国際的なチームの構築

東京内でのプチシリコンバレー

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私がGengoを始めた時 (社名を変更する前は“myGengo”という名前でした)、目標のひとつに掲げていたのはシリコンバレーの要素を少しばかり東京に持ち込むことでした。東京の暮らしは非常に快適だと感じます ─ まさに24時間眠らない街として、世界で最も安全といえるでしょう。しかしながら、雇用のエコシステムをみると、活力に溢れた若い意欲的な人材 (ただし成熟さに欠けることはありますが) を支え、経済的価値を創出する仕組みにはなっていません。

日本の仕事環境は手続きと惰性に阻まれた大企業のようです。何を始めるにしても、多大なコンセンサスと事務手続きを要し、利害関係のために変化を支持しない「シニアマネージャー」の数が多すぎるのです。手続きと惰性もほどほどなら利点があります。ただし何にでも当てはまることですが、何事もやり過ぎは破壊をもたらします。私はGengoを創業する以前、東京の雇用環境全般に苛立ちを覚えていました。ソニーでは正社員として様々な職務を経験し、日本郵便など様々な日本企業との仕事を経て、私の認識は形成されたのです。しかし、米国に渡る準備はまだできていませんでした。この状況に苛立ちを感じているのは、自分ひとりではないだろうとわかっていました。起業家精神とは短い間の中で改善を繰り返すことだが、これを日本の経済のエコシステムが支援してくれないと思う。この認識の上に、大学時代にインターンとして米国企業で働いた有意義な経験を活かし、自分に何ができるのか考えました。そして思いつきました。「シリコンバレーの要素を、少しでも東京に持ち込んでみてはどうか」と。

「シリコンバレー」の定義は人それぞれですが、私はこう考えます:

シリコンバレーとは、次のような考えを信奉する姿勢のことです。テクノロジーの進歩はいかなるマイナス面にも勝るということ。テクノロジーの進歩は価値を生み出すとともに、生活を改善するということ。その過程で生じる失敗は、さらなるリスクをとることを可能にする基盤を強化するということ。

これは、特にシリコンバレーに限ったことではありませんね。重要なのは、この理念をどのような形で示すかです。それは実行することです。シリコンバレーのエコシステムでは、探究し、試行し、リスクをとることを焦点を定めてすばやく繰り返すことが奨励されています。私はシリコンバレーとは姿勢であり、実行力であると信じていたので、同様のものを東京で生み出すにあたり物理的な障害はないと考えました。大変なことは、このエコシステムに励まされ恩恵を受けるチームを育成することでしょう。また、働くことに対する西欧的な姿勢を、日本の環境に融合させることが重要でしたから、成功を収めるためには文化的多様性が不可欠です。

国際的なチームをまとめようとした楽天は数年前、世間の注目を集めました。CEOの三木谷氏は、2012年半ばまでに社内公用語を英語にすると発表しました。その発表から4年近くが経過しますが、楽天がこの取り組みを成功とみなしているのか、私にはわかりません。私が言えることは、いくつもの会議に出席しましたが、その90%は日本語で行われていたということです。英語メディアでは、楽天の取り組みについて懐疑的な記事を多数目にしました。「社内完全英語化」の楽天が解決を目指す問題は、言語ではなく、むしろ価値の創造を阻むビジネス慣行や姿勢であるという論調でした。つまり、注視することは、文化的リスクへの嫌悪、コンセンサスを重視した意思決定、成功に対する指標として前例にとらわれることです。これらは日本の企業環境の発展を妨げる問題の数例に過ぎず、言語とは無関係のことですね。

さあ、あなたが日本の起業家で、文化的多様性が競争力を強めると考え、国際的なチームを築くことを望むのであれば、以下のようなトピックを考えてみるとよいでしょう。

  • 国際的なチームを築くことは、英語の使用を全社員に課すことではありません。外国人を採用すればよいわけでもありません。日本に住むことに興味を持っている外国人のほとんどは、日本人の同僚の英語力向上に時間を割きたいとは思っていません。それどころか、自分の日本語力を高めたいと考えています。社内でメインとなる言語をひとつ選び、それを支援するための基盤を築きましょう。Gengoの場合、社内コミュニケーションに使用するのは英語です。英語力の向上を希望する社員は、最初の6カ月間、無料の英語レッスンを受けることができます。レッスン費用は会社が負担します。弊社は日本にあるため、日本語力の向上を目指す人にも同じ福利厚生が適用されます。これにより、社員が「語学の先生」としての役割を担う必要がなくなります。
  • 国際的なチームとはつまり、意見の多様性を意味します。違いを受け入れましょう。ひとつにまとまった一貫性のある環境には利点がありますが、外部の問題解決という点においてはそうではありません。人、文化、考えの多様性は、競合他社に対する優位性を与えてくれます。会社を生命体と考えると、この戦略は理にかなっていることがわかります。生物学では、より多様な遺伝子プールを持つ種は、生き残る確立が高いとされています。多様性に劣る種の場合、ひとつの病気で絶滅してしまう可能性が非常に高いのです。Gengoの戦略では、多様性を求めて人材の採用を行なっています。社員数が50人に満たない会社でありながら、国籍は12カ国を超えています。
  • チームの多様性を受け入れ、人と違うことを奨励するには、すべての人が輝ける機会を与えると良いでしょう。個人の業績を認めたり、社内や公の場でプレゼンの機会を与えることで、それが可能になります。Gengoではどちらも行なっています。社員投票により「最も能力を向上させたGengon(Gengo社員)」や「Gengoの価値を最も示した人」を選出しています。また、開発チームはテクノロジー関連のイベントを開催し、英語が母国語ではない社員は英語で、日本語が母国語ではない社員は日本語でプレゼンを行う機会を作っています。
  • 何事にも初めての時があり、最初というだけで勝利につながることもあります。日本の雇用環境で私が経験したように、残念ながら前例がないために良いアイデアが抑え込まれることはよくあることです。最初であることは、過去の裏付けがなく失敗の確率が高いように思えるため、最初になることに過剰なほどの恐怖心を持っています。「ほかに誰もやったことがないので、上手くいくはずがない」というように。そのような考えに対しては、私はいつも「簡単にできることだったら、みんなやってるよ!」と思うのです。Gengoでは、最初の存在になりたいと思っています。500 Startups やAtomicoから初期の資金を調達した日本初の会社になり、自由にアクセスできるパブリックなRESTベースの人力翻訳APIを持ち、Cuban Council (弊社やその他の素晴らしい企業のリブランドを担った) の日本初の顧客企業になりました。

いつでも楽しむことを忘れずに!

競争力のある多様性を求めてこれらのアイデアを実行に移すなかで、一番大事な要素は楽しむことです! いつでもどこでもユーモアを交え、多様な言語を楽しみ、チームとして文化に対する興味を際立たせましょう。

それぞれの多様性に対し、心からの興味や感激を示すことができないのであれば、企業文化の存続は困難でしょう。

最後にもう一点興味深いアドバイスをしよう。積極的にバランスを確立することが求められる時があるかもしれません。その場合は、例えば、4、5人のノンネイティブスピーカーにつき、真のバイリンガルを最低1人を組み込むと、好環境が生まれることがわかりました。バイリンガルの人は静かな橋渡し役のようなもので、集団の中で社内の使用言語で思うように意思を伝えられない人にとって、気持ちのはけ口になる働きをします。重要なことは、このバイリンガルの人が知らず知らずのうちに、必要に応じて通訳のような役割を担っていることです。静かな橋渡し役を期待されていることを感じさせてもいけませんし、その役目に多くの時間を取られすぎてもいけません。

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お礼:翻訳はgengo.comを通し、Diceさわかが添削してくれました。

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Matthew Romaine
Startups in Japanese — 日本語

Gengo CEO & Founder. Japanese / American. Brown & Stanford. ex-Sony. Featured in the WSJ. Triathlete. (株)Gengoの創業者。日本とアメリカのハーフ。スタンフォード大学院卒業生。元ソニー正社員。トライアスロン好き。