Ken Takeshige
原稿用紙1枚の物語
3 min readAug 5, 2016

--

突然やってきた先輩猟師。「持っているナイフを出せ」と言う。

『猟師のナイフ』

陽も落ちた夕刻、玄関の戸が開いた。「オッ!」とだけ言って入ってきたのは、先輩猟師の義仲さんだ。いつも通りの表情のようでいて、どこか固くもある。

「どうだ、獣を獲んのも慣れてきたか?」
「いえ、やればやるほど難しいです」
「そりゃそうだ、お前はまだ10年はかかる」

少しだけ息に酒が混じっているようだ。

「おめぇの使っているナイフを全部出してみろ」

言われて、猟具入れから刃物を全て持ってきた。猟を始める前にキャンプの趣味があり、ナイフはずいぶん凝って集めていた。

「これがアメリカのナイフで、こっちはフランス製、でこれが……」
「ん、わかった」

義仲さんはそう言って、肩にかけていたバッグからナイフを取り出した。義仲さんが猟で使っている大型の和製ナイフだ。木製の柄は元の色が分からないほど、シミが入り、枯れて色が変わっている。しかし、対照的に刃の部分は良く磨かれ妖艶に輝いている。

「これ、おめえにやる」
「え?」
「今まで何百頭の獲物を捌いてきた山刀だ。刃にも、柄にも獣の血が染みこんでら」
「でも、義仲さんが」
「もう、足も目も悪いんだ。今季でやめんだ」

義仲さんのナイフを両手のひらに載せるように受け取った。それは思ったよりもずっと重かった。

《No.151 お題:ナイフ》

あとがき――登山ズボンの修繕

先日、釣りに行ったとき、藪漕ぎ(藪の中を歩いていくこと)をしていて登山ズボンの膝下が大きく破れてしまいました。

そのときは応急処置として、安全ピン数本で止めてやり過ごしましたが、昨日思い立って修繕しました。

慣れない針仕事。縫い方なんて何にも知らないですが、何事も経験、とチクチクと縫っていきます。最初は不慣れすぎて、おかしな針運びをしていますが、次第に「あ、こうすりゃいいんだ」と気付き、段々と規則正しく、おそらくは丈夫な縫い方に変わっていきます。

縫った裏から、念のためナイロンパッチを当て、補強。

見た目はへたくそな修繕がされたボロい登山ズボンですが、壊れたら買い替えるという考え方が好きではないので、どうにか使える限りは使ってやろうと思っています。

--

--

Ken Takeshige
原稿用紙1枚の物語

小説書いてます。『池内祥三文学奨励賞』受賞。世界旅を終え、作家活動中。 noteやMediumで小説を連載。ブログ『日刊ケネミック』→ http://kenemic.com | Amazon著者ページ→ http://amzn.to/1sh7d1f