字が汚い、って思いました?

武重です。古い消しゴムにも価値がある、と思いませんか?


消しゴムの価値

生まれ育った家を売った。次の持ち主は壊して建て直すという。両親は東京近郊の僕の家に越してくる。

「もう必要なもんはトラックに積んだから、残ってるもんは捨てちまう」と老いた母が言う。父は外でタバコを吸っている。

パンパンと音がして振り向くと母が柱を叩いていた。ひどく乾いた音がした。

残った荷物を漁っていると、真ッ黒になった消しゴムが出てきた。

「そんなもん」と母が鼻で笑う。
「なんか懐かしいじゃないか」と僕も笑う。

タバコの臭いがすると思ったら、後ろに父がいた。

「昔の消しゴムは消えんかったなァ」
「そうそう」
「ガリガリ消そうとして紙が破れたりなァ」
「ちょっと試してみようよ」

と僕が言うと、母は持っていた鉛筆で柱に、今日の日付と僕たち3人の名前を書いた。

「消してみィ」

祈るような気持ちでこすった。やっぱり黒ずむだけで、何も消えなかった。

「ほれ見ろ」と両親は柱に残る3人の名前を見て、嬉しそうに笑っていた。

あとがき

この「原稿用紙1枚で考える」という連載も今日で30日目です。

毎日欠かさず更新を続け、書き溜めた原稿用紙もちょうど30枚。気持ちもいいし、どこか感慨深いものもあります。

途中からコラムじゃなくて、物語をメインにしたのは、思い付きではなく「いける」と思ったから。

本当は「さすがに1日1物語はつらいな」と考えてて、まず1日1コラムに挑戦して、うまくいったら1日1物語もやってみようと思ってました。

やってみると、つらくも楽しい作業でして、1枚に収まる小さな物語を1日中考えるようになりました。

平行して長編小説も書いているので、いい気分転換にもなっています。

この調子で60日目までいけるでしょうか……。

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