ソーシャルニュースサイト「Digg」が息を吹き返すまで

ソーシャルニュースサイト「Digg」が息を吹き返すまで

Takahiro Shoji
Open Network Lab Blog
16 min readOct 5, 2016

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DGI投資先でもある、「Digg」 CEO Garyとイベントを開催するにあたり、Diggの歴史を改めて振り返ってみるのも面白いのでは?ということで、今回は、現在のDiggになるまでの歴史をご紹介します。

第1章 :そもそもDiggとは何か?

創業の2004年から、2012年売却までの道のりを簡単に振り返ってみます。DiggはKevin Rose氏、Jay Adelson氏を中心に2004年に開設。ソーシャルブックマーク、ブログ、RSS機能を持つソーシャルニュースの先駆け的存在として人気を得て、WEB2.0の代表格と認識されていました。
(*Digg初期はStumbleUpondeluciusと共にソーシャルネットワーク中のソーシャルブックマークという位置付けが正しいかもしれない。)

初期のDigg via dukeo

簡単なブックマーク機能から始まり、翌年には”Vote”投票により、人気コンテンツの重み付けをする機能、「Diggボタン」をリリース。ユーザーがコンテンツを作る形式のメディアのかたちを構築しました。

2006年時には、Diggはこのようにサービスを説明していました。

“What’s Digg? Digg is a technology news website that employs non-hierarchical editorial control. With Digg, users submit stories for review, but rather than allowing an editor to decide which stories go on the homepage, the users do.” via. Digg (Internet Archive)

Diggって何?Diggはテクノロジーニュースサイトです。権威的な編集はなく、ユーザーがどのコンテンツを掲載するかを判断することができます。ユーザーによる、ユーザーの為のメディアです。

また、コミュニティをリードするユーザーを評価する独自のランキングも持っていました。

via Digg Internet archive

名も無きユーザーたちがコミュニティ内でセレブのような扱いを受けていました。結果として、ランクインすることがユーザーのステータスとなりコミュニティ活性化の原動力となっていました。

第2章 :Digg低迷への道

ところが、2007年にDiggは大きな岐路を迎えることになります。Diggがユーザーに支持されているコンテンツを大幅に削除しなければならなくなってしまいます。要因は、HD-DVD暗号解除キーに関連するコンテンツがユーザーの支持を集め、トップページに掲載されたことにありました。簡単に言うとDVDをコピーできるようになってしまうセキュリティを解除できる鍵が見つかったということです。このユーザーの行為に対して、Diggは検閲行為を行い、多くのコンテンツを削除。Digg運営側としては”ユーザーのため”に有益な情報を支持していたに過ぎませんでしたが、広告主にはそうは映らず、結果この行為はDigg運営チームとエンゲージメントの高かったユーザーとを隔てる要因の一つとなってしまいました。

一方で、他のソーシャルメディアは引き続きエンゲージメントの高いユーザーを優遇する施策を取っていました。例えば、競合として台頭してきたRedditでは、コミュニティの運営のあり方がDiggとは違っていました。UGCメディアという大きな括りの中では類似サービスでしたが、完全なUGCモデルのDiggとは異なり、トピック(サブカテゴリー)毎にモデレーターをアサインすることで、スパム行為等を抑止することができました。Diggは”ユーザーによる、ユーザーの為のメディア”であったため、時としてスパム行為を”編集の力”で抑止することができなかったのですが、この頃から編集の力と、アルゴリズムの変更によりある程度スパム行為(運営側からすると不適切と思われるコンテンツをトップページに掲載するように煽る行為)に対抗する方法を模索しはじめました。

話は少し逸れてしまいますが、皮肉にも、2015年7月にRedditがモデレーターを解雇したときに、新生Diggに多くのユーザーが流れてきたこともありました。巨大なサービスになると、この手の問題の扱いが非常に難しくなると個人的に思っています。運営とユーザー双方に完全に支持したいコンテンツは時として乖離が出ても致し方ないものなのかもしれません。

諸々問題はあったものの、Diggは2009年9月の月間ユニークビジター数3,200万のピークまで成長していきました。2008年にはGoogleが約200億円でDiggを買収交渉を進めているという報道があるなど、ユーザーと運営側にわだかまりが残ってはいたものの、当時までは順調だったと思っています。

ところが2010年Diggにとって決定的な打撃を受けた事件がおきてしまいました。Diggは2010年8月にDigg v4という新しいバージョンをリリースしました。Mashableによると、バージョン3を支持する割合が78.4%と、ユーザーの支持を集めなかったことで有名なアップデートでした。ユーザーから支持されなくなった一番大きな要因は”ユーザーが重要なロールを持てなくなった”からでした。かつては、”ユーザーの為のユーザーのメディア”であったにもかかわらず、編集的な要素の強いアルゴリズムにより選ばれた記事がトップページ表示される様になりました。ユーザーにとって民主的であった場が突如として失くなってしまったのです。

この日を境に、Diggは低迷の一途をたどることとなります。Faecbook、Tiwtter、Redditに既存ユーザーを奪われ旧マネジメントメンバーのDiggは以後トラフィックが回復することはありませんでした。

第3章: Digg売却 / BetaworksはDiggを買ったのか?

一世を風靡したDiggの終わりはあっけなく、2012年にチーム、テクノロジー、ブランドの3つのピースに分割されたて売却することに。チームはワシントン・ポストへ(約12億円)、テクノロジー(特許など含む:Diggボタンの投票機能など)はLinkedInへ(約3.5億〜4億円)、ブランドはBetaworksへ売却されました。特にブランドの売却に関しては、安すぎる!ということで当時大きな話題になりました。

一時期、約200億円と評価されたDiggのソースコード含むブランドはたった5000万円となってしまいました。5,000万円でブランド買収したBetaworksの思惑はなんだったでしょうか?
Betaworks CEO John Borthwick氏の言葉を紹介したいと思います。

■Diggを買った理由

  1. News.me のプロジェクトので次世代メディアを作っていたが、ニュースメディアには絶対的な”ブランド”がない限り、”ブレイクスルー”を起こすのが非常に難しい。Diggブランドをこのプロジェクトに追加することで、自らのスタジオカンパニーのプロジェクトを加速させることができると思っていた。
  2. Revitalize (リバイラタイズ): 一度終わったサービスを再生することは非常に難しい。過去にFriendStar, MySpace等有名ながら散っていったサービスは数多い。実際に息を吹き返したことはあるサービスは稀。Pivotと言われる形で事業の形態を変えることはスタートアップに取って常套手段のように言われているが、同ブランドにおいてレピュテーションを落としたサービスが息を吹き返すことは非常に難しい。
  3. Digg単独では、一度刺さった針は抜けないように、過去に築いた広告主との関係、投資家との関係、従業員全てにおいて、全てをゼロからやり直すのは非常に難しい。ゼロリセットするには、いい機会なのでBetaworksが進めていたプロジェクトにDiggのブランド名を被せて新生Diggとすることにした。

つまり、Betaworksがブランド名を用いて再生させる際に考えたことは、”一度地に落とすほどリセットして、どこまでバウンドして戻ってくるか見てみようじゃないか”ということでした。そこまでしないと、過去の栄光を振りほどいて新しいチームでドライブすることはWEBサービスにおいては難しいのかもしれないということだったのです。

ここから先は、ようやく今のDiggが生まれるまでの話となります。

最終章 :今のDiggが生まれるまで

新生Diggの前身である会社News.meを率いていた現Digg CTO Michael Young氏が、2012年にBetaworksがDiggを買収した背景を2015年にブログで振り返っています。最後にそれを紹介したいと思います。

(一部本人の最近のコメントに基づき翻訳版は修正・加筆しています。一人称を”俺”にしたらややハードボイルドな感じになってしまいました。実際は物腰の柔らかい優しい人です。)

ーーー以下 マイクのブログ翻訳ーーー

Diggはかつてインターネットサービスにおけるトップランカーであった。面白いコンテンツが共有される健全なコミュニティがあった。骨太の議論が多岐のトピックスに対して日夜繰り広げられる場所であった。その後様々な事があった。Diggの”死”は様々なWEBの様々な場所で議論の対象になった。

「Diggまだやってるの?」

一般の人の意見を集約すると、「Diggってまだあったの?」という言葉に集約される。

答えは、「元気にやってます。でもマネジメントは一新された環境でね」です。

それでは、いままで何があったのか?

時間は2012年夏までさかのぼる。俺は当時News.meというプロジェクトのチームを率いていた。News.meはNew York Times R&D Labのプロトタイプとして組成され、数年前にBetaworksにプロジェクトごと組み入れられることになった。News.Meには大きな野望があったが、結果として非常にシンプルなプロダクトになった。Tiwtterで最も共有された話題を一日一回メールで配信するというプロダクトだ。

2年間プロジェクトを続けていたが、ユーザー数は10万人程度の小規模の状態が続いた。会社として単独で運営するには物足りない。チームにとっては最後になにか一つ捻り出し、一発逆転を狙うしか術がない状態だった。但し、アイディアはそこになかった。

2012年6月Betaworks CEO John Borthwichが俺を会議室によんだ。

”Diggを引継ぐアイディアはどう思う?” とJohnは訪ねた。

“Diggはまだあるの”と俺は答えた

”お前マジで言ってるのか?(Wow, you are nuts! 割りとスラング)”とJohnは言った。俺はいまでもこのやり取りを忘れない。

JohnがDiggを引継ぐ計画を話す際に、過去数年のDiggのトラクションを見せてくれた。

v4というバージョンをリリース後にユーザーは反乱をおこし、Reddit、Twitter、Facebookやその他の場所へ去っていった。下図v4以降のトラフィック推移。もう救いようがないくらいにユーザーが離れていったのが分かる。

そのミーティング中にJohnはDiggのブランドが如何に強力であったかと力説した。

そして、Johnはかつて200億円と評価されたDiggのブランドを買収するオファーを出していると言った。DiggのTwitterアカウントは数百万のフォロワーが残っており、どんなユーザーかは分からないがまだDiggを使っているユーザーもいた。俺は考えれば考えるうちに、どんどんDiggを引継ぐことに対して興味を持っていった。

栄枯盛衰を経験したテックブランドの息を吹き返すプロジェクトがどれほど面白いことか!失敗して地に落ちたとしても、コレほどに熱くなれるプロジェクトがあるのだろうか!

俺は直ぐに、”WTF(ふざけた事言わないでくれよ)”という気持ちから、”やってやろうぜ!”とう気持ちに切り替わった。

でもそこには、”一つ”だけ警告があった。「再構築するまでのデッドラインは6週間」

当時、Diggには旧Diggを維持するために700もの物理サーバーがベイエリアのどこかにあった。(AWSがまだローンチされる前の話なので、物理的なサーバーをもつ必要があった。)プロジェクトスタートの日から、ちょうど6週間後にDiggのデータセンターの契約が終了するので、それ以降もデータセンターを利用する場合は月額2000万円以上で契約を延長する必要があった。

チームには少しだけ選択肢があった:サイトをそのまま1〜2ヶ月存続させホスティングに必要な2000万〜4000万を支払う。又は、6週間でできるだけのことをやり付け焼き刃のサイトを構築し、データセンターが稼働する最後の最後で切り替えるか。もちろん、追加でホスティングにお金を支払う選択肢は選ばなかった、結果6週間で”何か”を構築する必要が課せられてしまった。

新しいDiggを作る

プロジェクトを始めるときの熱意をそのままに、自分自身に課した重荷を再確認する事となる。チームの抱えるTODOリストは膨大な量になった。

1.あたらしい”サイト”を作る

2.iPhone AppとモバイルWEBを作る

3.コンテンツの運営、運営のマネジメントシステム(採用と制作)

4. 既存ユーザーが過去のDiggs(ブックマークのようなもの)、コメント、投稿をダウンロードできる仕組み

6週間という限られた時間の中で、コミュニティの機能を解体する必要があった。

コミュティ機能を改善する方法を見つけるまで、この機能は一旦切り離そうという考えになった。(ヒント:そもそも時間がなかったので)

BetaworksがDiggのブランドを買収するニュースはまだリリースしてなかったので、コードネームを作る必要があった。チームのメンバーが全員Arrested Developmentのファンだったため、Diggのプロジェクトを“the banana stand”と呼ぶことにした。

当時ディールを担当した弁護士は良いユーモアの持ち主だった。エンジニアチームがてんやわんやしながら新しいDiggを作っているときに、彼らはDigg買収のタームをまとめ、俺のチームのために、“bananastand inc.”という法人を設立した。当時の証拠がこちら。

6週間の再構築をするために、チームの採用を進める必要もあった。

編集チームとエンジニア数名を採用しチームは6人から12人になった。非常に難しい課題を課せられたこの12人が42日間で成し遂げたことを紹介したい。

(このグラフは明らかにDiggのデザインディレクターの編集が入ってない)

デッドラインの最後の日、7月31日に新しいDiggには沢山のバグが残っていた。しかし、数時間後に今あるDiggから新しいDiggに切り替える必要があった。一回切り替えたあと、ロールバックすることはできない。新しいDiggに切り替え、トラフィックを新しいDiggに送り始めた。

昔のDiggから新しいDiggに切り替わったときのUI。

うまく行ったと思うでしょ?

新しいDiggをローンチしたとき、新しいDiggに対するフィードバックが正直怖かった。

Apple App StoreとTimesの”2012年度ベストウェブサイト”に選ばれたことよりも、ユーザーからの反応が嬉しかった!

悪くない?驚くほどいい?これからはNews.meのチームが新しいDiggを引っ張っていくぜ!たった6週間でここまで出来たことが正直うれしい。でも、いくつか大事な機能を切り落としたことも忘れてはいけない

  • Diggボタンの立ち位置
    スパマーと悪意のあるユーザーがDiggボタンを不適切なコンテンツを上位にあげる行為を熱心にしていた。編集チームが良質なコンテンツをあるべき場所に設定する権限をもたせ、スパムからの攻撃を不正だ。一方でDigg機能はなくなった。
  • コミュニティの閉鎖
    悪名高いv4アップデートでコミュニティは過疎化していた。新生Diggは良質なコンテンツに着目し、コミュニティの再生は時間をかけて検討することにした。
  • コメントの閉鎖
    当時Diggを賑やかしたコメントにとりユーザー間の議論の場はコミュニティ無きDiggにとっては不要のものとなった。また、他のプラットフォームは既にこの分野で大きくなったため新生Diggをリリースしたタイミングでは不要と判断した。コメント機能も時期を見て再検討することとした。

2015年6月、新生Diggをリリースして3年後のDiggの状況

2012年にDiggを引き継いでからフロントページの数回のメジャーアップデートを行った。RSSリーダーのDigg Readerをリリース。News.meの機能を引き継いだDigg Deeper(Twitter上でフォローしてるユーザーが多くツイートしてる記事を名寄せするツール)をリリースした。編集チームは熱心にWEB上にある最も興味深いコンテンツを日夜探した。今では編集チーム自ら記事を書くようにもなった。また、コミュニティ機能を復活させるプロジェクトもスタートしている。(*この機能はAMAとして復活した。)

2016/10/07 (金) 18時開催するイベント詳細は、こちらをご覧ください。

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