Ken Takeshige
原稿用紙1枚の物語
3 min readJul 28, 2016

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老いた母にわがままを言わせたいのだけど……。

『わがまま』

父が亡くなって何年も経ち、残された母もようやく悲しみを乗り越えたように見えた。そんな母も老いには勝てず、最近はずいぶんと弱っていた。

「ねぇ、母さん。何かしたいこととか、欲しいものとかないのかい?」

何度も何度もそう訊ねるのだが「なあんもねぇ」と首を振るだけ。妹から探ってもらったが、答えは同じ……。

いつも父の顔色を伺って生きてきた母だ。父がしたいことをし、父が食べたいものを食べてきた。その父がいなくなった今、わがままをさせてやりたかった。

「ほら、食べたいものとか、行きたいところとかさ」
「孫の顔も見たし、ほしいものなんかねぇよ」

とまた首を振る。わたしはため息をついて庭を見た。母のヤマユリが咲いている。

「ずっと我慢我慢だったろう?」
「んなことねぇよ」

芯が頑固な母は首を振るばかり。

「母さんにわがまま言わせてやりたいんだよ。親孝行をさせてくれよ」と泣き言を言うと、ようやく母はジッと考え込んだ。

「――んだなぁ。んじゃぁ、腹一杯うなぎが食いたい。お前もうなぎが好きだろう?」

結局、母さんはわたしが食べたいものを言ったにすぎない。数日後、妹も呼んで、みんなでうなぎを食べた。わたしたちが旨そうに食べるのを、嬉しそうに見ていた。

母は3ヶ月後に亡くなった。最後までわがままらしいわがままを言わせることはできなかった。

《No.147 お題:わがまま》

あとがき――コンパスと地図

登山とかアウトドアというと、みんなが注目する道具といえば、テント、ナイフ、寝袋、調理器具なんかだと思います。ネットで見ていても「ナイフの使い方」とか「テントのレビュー」みたいな記事は山ほどあります。

しかし、ちょっと注目度が低いけど、実はそれよりはるかに重要なものがあります。

それがコンパスと地図。

今どきスマホ+GoogleMapで、ナビ頼りな人も多いと思いますが、山に入ればやはりコンパスと地図が必需品。しかもただ持っていればいいというものではなく、使い方を知っている必要があるので練習が必要です。

ちゃんとコンパスの使い方が分かっていれば、山の中で迷う可能性も少ないし、遠くに見える山の名前を地図から割り出すこともできる。

地味だけど、覚えたいコンパスと地図の使い方を身につけましょう。

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Ken Takeshige
原稿用紙1枚の物語

小説書いてます。『池内祥三文学奨励賞』受賞。世界旅を終え、作家活動中。 noteやMediumで小説を連載。ブログ『日刊ケネミック』→ http://kenemic.com | Amazon著者ページ→ http://amzn.to/1sh7d1f