【じぶん図書館のつくりかた】蔵書を集めよう【第3回】

本の冊数は必要ない。それよりも図書館の「テーマ」が大事。

森哲平
ナガヤ図書館 おとなり3
9 min readDec 12, 2017

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図書館なんて誰にでもつくれる。簡単につくれる。そのつくりかたをご紹介する本連載。今回は蔵書の集め方について話していきたいと思う。

「図書館」というと「本がたくさんある」場所というイメージがある。だから、「たくさん本がないと図書館ができない」と思ってしまいがちだ。けれども、実は冊数はそんなに必要がない。

というのも、本当に本がたくさんある場所こそが、それだけが図書館だとしたら、公立の図書館が、公立の図書館だけがあれば十分だからだ。

我々「じぶん図書館」運営者が考えなければいけないこと。それは本をたくさん集めることではなく、「どんな本を集めるか」「どんな本との【出会い】を提供できるか」なのだ。

まずは図書館のテーマを決める

たとえば「障害者とその運動についての本だけ集めた図書館」なんてどうだろう。「料理や食に関する本だけを集めた図書館」は? ミステリだけ集めた図書館なんてのもいい。そのジャンルに興味がある人なら「行ってみたい」と思うはずだ。そして、同じジャンルに興味がある人が集まってきたら、その場は自然に盛り上がる。

だから、大事なのは「本をたくさん集める」ことではなくて「どんな本を集めるか」なのだ。

だいたい、今の時代、何でも検索すれば何かしら情報がヒットするもの。最初から「読みたい本」がある人は、AmazonなりGoogleなりで自分で調べて手に入れてでも読むだろう。

評論家の東浩紀が『弱いつながり 検索ワードを探す旅』で述べている通り、インターネットだけでは手に入らないもの。それは情報なのではなく(情報は検索すれば出てくる)「検索ワード」なのだ。

たとえば「内田百閒」を知ってる人なら、Googleで検索できるが、知らない人はできない。本との出会いを提供するとは、「検索ワードを提供する」と言い換えることもできるんじゃないか。

特定のテーマだったり、独自のキュレーション、編集センスで集められた本棚。そこにこそおもしろさがあるのであって、「じぶん図書館」運営者は冊数の多寡はあまり気にしてなくていい。

自分だったら、どんな本が並んでる図書館にいたら楽しいか。あまり他人のことは気にせず、自分がいて心地よい空間をつくることを心がけよう。それがそのままその図書館の個性になる。

図書館をつくれば人が集まる。本棚をつくれば本が集まる。

図書館をつくるためには本を集めなければならない。そう考えてしまいがちだが、発想としては本当は逆なのではないか。つまり、「図書館をつくれば」「本棚をつくれば」本は集まってくるものなのだ。

よくいるのは「本が集まったら図書館をしたい」という人。完璧主義の人に多い発想なのだけれど、これだと本が集まるまで、いつまで経っても図書館はできない。実はとにかく「図書館をつくっちゃう」ことがポイントだったりする。

たとえば「料理本ばかり集めた図書館」をつくったとしよう。そうしたら、自分も気にして料理本を集めるだろうし、地域の人に「料理本だけを置いた図書館をつくったので、自宅にある料理本を持ってきてほしい」と広く呼びかければ、みんな結構本を寄贈してくれたりする。

「この世で一番美味しい鮭料理って何?」。人はクイズを出されると、その答えを自然に考えてしまうものだ。本棚は「クイズ」「問い」だ。その問いに合う答えって何だろう? それをみんなに考えてもらえばいい。これってとてもおもしろいことじゃないかな。

自分の蔵書でスタートする

では、具体的に本をどうやって集めるかだけど、これはもう大きくわけて二つしかない。自前で本を用意するか。それとも人からもらうかだ。

図書館をやりたい!という人なら、既にある程度、本は持っているはずだ。それをそのまま蔵書にすればいい。本棚にはその人の歴史や個性が詰まっている。「図書館のテーマなんてなかなか思いつかないよ」。そう思う人もいるかもしれないが、あなた自身が読んできた本。それだってそのまま一つの素晴らしいテーマだ。

ぼくは友人の部屋に行くと、まず本棚を見てしまう。その人がどんな人か。本棚を見れば、その人のことを結構知ることができる。本棚をじーっと見ていると、みんな恥ずかしがるけれど。

ぼくの場合、自宅にある本の一部を図書館に持ってきた。テーマに合わなそうな本、簡単にブックオフで見つかりそうな本などは自宅に置いてあるけれど。それでも1000冊くらいにはなった。

もちろんさっきも言ったように、本の冊数は図書館のおもしろさと直接は関係がない。誰も手にとらない、読まれもしない本ばかりが大量にあったって、興味を示す人はいない。「あそこの図書館にある本はどれもおもしろい」。目指すのはそんな図書館だ。

他人から寄贈してもらう

それでも自分の蔵書だけでは心もとない。そういう人は、思い切って本の寄贈を募ってみよう。タダで本をくれる人なんているのか? そう思うかもしれないが、意外と気前のよい人はいるもので、自宅にある本を惜しげもなく大量にくれる人は結構いる。

ぼくが運営している図書館でも、大量の寄贈者が何人かいた。海外フィクションを中心にダンボール10箱も持ってきてくれた人から、ゲームの攻略本ばかりどっさり置いていってくれる人まで。「子どもが楽しめる図書館にしたい」と言ったら、絵本をたくさん寄贈してくれた人もいた。

ただ、他方で、寄贈を募ると「それ持ってきても困っちゃうな」という本を持ってくる人がかなりいることは覚えておこう。寄贈はしてくれるんだけど「よかったー。捨てる場所に困ってたんだー」って平気で言って、どっさり、あまり欲しくない本を置いていく人は少なくない。

だからこそ図書館にはテーマが必要なのだ。

テーマやコンセプトを決めずに「自宅にある本、寄贈いただけませんか」と呼びかけると、要するに「ブックオフ以下」の本ばかりが集まる。本の処分や整理で時間ばかりが取られてしまう。そんな本がたくさんあっても、図書館の利便性は下がるばかりだし、何より本棚には限りがある。「何でもいいから持ってきて」は、寄贈を募る上で絶対に言ってはならない。本でドミノでも作るなら別だけど。

さっき「本棚をつくってから本を集めろ」と言ったけど、本を集めるのをイベントにしちゃうのも一つの手だ。「植本祭」なんて言い方をするそうだけど、「みんなで本を図書館に植える」。これ自体が楽しいイベントになる。

何でもそうだけど、人間は自分が手をかけたものを大事にする。業者に頼んで芝生を植えてもらうのもいいけれど、お金がかかる。それよりは「みんなで芝生を植えませんか」とすればそれが一つのイベントになるし、その場所に人が集まる理由になる、ってわけだ。「あそこの芝生、ぼくが植えたんだよ」。他人の場所じゃなくて、そこが自分の場所になる。

本も芝生と同じだ。既に完成された図書館もそれはそれで一つの魅力があると思うけど、不完全なものをみんなで完成させていこう。そう呼びかけて、本を持ってきてもらう。みんなで図書館をつくる。図書館をつくりたいという人は、おそらくそこを「みんなの場所」にしたいと思っているのではないか。だったら、つくるところからみんなに参加してもらおう。

ちなみに寄贈を募る場合は、いただいた本は後で返却しかねる旨、事前にちゃんと伝えておこう。所有者は誰になるのか。本はどう扱われることになるのか。事前に了承を得ておかないと、大変なことになる。ぼくの場合、ぼく個人への寄贈になること、寄贈いただいた本は、スペースの都合から処分する可能性、紛失の可能性もあることを事前に伝えてある。

複数人で蔵書を集める

広く寄贈を呼びかけるのは、本がたくさん集まるというメリットはあるけれど、どんな本が集まるか、完全にコントロールするのが難しい(それがおもしろさではあるけれど)。他方で、自分の蔵書だけでは冊数が少なすぎる。そう思うなら、気の合う友達、趣味の合う友達に「一緒に図書館しよう」と声をかけてみよう。

最近、一つのお店を皆でシェアする「ポップアップショップ」「ショップinショップ」があるけれど、いわばあれの図書館版。「ポップアップライブラリー」「ライブラリーinライブラリー」。一つの図書館の中に複数の「プチ図書館」が入っているイメージだ。

どの本が誰のものか。それさえ管理できれば、トラブルも少ない。前回紹介したリブライズには「寄贈者」を登録できる機能もある。

寄贈者のFacebookアカウントをスキャンした後で、寄贈する本を登録するだけ。簡単だ。

というわけで、図書の管理システムも決まったし、本の集め方もわかった。更新がいつになるかはわからないけど(笑)、次回は「図書館」の「館」、場所をどのようにして見つけるかについて話をしてみたい。興味のある人は気長に待っていてください。

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森哲平
ナガヤ図書館 おとなり3

1979年兵庫県生まれ。2011年より徳島に移住。2015年から徳島市沖浜町にて私設の図書館や子ども向けプログラミング教室を運営している。