Digg and Digg (Gif via Diagonal View/YouTube)

Digg // テクノロジー企業への変革

Takahiro Shoji
Open Network Lab Blog

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Digg CEO Gary Liu とDiggがどのようにソーシャルニュースサイトからテクノロジーカンパニーに形を変えたのかをイベントを通して振り返ることができました。(THE BRIDGEさんありがとうございます!)

今回は「ソーシャルニュースサイト「Digg」が息を吹き返すまで」の後の話をご紹介したいと思います。前CEOの Andrew McLaughlinの考えも組み入れながら、これからのDiggを紹介します。

第1章:新生Diggが目指したもの

デジタルメディアのあり方は日々変化しており、Diggは新しいメディアのあり方を模索する中で現在の形になりました。

権威的な編集の介在しない”ユーザーによる、ユーザーの為のメディア”であったDiggは編集の手を介在し、質の高いトレンドコンテンツを配信するキュレーションメディアとなりました。何をソースにどのようにキュレーションすべきか?このトピックに対して2012年〜現在に至るまで一貫しているコンセプト図があります。Diggは常に、「Editorial=編集」、「User Data=ユーザーデータ」、「Social Data=ソーシャルデータ」の3つのデータを精査し、毎時最適なコンテンツをトップページに配信するようにしています。なぜこの3つのデータを尊重する必要があるのかを過去のインターネットトレンドも少し交えて紐解いていきたいと思います。

Diggの立ち位置

メディアが配信するコンテンツはかつて新聞社などを中心とした「Editorial=編集」から始まりました。代表格として、The New York Times(1951年創刊)は優良なコンテンツを優秀な記者が配信することで、高学歴の読者を獲得し、これらの関係性が長年媒体社としての権威性を保つことができました。そしてファーストパーティーのコンテンツはダイレクトに消費者へ届けられました。時は流れ1995年〜2005年デジタルメディア黎明期に最も栄えたポータルメディアにおいては、Yahoo! 、AOLなどが編成というフィルタリングを通して、権威性のある媒体社の記事をトレンド記事としてオンラインで配信し始めました。ことときもまだ、ニュースソースは権威性のあるメディアの編集者から配信されたものを中心として扱っていました。インターネットサイトを持つこと自体ハードルがたかったため、ポータルメディアと権威性のあるメディアはそれぞれの立ち位置と存在意義をしっかりと保つことができました。

ところがインターネット上にコンテンツを持つことが簡単になり、インターネット上に様々情報が爆発的に増加しました。それらの情報はニュース性のあるコンテンツも多くありました。これらのコンテンツの増加に対して、限られた編集の手のみで幅広いトピックに対して対応することが難しくなってきました。(ニュースの鮮度という観点で、権威性のあるメディアからの情報配信が遅れを取るようになってきたとも言える。)

2005年〜2010年このタイミングで所謂Web 2.0といわれていたようなDiggのようなCGMメディア(アメリカではUGCメディアと言う。どこからUserとConsumerが入れ替わって和製英語になったのかは謎。)が多く支持されるようになりました。ポータルメディアとは一味違うコンテンツを発見できる場所として、良い立ち位置をつかむことができたと考えています。ユーザーが多くブックマークした情報、RSSリーダーで読んだ情報等に基づき、最も今読むべきコンテンツとして、Flipboard等が美しいインターフェースで表示するようになりました。User Data = 多くの人が読んでいる(ブックマークしてる)ので、あなたも読んだほうがいいのでは?という類のデータだと私は認識しています。

続いて、Twitter、Facebookを代表格としたSNSがインターネットユーザーが時間を消費する場所となり、多くのコンテンツがSNS上で拡散させるようになりました。また、繋がりのある人から共有されるコンテンツのため、比較的属性の似ている人から、ちょっと手の届かなかったコンテンツを網羅し見て見れるいい感じの環境ができあがりました。(と考えています。)流行り言葉であった、コンテンツとのセレンディピティ(素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること)が多く生まれたことでしょう。2010年〜2015年はSNSサービスと相性の良いスマートフォンが普及したことで、かつてないほどのユーザーがインターネットに日常的につながっている状況が確立されました。

Social Dataは拡散性とセレンディピティという点から大事なデータだと認識しています。但し、Social Dataにおいて、拡散性=高クオリテイの方程式は成り立たないと考えています。(相関関係はあるものの、因果関係はない。)ソーシャル上ではタイトルのみ素敵な(釣り記事)のような低俗なコンテンツでも多く広まる傾向があり、多くの”シェア”を獲得したコンテンツ=良質なコンテンツとして認識することは難しいと考えています。

※”良質”はエンタメ性として良質なのか、Diggとしておすすめしたいコンテンツとして”良質”なのかという”良質”と判断する基準はいろいろあると思うので、細かい点は省きます。Diggとして配信すべき基準から、”良質”なコンテンツとして判断するには、Social Dataのみでは不十分なため、「拡散性=高クオリテイの方程式は成り立たない」と上記では説明しています。

少し長くなりましたが、インターネットのトレンドの変化と共に、情報を整理する基準は複雑になってきました。Diggでは、同じようなことを言っている類似性の高いコンテンツが多い中で、ユーザーは何を読むべきなのか?を”Editorial=編集”、”User Data=ユーザーデータ”、”Social Data=ソーシャルデータ”の3つのデータのバランスをみて決めています。

どのような基準をこの3つのデータから導き出すのかは、次の章で説明します。

第2章:データ分析から配信までの流れ

Diggではコンテンツ配信する際に、最初にUser DataとSocial Dataの2つのデータを分析します。Diggでは、毎日約750万コンテンツを分析対象としています。これらのデータソースは、Diggが提供するRSSリーダー”Digg Reader”(1,000万フィード/日)、Twitterのリンクを抜粋しフォローしてるユーザーのトレンド記事を把握することができる”Digg Deeper”(約22万人のアカウントの2億ツイート/日、400万リンク/日のデータ)やサードパーティデータから分析対象のコンテンツに紐づくリンクを選定します。

Digg ReaderとDigg Deeper

全てのコンテンツはクラスタリング分析を通して、特定のトピックに対してのコンテンツという集合郡を構築します。(下図参考)このトピックの集合郡の中で最も「読まれているコンテンツ」をDigg Reederのクリック情報に基づき判定します。(Digg自体主なユーザーはメディア界隈に携わるユーザーが多いため、ここから良質な情報を取得することができる。どのようなソースを大事にしているかといった点も把握が可能。)このような流れで、日々話題トピックの判定とトピック内でクオリティの高いであろう記事にフラグを立てる重み付けを行います。ここまでの分析を自動化して、Diggに載せるべきコンテンツランキングを算出します。ここから先は、Diggの編集者がDiggユーザーに読んでもらうべきコンテンツを目視で最終選定し、配信します。

Clustering & DiggRank

また、Diggでは編集スタッフ多くに若手を登用してます。SnapChat、Medium等、新しいプラットフォーム上でのコンテンツが重要と考えているため、新しいプラットフォームを縦横無尽に使いこなせるデジタルネイティブ世代が面白いと思う”感覚”をDigg基準のキュレーションにおいて大事にしています。これが、Diggにおける「Editorial」の要素です。

データ利用方法の事例としてアメリカ大統領戦に特化した、コンテンツのキュレーションをテスト版として運用しています。ドナルド・トランプヒラリー・クリントン関連のコンテンツを自動で編成する機能がこれにあたります。予め注目を浴びてるトピックであることが予想できたため、同トピック内で支持を得ているコンテンツをUser DataとSocial Dataにコンテンツの鮮度という観点に重み付けを足したロジックで関連コンテンツのキュレーションを配信まで一貫して自動化しています。

第3章:ユーザーとのエンゲージメント

Diggはインターネット上の数多のコンテンツから、”読むべきコンテンツ(Good to read)”を配信することを目標に、日々改善中です。「Diggへ行けば最新のトレンドを良質なコンテンツで把握できる」というブランディングは徐々に構築できてきていると考えています。MAU約1,200万、これらのユーザーの6割以上は直流入。(URL直打ち、又はブックマークからの流入)と非常に高いエンゲージメントを保っている。)DGIでの初回投資実行時は約7割が直流入でした。(トラフィックが増えるに従ってロイヤリティの高い割合が下がったのは悩ましい!総数は増えましたが、全体のユーザーに対するロイヤリティの高いユーザーの割合は下がりました。)

また、Diggは能動的にコンテンツを取得する意欲の高いユーザーから高い評価を得ています。高学歴、高収入、メディア界隈に携わるユーザーが主要な属性です。逆を言えば、ニュースはFacebookとTwitterのフィードで事足りるというユーザーはDiggを使いません。「Diggってまだあったの?」「Diggってなに?」等の名を馳せていた時代のDiggのことを連想したり、そもそも知らないということも多くあります。悲しいことにサンフランシスコ拠点の投資先の多くは「Diggってまだあったの?」という意見が多いです。(ニュース読まないでプロダクトを一生懸命作っていると信じることにしています。ちなみに、Diggの拠点はニューヨークのチャイナ・タウンです。)

ユーザーの属性がしっかりしているため、広告という観点では良い媒体に仕上がってきていると考えています。MAU1,200万だと収益もばっちりに見えるかもしれませんが、社内ではMonetizable Users (マイネタイザブルユーザー:収益化に結びつくユーザー数)という指標を見ています。Diggでは、デスクトップからアクセスするユーザーはこの区分に該当すると考えています。モバイル端末からアクセスするユーザーをしっかり収益に結びつけることができてないという点は、今後改善したいポイントです。また、将来的にどのような”数字”が収益に結びつくマジックナンバーとなるのかは、まだ分かりません。後述するメッセージングプラットフォーム上でのサブスクライバー数や、キュレーションしたコンテンツリストのAPIをコールする数、どのような機能の、どの数字が今後のDiggを牽引するのかは今は分かりません。分かっていることは、「新しいユーザーにリーチすることが非常に難しくなってきた」ということです。

第4章:これからのDigg

新しいユーザーにリーチすることが非常に難しい。多くのメディアがこの課題と常に戦っていると考えています。Diggはもれなくそのうちの1社です。この問題に対して、Diggは新しいコンテンツの”配信の方法”を模索中です。

「Editorial=編集」の時代は質の高いコンテンツを編集者が書くことが競合から読者を獲得する手段でした。「Soial Data=ソーシャルデータ」の時代はBuzzFeedやNow Thisの用にヴァイラルするコンテンツが重要視されました。但し、Facebook以降のプラットフォームではどのような生態系が生まれるかはまだ分かりません。ただし、傾向からある程度予測することはできます。ポータルメディア⇒オープンウェブ⇒モバイルウェブとインターネットの歴史をザックリ3つに分けてみます。この3つの大きなセグメントの次は、メッセージングアプリだと考えています。ユーザーが複数のアプリを縦横無尽に使いまくるという利用傾向から、少数のアプリを使い込む傾向に変化してきています。そのしっかり使われるアプリの代表格がメッセージングアプリだと考えています。この新しいプラットフォームに対して配信できるコンテンツ、配信する方法非常に大事になってくるとDiggは考えています。

また、モバイルウェブと上記ではザックリ書きましたが、さらに強引に言えばモバイルウェブ=Facebookと考えています。Facebook上での拡散を重要視したBuzzFeedはインターネットに関わる人であれば知らない人がいないくらい”立派なメディア”に成長しました。ネタ系コンテンツから始まり、いつの間にか社会派なパリッとした記事を配信し始めました。配信すべき場所で、どうやれば一番リーチを増やすことができるのかというグロースハックに非常に長けていたのだと思います。(モバイルウェブの前はSEOが最重要だったと思いますが、SEO問題へ触れると終わりが見えないので、今回は割愛します。)つまり、モバイルウェブの時代には、既存の新聞配達というビジネスモデルを破壊する大きなインパクトがありました。

話を戻して、次はどこのプラットフォームが主戦場になるのか?おそらくメッセージングアプリです。検索してあれこれを探して、目的のサイトであれこれするという従来のプロセスが、メッセージングアプリ上でチャット形式でなんでも解決するようになりました。メッセージングアプリ上で戦うために、Diggは試験的に”Digg Bot”というSlackアプリを開発しました。Slackで、DiggBotを登録すると、「今日のトレンド記事(Digg編集ピックアップコンテンツ)」などが、定期的に配信されます。特定のクエリ(キーワード)に対して、相関性の高いコンテンツを返す機能も持っています。例えば、「NowThisとかがディスカバリーに買収されたの知ってる?」という質問を投げられたとすると、Diggが一生懸命自動で返信できるようにする実験です。将来はDiggと会話すると自然と最新のコンテンツがキャッチアップできるようになるかもしれません。むしろ、なって欲しいです。今は「大統領選」や「ハリケーン」などの単一キーワードに対して、関連コンテンツをレコメンドする機能にとどまっています。

Digg Botのキャラクター?

Diggは技術力を強化しました。Digg Botの母体となっているは、強力なニュース検索エンジンとレコメンドするニュースの重み付けをするアルゴリズムです。大統領選の名寄せはこれらの機能が使えるのかという実験でした。精度が良かったのでDiggのトピックスの一つとしてカテゴリーを設定するだけではなく、Digg Botとして”配信の方法”を変えました。これは非常に重要だと考えており、BuzzFeedがFacebook,、Twitterでの拡散を促す手法が良かったため、新規ユーザーを多く獲得できたように(コンテンツも良かったが)、新しいプラットフォームにおいては新しい方法を模索するしかないと考えています。Diggでは、Botという形でハッスルしています。

最終章:Content + Packaging + Distribution

優秀な記者が優良なコンテンツを”書く”ことで読者を得ることができました。どこでどのように見せるか?という点を意識しないとインターネット上では、新しいユーザーへリーチすることが難しくなりました。でも最後は、ロイヤルユーザーはどこへ行った?どこから来るのか?というように時代とともに、メディアが取り組むべき課題は多く、煩雑なものになりました。

Diggはこれらの課題に対して、下記のような概念を持つようにしています。Content + Packaging + Distribution(編集 + 編成 + 配信)これらのどれか一つの分野に精通していれば、マーケットでの存在感を出すことができました。但し、今はこれらの分野を統括することがメディアとして大事だと考えています。Diggは欲張りなので、この3つを全部自前でやろうとしています。むしろ、やらないと生きていけないと考えています。

この戦略が正しいか、間違っているかはマーケットが判断してくれます。

良い結果がでたらまたDiggの近況をレポートしたいと思います。旧Diggのようなことにならないように切実に願いたいと思います。旧Diggはインターネットビジネスにおいて最も成功した失敗と言われているので、 同じ轍を踏まぬよう、精進します。

— — —— 【補足】 — — — —

イベント中にいただいた質問で2点簡単ですが、補足として紹介します。

Q:SEOって重要ですよね?

A:非常に重要です。但しDiggの場合は少し違います。キュレーションメディアでかつ、書くリンクに対して中間ページがないため、SEOを頑張れる場所があまりありません。少しではありますが、Diggの記者が編集したコンテンツを掲載しているので、そこに幾つかキーワードがヒットします。DiggでSEOの数字を活かす方法はとてもユニークです。Chartbeatというリアルタイムでアクセス解析ができるプロダクトを使い、検索流入が多いコンテンツを特定します。検索が多い=注目度が高いと判断し、このコンテンツに相関性のあるトピックの重み付けを強化し、より多くの関連コンテンツをトップページに設置します。DJがこの曲盛り上がってるから、次はこれでしょ!みたいな感じのことをトップページで行っているのです。

Q:分散型メディアとかってどうやって生きていくのか?

A:明確な答えはありません。ただし、トラフィックを自社サイトに寄せる動き(原点回帰みたいですが)は多くなると個人的に考えています。例えば、The Daily BeastはFacebookのInstant Article対応とGoogleのAMP対応をやめました。(凄く極端な例ですが。)結局はどこかでトラフィックを稼いでも、結局それらはマネタイズにつながらない数字だったからではないかと考えています。Yahoo!砲の恩恵はいつまで続くのか?というトピックも同じかと思いますが、あくまでブランドを認知してもらい、エンゲージメントの高いユーザーを集めて実直に成長するしかすべはないのだと思います。VOX mediaとBuzzFeedはこの手の施策が抜群にうまかったと思います。(そのうちしっかり調べたい!)大事なのは「メディアに取って本当に大事な指標は何か?」を本質的に見極めることが大事なのだと考えています。

— — — — 【Special Thanks】 — — — —

Gary Liu, Andrew. Thank you for sharing your thoughts about Digg. Please use google for Proofreading!

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