この子はまだ幼いから旅行に連れて行っても意味がない。そんな意見もありますが……。
『幼い子どもを旅行に連れて行っても……』
2歳になったばかりの子どもを連れて夫の実家に帰った。義母は専業主夫、義父は百人近い社員を抱える会社の社長で、威厳ある人だ。
「子育てに余裕が出てきたら、旅行でもすると気分転換になるわよ」と夫の母が言う。
「でも、いま子どもを旅行させても何にも覚えてないでしょうから……」
「それがいいんじゃない。わたしたちもね――」
夫がまだ2歳にならない頃、義父母は子連れで草津に行ったという。初めての子連れ旅行ということで、綿密な計画を立て、万全の旅行にしたつもりだった。ところが、温泉街の散策中に子どもが熱を出した。早めに宿にチェックインしようと、宿に行ってみると、何の手違いか、予約が取れておらず、満室だという。
「あのとき、主人は焦っちゃってねェ――」
義父は「子どもが! 子どもが!」と怒鳴りつつ、その宿をあとにし、草津中にある宿を回り、空き部屋を探した。あいにく観光シーズンど真ん中で、どこも満室である。それこそすべての宿で頭を下げ通し、頼み込んだ末に、ある宿の奉公部屋を特別に使わせてもらえることになった。
「あなた、あのときほど頭を下げたことないんじゃない」
義母が笑い、義父は「ふん」と照れ隠しに新聞を開いた。そんな旅行も悪くないかもしれない、とわたしも少し思った。
《No.155 お題》
あとがき――死体を山に置いてくること
最近、猟師に関する本や動画を見ています。そのなかで心がざわつく動画がありました。
動画主は北海道の山奥で鹿狩りをしています。見事、大きな鹿を仕留め、満足そう。すぐさま背中を開き、背ロースを丁寧に切り離します。滑らかな手つきで、「慣れてるなァ」と憧れの混ざった思いで見ていました。
しかし、その猟師は背ロースを取ったあと、鹿を置いて、さらに猟を続けたのです。残った鹿の身体を埋めたのか、そのままにしたのか、動画では分かりませんでしたが、持ち帰らなかったことはたしかでした。
つまり1番美味しいとされる背ロースだけを取り、あとは置いてきたというわけです。
みなさんはどう思いますか?
わたしはまず憤りを感じました。「猟師たるもの、殺した動物は隅から隅までありがたく活用すべきではないか!」という思いです。
思わずTwitterでも愚痴っぽいつぶやきを書き込んでしまいました。数日後、少し冷静になり、調べてみました。はたして、狩った動物を山に置いてくるのは間違ったことなのか、あるいはなにか正当化される理由があるのか、と。
すると、やっぱり「狩った動物を山に置いてくるのはやむなし」という意見はたくさんありました。目についた意見を挙げると……
・いつかは自然死するのだから、その死体を置いてきても山が処理してくれる(他の動物の餌になる)
・害獣駆除としての狩りだから、極端な話、食べるためじゃなくてもOK
・(ある猟師の話)「山への感謝の印として、必ず動物の一部は山に置いてくる」
などなど。どちらが正しいかと考えてみても答えはありません。結局は自分が心地よいやりかたを追求するしかないのであって、他人のやりかたをとやかく言うべきではないのでしょう。
猟に関する情報は見れば見るほどモヤモヤします。