIDIA SimNet を用いた AI-driven physics simulation に関する質問やコメントを歓迎しています。

ぜひ NVIDIA SimNet v21.06 をこちらからダウンロードしてお試しください。

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