アブダクション 仮説と発見の論理
須永スタジオの備忘録(2016.05.27)
人間の認識思考のすぐれた特性は、曖昧なもの、ファジーなもの、不明瞭な意味を理解し、あるいは複雑で不確実な状況について思考し、その状況に応じた適切な行動をすることができるところにある。(まえがきより)
推論とは、前提から結論を導き出す「思考過程」のこと。前提とはデータのこと。結論とは判断のこと。
推論には「演繹」「帰納」「アブダクション」の3つある。
推論
演繹法は、前提となる事柄をもとに、そこから確実に言える結論を導き出す推論法のこと。なお、前提の中にすでに含まれている以上のことを結論として導き出すことはできない。一般的にいわれる「論理的」というのはこの演繹法をさす。
帰納
帰納法は、類似の事例をもとにして、一般的法則や原理を導き出す推論法のこと。なお、アブダクションによって提案される仮説や理論を実験的にテストし検証する操作することで、究極的な真理の方向へ正しく導いてくれる。
アブダクション
アブダクションは、起こった現象を最もうまく説明できる仮説を形成するための推論法のこと。なお、創造的思考、科学的発見において重要な役割を果たす。
古代ギリシアの哲学者アリストテレスが演繹の論理学がつくられ、イギリスの哲学者F・ベーコンとJ・S・ミルらによって帰納の論理学がつくられ、パースによってアブダクションの論理学がつくられた。
人はものごとを考えるとき、仮説を立てるモード(アブダクション)、その仮説を事実と結びつけるモード(演繹)、実験して論拠を示そうとするモード(帰納)という3つの推論のモードを切り替えながら、思考を巡らせているのではないか。
ヒューリスティック(Heuristic)
必ず正しい答えを導けるわけではないが、ある程度のレベルで正解に近い解を得ることができる方法。専門家による経験則など。
アブダクションは倫理学(規範科学)に立脚しているので、意識的で熟慮的な自己統制のもとに(きちんと考えて)用いられる推論方法。つまり、適当に当てずっぽうで思い付いた思考過程ではない。
規範科学
規範科学とは、真・善・美などを実現するための規範を取り扱う学問。
その現象に明確な理由がない。倫理学など。
経験科学
経験科学とは、実験、観察、調査などをして起こった現象を研究する学問。
その現象に明確な理由がある。自然科学など。
デザインをするための知恵(デザイン知)は経験科学である。
人間の推論は誤謬を免れることはできないが、動植物をみれば分かるように、本能(instinct)にしたがって生きている人間以外の生物は誤謬をおかすことが少ないことに気がつく。(パースの記号論P22より)
他の仮説よりもある仮説を選びたいという本能的な気持ち(impulse)が実は鳥やスズメバチの本能(instinct)のようであると知れば、人間が理性の範囲内でそれを働かせないことはばかげていると言ってよい(パースの記号論P22より)
欧米の学問は、その学びが社会に対し「実用」であるかどうかを優先する。※学問が産業と経済と密接に結びついている。
欧州の学問は、その学びが社会に対し「幸福」であるかどうかを優先する。
1905年以降、パースがプラグマティズム(pragmatism)をプラグマティシズム(pragmaticism)と名前を替えた。そのことに対する、考え方の違い。
プラグラマティズム
画家の生命はキャンバスに絵の具をぬること。
プラグマティシズム
画家の生命としての芸術がキャンバスに絵の具をぬることに適用されるということ。
プラグラマティズム
19世紀末に米国で生まれ、現代のアメリカ哲学にも影響を与えている思想。プラグマティズムの創始者のパースは、観念の意味は行為を抜きにしては考えられないとした。プラグマティズムの名を世に広めたウィリアム・ジェームズは、真理の基礎を生の「有用性」に置き、宗教や科学の意義をそこに求めた。デューイは、科学的知識や道徳に関する知識は人間が問題を解決するための道具であるとし、「道具主義」を確立した。
2016年5月27日14:30〜18:30@藝大
須永、内山、安村、瀧、鈴木、王、平野