中沢新一の講義を聞いて

yusuke takahashi
On the Design: Dialogue
5 min readJun 26, 2016

1. 特別講義「アースダイバーとしての芸術家」を聞いて

6月22日東京芸術大学上野キャンパスにて中沢新一氏による特別講義が行われた。中沢氏は思想家・文化人類学者として活動をしている。その活動は、宗教から経済、科学から芸術にいたるまでの広大な領域を対象としている。今回行われた講義はおよそ3時間ほどであったが、その中にはアースダイバー、インディオ、モーツァルト、ギリシャ神話、ダンテ、仏教と様々な切り口からの話があった。そして、それらの話がうまく絡み合いとても興味深い講義となっていた。今回の中沢氏の話において1つのキーとなっていたのは、私たちが五感で認知することのできない「聖なるもの」であったように感じる。探検家たちがインディオとわかり合うことができたモーツァルトの曲の中には、インディオたちがダツーラやペヨートを使って認識していた日常外の世界に近いものがあった。ダンテが描いた詩の中には地獄や天国という現世とは異なる聖なる世界が描かれているという。仏教では法界の構造という点でこの聖なるものが扱われている。(事法界や理法界、理事無礙法界、事々無礙法界といった概念があるが詳しくは各自に任せることとする)中沢氏はこのように様々な分野を参照しながら抽象的な概念である聖なるものを扱っていた。

この講義の中で私が特に印象に残った言葉がある。それは「人は根本の同一性に共感を覚える」という言葉である。「根本の」というのが難しくも面白く感じる。一般的に同一性というのは何らかの評価軸があるはずである。しかし中沢氏が言っていたのは、そのような評価軸を凌駕しているもの、つまり、それこそが聖なるものであり、人が五感で感知できないものだったのではないだろうか。モーツァルトの曲とインディオの人々が持っている感覚の間には目に見える共通の評価軸など存在しない。それでも互いに通じるものがあるのは、そのような五感で知覚しうるものの上位に互いの思想や感覚といったレベルで通じるものがあったからなのだろう。

多くの芸術家はおそらくこのような段階があることを知っていたし、その域にいたることを1つの指針としていたのかもしれない。そのように考えると一部の芸術家がドラッグに手を出していた気持ちがわからなくもない。当然、手放しに肯定することはできないが。とはいえ、私自身そのような世界があるとすれば何らかの方法で達してみたいと思う。

2. 「アースダイバー」を読みながら

講義後、中沢新一氏の本を読みたくなり著作である「アースダイバー」を友人から借りた。まだ読んでいる途中であるためこの本の書評をするわけではなく、この本を読みながらぼんやりと考えたことを書くことにする。「アースダイバー」では、今ある東京が昔の地理的、文化的要因によってどのように形成されてきたかということが書かれている。そして、地理的という意味において面白いのは参照している地理が数十年前の地図を参照するようなことはせず、縄文時代以前の現在とは似ても似つかないものを参考にしているという点である。

その中でも浅草は面白い一例である。東京は縄文時代に東京湾が内部に深く入り込んでいた時の地形に影響を受けていることもあり、起伏が激しい。そのような東京にあって浅草は珍しく平坦な土地である。中沢氏によると街のでき方はその土地の形状の影響を大きく受ける。例えば、起伏の激しいところにおける高い場所には神社など重要な拠点が築かれるというふうにである。しかし、浅草のような特徴のない場所ではそのような街のでき方はしてこなかった。中沢氏は浅草はアメリカ的な街のでき方であると語っている。つまり、歴史こそ浅いがその分自由な風土で街が作られてきたということである。これが結果として浅草をモダニズムの街にしたとかたっている。このように今ある浅草という街が関係のなさそうなはるか昔の地理に影響を受けているということはとても面白く示唆に富んでいる。

「アースダイバー」は街について書いているが、抽象化すると書かれているのは、モノが出来上がる際に影響を与えている目に見えない要因であるように感じる。講義で扱っていたことが根本性や深層の部分であったことを考えると「アースダイバー」もこのような性質を持っていると言えるだろう。現在、授業で伝統工芸を扱っているが、伝統工芸もまた歴史と深いつながりがある。「アースダイバー」を読み、やはりそのような状況にある伝統工芸を出来上がった技法だけに着目して良いのだろうかと考える。プロジェクトを進めるうちに徐々に伝統工芸について、そしてそれを作る職人さんのことを知ることができている。しかし、その知ろうとしているところはまだまだ表面的であったのかもしれない。伝統工芸が普通の技術と異なるところは「伝統」という歴史を内包している点である。だからこそ、その歴史を少しでも汲みとって作品を制作していくことが面白いプロジェクトにつながると感じる。

「アースダイバー」はこのような示唆的なものでもあるが、単純にエンターテイメントととしても面白い。秋葉原がどのような変遷で現在のオタクの街になったのか、大学の街である三田や早稲田と死者の関係といった話はとても面白い。自分のいる場所がどのような変遷で現在のようになったのかを読んでみると街の見方が変わるかもしれない。

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