突然やってきた先輩猟師。「持っているナイフを出せ」と言う。
『猟師のナイフ』
陽も落ちた夕刻、玄関の戸が開いた。「オッ!」とだけ言って入ってきたのは、先輩猟師の義仲さんだ。いつも通りの表情のようでいて、どこか固くもある。
「どうだ、獣を獲んのも慣れてきたか?」
「いえ、やればやるほど難しいです」
「そりゃそうだ、お前はまだ10年はかかる」
少しだけ息に酒が混じっているようだ。
「おめぇの使っているナイフを全部出してみろ」
言われて、猟具入れから刃物を全て持ってきた。猟を始める前にキャンプの趣味があり、ナイフはずいぶん凝って集めていた。
「これがアメリカのナイフで、こっちはフランス製、でこれが……」
「ん、わかった」
義仲さんはそう言って、肩にかけていたバッグからナイフを取り出した。義仲さんが猟で使っている大型の和製ナイフだ。木製の柄は元の色が分からないほど、シミが入り、枯れて色が変わっている。しかし、対照的に刃の部分は良く磨かれ妖艶に輝いている。
「これ、おめえにやる」
「え?」
「今まで何百頭の獲物を捌いてきた山刀だ。刃にも、柄にも獣の血が染みこんでら」
「でも、義仲さんが」
「もう、足も目も悪いんだ。今季でやめんだ」
義仲さんのナイフを両手のひらに載せるように受け取った。それは思ったよりもずっと重かった。
《No.151 お題:ナイフ》
あとがき――登山ズボンの修繕
先日、釣りに行ったとき、藪漕ぎ(藪の中を歩いていくこと)をしていて登山ズボンの膝下が大きく破れてしまいました。
そのときは応急処置として、安全ピン数本で止めてやり過ごしましたが、昨日思い立って修繕しました。
慣れない針仕事。縫い方なんて何にも知らないですが、何事も経験、とチクチクと縫っていきます。最初は不慣れすぎて、おかしな針運びをしていますが、次第に「あ、こうすりゃいいんだ」と気付き、段々と規則正しく、おそらくは丈夫な縫い方に変わっていきます。
縫った裏から、念のためナイロンパッチを当て、補強。
見た目はへたくそな修繕がされたボロい登山ズボンですが、壊れたら買い替えるという考え方が好きではないので、どうにか使える限りは使ってやろうと思っています。