Ken Takeshige
原稿用紙1枚の物語
3 min readMay 30, 2016

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ケンです。自分のために戦ってくれているんだけど、なぜか複雑な気持ちになる。そんな物語です。

僕のために戦ってくれた人たちへ

洋介という男が賢治の前に立った。僕は横でオドオドしていることしかできなかった。

「さ、十万だ」
「――足りないんだ」

洋介がビリヤードテーブルを叩く。

「払えないなら、あんたのキューは2度と使えんようにしてやるからな。だいたい、この兄ちゃんを今まで散々カモにしてきたんだろう? 今さら払えんっていうんじゃ、示しがつかんわなぁ」

賢治はこの店で1番ビリヤードがうまい。ぼくも賢治と勝負しては、そのたびに負けていた。その様子を見ていた、この洋介という男が「弱い奴をカモにする奴が1番嫌いなんだ」と、賢治に勝負を挑んだ。賭け金は十万。

「ぼくとやるときはいつも小さな賭け金で遊んでくれてたんだ。カモってわけじゃ……」

洋介は僕を無視して、賢治に歩み寄る。

「ほら。金かキューか、出せるもんを出しな」

うつむいた賢治の横から僕はありったけの現金を出した。

「これで勘弁してください」

賢治も洋介も驚いてぼくを見る。

「ぼくは賢治さんとこれからも遊びたいから……」
「あんたカモられてるんだぞ」
「そう見えるかもしれませんが、僕にとっては友だちなんで……」
「……一生カモられてな」

この日、ビリヤード場にはひどく寂しい空気が漂っていた。

《No.93 お題:ビリヤード》

あとがき――ビリヤードっておもしろいんですよ

今日の物語を書きながら、ビリヤードをやっていた頃のことを思い出しました。

学生の頃のことです。

本当にハマっていて、毎日毎日ビリヤード場に入り浸り、地道な基礎連もやり、常連客との勝負も盛んにやっていました。

ビリヤードって最初が難しいんですよね。玉が全然入らないし、入るとしてもぜんぶ偶然。みんながよくやる “ナインボール” (1から9まで落として、9を落とした人が勝ち)をやると、最後の9を、偶然落とした人が勝ちという、まるで運任せの遊びになってしまうんです。

そこで少し練習して「2つくらいは連続で落とせる」レベルになると、ビリヤードが運じゃない、ということに気付き始めます。そこからがおもしろいんですよ。

ああああ、書きながらまたやりたくなってきちゃったなァ。

もう鈍ってるんだろうなァ。

実はまだキューは持っているんだよなァ。

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Ken Takeshige
原稿用紙1枚の物語

小説書いてます。『池内祥三文学奨励賞』受賞。世界旅を終え、作家活動中。 noteやMediumで小説を連載。ブログ『日刊ケネミック』→ http://kenemic.com | Amazon著者ページ→ http://amzn.to/1sh7d1f