罠猟を始めた新米猟師。初めての獲物がかかったそのとき――。
『鹿』
「あの尾根の向こうだな、おめーの仕掛けは」
東北の田舎町に越してきた。少しでも自給自足に近づけるべく、地元の人に教わって猟を始めることにした。
「で、どうして、罠猟なんだ?」
「銃で動物を撃つ勇気がまだなくて……」
「罠の方が勇気はいるぞ」
先輩猟師は真面目な顔で言った。しかし目の前で動いている動物を殺すのは、やはり勇気がいる。
「かかってる!」
僕が仕掛けた罠のあたりに鹿が1頭、こちらを見ている。逃げようともがくが、足が罠にかかっているので、動けない。
「お前の仕事だ」
――止め刺し。
罠にかかった獣を殺さなければならない。頭を棒で叩き、気絶させ、ナイフで心臓を突く。殺しつつ、血抜きをするのだ。
「どうやれば……」
「やり方は教えただろ」
「気持ちの整理が……」
「お前が悩んだ分だけ、こいつは苦しむ。罠をかけたもんの責任だ。スパッとやれ」
「でも……」
「やれ!」
先輩が声を荒げた。その意味は分かる。鹿に目を向ける。罠がかかった足から血が出ている。あるいは折れているかもしれない。持っていた棍棒を頭に振り下ろした。鹿は軽い痙攣と共に倒れる。すぐに腹を見せるように裏返し、前足の間にナイフを突き立てた。
ドロッと血が流れる。鹿の呼吸が浅くなる。しばらくして動きが止まった。ぼくはただ突っ立っていた。振り向くと先輩は鹿に手を合わせていた。
「いつか、ぼくも慣れるんでしょうか」
「慣れるもんか」
先輩は僕の肩を叩いた。
《No.150 お題:なし》
あとがき――コーヒー街道足任せ
だいぶ前のあとがきに書きましたが、コーヒーの焙煎を自分でやるようになりました。
もう何度も何度もやっているのですが、やはり素人。焙煎加減がバシッと決まりません。
とはいえ、不安定でも楽しめるのがコーヒーのおもしろいところだったりします。というのも、あとの行程を工夫することで、結構おいしくなるんですよ。
コーヒーを飲むまでには大きく分けて3つの行程があります。
1.焙煎する(青い豆を煎ってコーヒー色に)
2.挽く(豆を粉に)
3.淹れる(ドリップしたり、エスプレッソにしたり)
で、各工程でいろんな選択肢があります。極めて大雑把に書くと
焙煎する → 深入りにして苦くしたり、浅煎りにして酸味重視にしたり……。
挽く → 細かく挽けば濃く、荒く挽けばさっぱりと……。
淹れる → ドリップコーヒー、エスプレッソ、エアロプレス(比較的新しい淹れ方で濃いめかな)
ってな具合。
で、最初の焙煎で多少の失敗をしても、後の行程で挽回できるもんです(あくまで素人レベルでの満足度ですが……)。
例えば焙煎で深く煎りすぎて苦いと思うなら、挽くときに粗めにしてみる。あるいはいっそエスプレッソにする(エスプレッソは深入りで作るのが一般的)。
焙煎で浅煎りになったなら、細かめに挽いて少し濃くして飲むとか。
ぼくが日常的に飲む程度なら、こうやって微修正しながら、美味しく飲めています。むしろ、この試行錯誤が楽しいんですよね。「う~ん、苦味が足りない、次はもっと細かく挽いてみよう」なんてネ。
至極の1杯を作るのは大変なのでしょうが、これはこれで楽しい営みです。