デザイン研究の主張を社会構成主義の枠組みで考察する

chiemitaki
On the Design: Dialogue
6 min readAug 10, 2016

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ゼミで読んだ書籍「あなたへの社会構成主義」ケネス・J・ガーゲン(著)に書かれていた社会構成主義の4つのテーゼ(P.71〜)に当てはめ、小早川研究を含む須永ゼミのデザイン研究について考察した。

デザイン研究の主張とは?

まず仮説をたてた。

デザイン研究の主張とは、社会構成主義で言われているような枠組みのうえに立脚しているだろう。

つまり、デザイン研究の主張は「それが真実か、誤りか」と問う真理を主張するものではない。

「人々がそこから対話を始めるためのきっかけ」となるような営みであり、それがもし学問といえるならそういう学問である。

科学主義と社会構成主義の主張の違いから、デザイン研究の主張を考察すると次のようになる。

科学主義の主張の型:真理。客観性。

社会構成主義の主張の型:対話への参加。内省、省察。解放(liberation)

デザイン研究の命題:デザインされたものごとが利活用されるデザイン行為へ実践者が参加できる。

※命題とは「表された事象が正しいか正しくないかのどちらかが明確に決まる文章(や式)」のこと

「実体」と「言語」のループモデル

次に、社会構成主義の4つのテーゼ1「私たちが世界や自己を理解するために用いる言葉は、『事実』によって規定されない」について考察する。事実と言語について、社会構成主義のモデルとデザインのモデルを考えると次のような関係が見出せた。

社会構成主義のモデルでは、ありのままの世界が社会の事実としての実体であり、それを言語、言説で写すことはできない。言語で言い表したものは表象であり、社会的構成である。

それに対し、デザインのモデルは、まず未来の事実が内包された社会の希望(注1)を考え、その後に形として実体のあるデザインされたものを作り出す。すなわち、デザインは、社会の希望をデザインされたものへ変換するプロセス(=Designing=社会的構成)と捉えることができる。

(注1)ここでいう「希望」の意味は整理が必要。他の分野での「希望」の使われ方や先行研究を見る必要あり。

デザイナーのデザイン行為で具体的に考えてみると、下記のような《実体》と《言語(表象)》を行き来するループが起きていると捉えられることを発見した。

社会構成主義モデルとデザインモデルの関係性

プロトタイプモデルをまず形づくってみる《実体》。それを見て使った人が「これじゃ使わないよ」と意見する《言語》。その意見をもとに未来のよりよい状態《実体》を考え、デザインする。デザインされたものは、《実体》としてそれが社会の事実となり、また使ってみて意見をもらえるようになる。

デザイナーは、言語化を可能にする社会の事実としての実体を形づくることができ、常にそのデザインされたものを持って人と会話をしている。これができることがデザイナーの強みだと捉えることもできる。また、デザイナーは「デザインしたものごと」(社会的事実)を別のフィールドに持っていき、応用することができることにも気づいた。

Zuzieのデザイン

Zuzieに当てはめて考えると次のように考察できる。

Zuzie初期モデルは、個々の絵の関係性を自動生成する仕組みだった。しかし、それを見た学校の先生は「これでは子どもたちは使わない」と言った。その意図を推測すると、次のようになる。

《推測》先生は、子どもたちが使いたいと思うようなものを作ってほしいと思っていた。

《推測》先生は、子どもたちがZuzieを使って子どもたち自身が作っている状況を作りたいと思っていた。←実践者(注2)の「希望」(注1)

Zuzieの次のモデル開発では、「子どもたちは、自分たちで物語をつくりたい」をデザイナーが考えた「希望」として、進めた。その「希望」をDesigningのプロセスを経て、Zuzieツールと活動プログラムという実体に変換したと捉えることができる。

(注2)ここでいう「実践者」とは、デザインされたものを使って活動する人たちを指す。Zuzieの場合は、例えば学校の先生と生徒たち。

Designingにおける意味の生成

社会構成主義のデーゼ2「記述や説明、そしてあらゆる表現の形式は、人々の関係から意味を与えられる」について考察する。

デザインされたものごとだけでは意味(注3)はない。Zuzieを例に考えてみる。

(注3)ここでいう「意味」の意味とは、「評価」、「価値」が近い。

社会構成主義とDesigningにおける意味の生成

デザインされたものごとだけでは意味を持たないが、それが使われる社会の中で人々がものごとを利用することによって意味をもつようになる。表現活動のモデルは、人々の対話によって重要な意味を持つようになる。表現ワークショップ@2008未来館のスケッチ作品「アシモの足もかきました(作者MN君)」を例にあげてみると、次のようになる。

MN君がアシモの足だけ描いた。《着目》

→友だちが「なんで足だけ描いたの?」と尋ねた。《問われる》

→MN君「アシモの技術は足にあるんだよ。」《発言の共有》

→アシモの足だけ描いたことで、足にすごい技術があることを表した。《意味の発現》

社会的構成の非言語領域とは?

議論の中で、「『社会的構成力』が強い」という発言があった。

非言語領域の社会的構成力

これまでに読んだガーゲンの社会構成主義、パースのアブダクションでは、いずれも言語化することについて述べられていた。ただ、非言語でどのように表現するかについては触れられていなかった。デザインは非言語で表現することを得意とする領域であり、社会的事実を非言語で示すことについては、今後まだ考える余地がある。

ここまでの議論を踏まえ、仮説として下記のようなデザイン研究の主張をたてた。

「Designing(デザインすること)もまた、社会的に構成されている」

2016年6月24日10:00〜12:00@藝大
須永、小早川、平野、鈴木、瀧、栗原、内山

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