ケンです。自分のために戦ってくれているんだけど、なぜか複雑な気持ちになる。そんな物語です。
僕のために戦ってくれた人たちへ
洋介という男が賢治の前に立った。僕は横でオドオドしていることしかできなかった。
「さ、十万だ」
「――足りないんだ」
洋介がビリヤードテーブルを叩く。
「払えないなら、あんたのキューは2度と使えんようにしてやるからな。だいたい、この兄ちゃんを今まで散々カモにしてきたんだろう? 今さら払えんっていうんじゃ、示しがつかんわなぁ」
賢治はこの店で1番ビリヤードがうまい。ぼくも賢治と勝負しては、そのたびに負けていた。その様子を見ていた、この洋介という男が「弱い奴をカモにする奴が1番嫌いなんだ」と、賢治に勝負を挑んだ。賭け金は十万。
「ぼくとやるときはいつも小さな賭け金で遊んでくれてたんだ。カモってわけじゃ……」
洋介は僕を無視して、賢治に歩み寄る。
「ほら。金かキューか、出せるもんを出しな」
うつむいた賢治の横から僕はありったけの現金を出した。
「これで勘弁してください」
賢治も洋介も驚いてぼくを見る。
「ぼくは賢治さんとこれからも遊びたいから……」
「あんたカモられてるんだぞ」
「そう見えるかもしれませんが、僕にとっては友だちなんで……」
「……一生カモられてな」
この日、ビリヤード場にはひどく寂しい空気が漂っていた。
《No.93 お題:ビリヤード》
あとがき――ビリヤードっておもしろいんですよ
今日の物語を書きながら、ビリヤードをやっていた頃のことを思い出しました。
学生の頃のことです。
本当にハマっていて、毎日毎日ビリヤード場に入り浸り、地道な基礎連もやり、常連客との勝負も盛んにやっていました。
ビリヤードって最初が難しいんですよね。玉が全然入らないし、入るとしてもぜんぶ偶然。みんながよくやる “ナインボール” (1から9まで落として、9を落とした人が勝ち)をやると、最後の9を、偶然落とした人が勝ちという、まるで運任せの遊びになってしまうんです。
そこで少し練習して「2つくらいは連続で落とせる」レベルになると、ビリヤードが運じゃない、ということに気付き始めます。そこからがおもしろいんですよ。
ああああ、書きながらまたやりたくなってきちゃったなァ。
もう鈍ってるんだろうなァ。
実はまだキューは持っているんだよなァ。
お願い!
こうして書く活動で生きています。
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