WHEN I'M IN MY DREAM

オクラホマシティ探訪記 / 試合当日編

7A
Perspective_7A
15 min readMay 14, 2018

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翌朝は早めに起きて、待ち合わせ時刻よりだいぶ先にロビーに降り、暇つぶしにテレビ画面のチャックとシャックなどをぼんやり眺めていた。なんとなくその時に「夕方みたいだな」と思ったのを覚えてるんだけど、じっさい日本でNBA関連の動画を見るとしたら朝なんだから、なぜ夕方だと思ったのかよくわからない。エレベーターホールにはウォール・ストリート・ジャーナルが綺麗な扇型に並べて置いてあった。うわ、ウォールストリートジャーナルってひょっとしてすごいポピュラーな新聞なんですか…?みたいな今更な感想を持っていたら、レオさんが降りてきた。前日に青い服とバックパックを背負い、サンダーファンのふりをしつつもブルズファンだと速攻でバレたジョーダン1を相変わらず履いている。旅行前に『旅行の達人アナ・スイに聞くパッキングの極意』を読んで「スニーカーとパンプスを2つずつ、あとブーツを入れるわね」みたいなのに「何が極意だ馬鹿野郎」と思った記憶が蘇る。まあ私もスニーカーひとつで来た。

今日はいよいよ試合を見る日だった。だったのだが、いまいちピンとこない。まず朝食に向かう。前日にウンベルトがサンダーのスタッフにお勧めを聞いてくれたらしく『キッチンNo.324』という洒落た朝食カフェのようなところにテーブルを予約してくれていたらしい。着いてみると昨日あるいて通ったところだった。天井が高く、白とラスティックな木材と華奢な真鍮でまとめたインテリアのシックなお店だった。ここで私の記事を書いてくれたウォール・ストリート・ジャーナルのレポーターのベン・コーエンさんと再会した。また変な感覚に襲われる。オクラホマシティで、ニューヨーク在住の、ウォール・ストリート・ジャーナルのレポーターに、再会…?誰なんだ、私は…

メニューはイングリッシュマフィンのトーストにエッグベネディクトとフライドグリーントマトを乗せたもの、を頼んだ。うまいけど、朝ごはんにしちゃ多すぎないかしら、という感じだった。フライドグリーントマトはほんとにガリガリの緑のトマトを揚げたやつで、映画は観てないのでなんともいえないけど不思議な食べ物だった。あと何にでも芋を揚げたやつが付いてくる。

ベン・コーエンさんがアイスコーヒーに粉砂糖を入れてかき混ぜているのを見て「アメリカにはガムシロップがない」というnageさんの怒りの言葉を思い出した。マジでない。その代わりに砂糖が4種類ぐらいあった。ブラウンシュガー、普通の白い砂糖、きび砂糖みたいなやつ、あと砂糖じゃなくて甘味料とか。ガムシロップ作れよ。

なんとか朝食を詰め込み、昨日きかされた「チョークボードに絵を描く」をしにアリーナに向かう。チョークで黒板に絵を描くなんて30年ぶりで、かなり途方にくれた。ツールに消しゴムがわりのスプレーがあって、サンダーのスタッフによると「コーラを混ぜた水」だそうだ。「なんでか知らんけどこれを吹くと綺麗に消えるんだよね」とのことで、なんで消えるのかはわからないけど確かに消えた。四苦八苦して絵を描き上げた。やり直しや大きさの調整ができないとこんなに行き詰まってしまうのか、と思って少し落ちこんだ。

その後は一旦、アリーナから離れ、だいぶ北にあるナショナル・カウボーイ・アンド・ウェスタン・ヘリティッジ・ミュージアムに向かった。最初「カウボーイミュージアム…?」と思ったんだけど、この博物館はマジでめちゃくちゃ面白かった。

まず敷地がべらぼうにでかい。これはアメリカだったら当たり前かもしれん、なんだけど、とにかく博物館の中には興味深いものがわんさかあって、とても2、3時間では足りなかった。カウボーイと銘打ってるけど展示物の内容は半分ぐらいがネイティブ・アメリカンのものだった。そもそも博物館に入って正面にある高さ6mぐらいの彫刻からして(博物館の目玉の一つらしい)ネイティブ・アメリカンが故郷を追われてオクラホマの居留地に向かう疲労と絶望を表現したやつなのだ。博物館のスタッフのタラさんという女性が案内をしてくれていろんなものを紹介してくれたので、駆け足ながら面白い展示をたくさんみることができた。

中でも面白かったのがジェローム・タイガーというオクラホマ出身で若死にしたアーティストのスケッチ展で、独特のブルーの紙に鉛筆やパステルで描かれた素描はネイティブ・アメリカンの生活を垣間見せて非常に興味深かった。小さい子どもが鉄条網を潜って遊びに行く場面を捉えた小さなスケッチにはとても心を打たれた。なぜなら鉄条網をくぐるってことはそこが鉄条網で囲まれてることを示唆してるから。この人のスケッチには端々に「そういう境遇」の中にいる人々を思い起こさせるシーンがあった。

なぜかジョン・ウェインのコレクションしてた仏像とかも飾ってあった。保管庫にはまだまだたくさんのものが眠ってるので、ときどき虫干しみたいに関係なさそうなやつでも展示するらしい。

ネイティブ・アメリカンの装飾や刺繍、ヘッドドレスなんかは素晴らしいの一言に尽きた。本当に一見の価値ありである。びっしりビーズ刺繍で覆われたモカシンや、羽根を何百枚も使った「テール」といういわゆる「インディアン」の被り物(たなびくからテールなのか、かぶった人がしんがりを務めるからテールなのかはわからなかった)、全てが美しくて物悲しかった。

めちゃくちゃ面白いのよ、と言ってタラさんが案内してくれたのが「鉄条網の結び方コレクション」の部屋で、マジですごいんだけど何百種類もの鉄条網の結び方のサンプル(多くがパテント取ってある!)が引き出しに収められてた。こんなにバラエティがあるなんて知らなかった!

とにかくこの博物館はオススメなので是非、オクラホマシティに行ったら見に行って欲しい。もうちょっと見ていたかったけど、昼食の予約をしてくれていたので博物館を後にした。

昼食はアリーナの西の方にあるマックリントック・サルーン・アンド・チョップ・ハウスに連れて行ってもらったんだが、西部劇の酒場(サルーン)みたいですごく面白い作りだった。

ここにもネイティブアメリカンのトーテムポールみたいなのがあったし、ここじゃなくて街(ダウンタウン?)を歩いててもその辺にバイソンの彫刻があったり、街角のギャラリーではネイティブアメリカンがモチーフのアートが売られてたりしたから、オクラホマってすごくネイティブ・アメリカンのカルチャーを大事にしてるんだなっていうのが伝わってくる(そもそもオクラホマはokla humma 赤い人々=白人 というネイティブ・アメリカンの言葉から来ているらしいし、州の旗だってネイティブアメリカンのモチーフだ)。昨日のステーキで懲りたので少なめにしたけど、死ぬほど腹いっぱいになった。

アリーナに向かう。

アリーナの中、客席ではないところに入るためにはメディアパスをもらわないといけないので、裏から入り、メディアパスを貰った。何メディアなんだ…我ながら疑問に思った。

3時間前。客席が空のアリーナに入る。入った途端、レイアップしてるモー・チークスと目があう。うわっ、チークスだ…チークスがいる。すいません。なぜか心の中で謝る(後からNBAの人に聞いたら「レジェンドはみんな声かけてもらうの喜ぶんだよ!声かければよかったのに!」って言ってたんだけど先に言えや)。

ビッグマンのアシスタントコーチ、マーク・ブライアント。サンダーには他のチームと比較してもたくさんのアシスタントコーチがいるんだよ、とカメラクルーのヴィーが言っていた。

みんなが「行きなよ!」って言ってセンターサークルに立たせてくれた。嘘でしょ。こんなに小さいのか。コートってこんなに狭いのか。多分私の中の何かが麻痺してしまった。チークスがいない方のエンドに移り、そこでインスタでフォローしてたサンダーのカメラマンの人に自己紹介したりチェキ撮ったり、ちょうど来たサンダーのコートサイドレポーターのレズリー・マッカスリンさんにポストカードを渡したりしてたら、出てきた、ウェストブルックが出てきた。なんだあの黄色い服のやつは、みたいな感じでこっちをちらっと見た。

私は邪魔したくない一心で、写真撮ってもいいのかどうかちょっとためらった。結局撮ったけど。近くの人に「どう?」って聞かれたと思うけど、どういうふうに感じればいいのかよくわからなかった。私は多分何かのスイッチを切ってしまっていて、何も感じなかった。「いる」とだけ思った。でも「いる」ってなんなの、いるに決まってるじゃん。思った通りのウェストブルックが試合前のアップをしていた。思ったよりずっとやかましく叫びながらアップしてた。アップの終わりにするコートの外側からのシュートを何回めで決められると思うか、とダン(・マホニーさん)に訊かれたから4回って答えたらほんとに4回でウェストブルックが決めたからその辺にいた人がワーッてなった。

多分そこにいた人は私がウェストブルックを見てうひゃああってなるのを期待してたのかもしれない、けど何故なのかわからないが、全然そうならなかったのでちょっと申し訳ない気持ちになったのを覚えている。私は『ファンに対する「義務」の対象』になりたくなかったのかもしれず、それは逆にとても傲慢だったのかもしれない。握手や写真なんかどうでもよかった。力一杯プレーしてくれたらそれでよかった。4回目のトライでシュートを入れたウェストブルックはいつものようにコートから全力疾走で走り去った。グッドラック、と私は思った。

私が描いたチョークボードに女の子二人がおしゃべりしながら絵を描き足しているのを見ていた。「これなんだろう」「なんか日本人が来て描いたらしいよ」「シーッ!後ろにいるっつの!」というやりとりをしててちょっと笑ってしまった。私もよくそういうのやるわ。

そこでアリーナのMCのケイティにインタビューされることになってた。ケイティは「ナナエ」がどうしても発音できずに四苦八苦していた。それが終わったら外でFOXのブースでレズリーさんにインタビューされることになっていた。

マイケルケイジ発見

待ってる間にナジー・モハメドが通りかかった。超デカくてスラッとしてた。「ナジーがいる」とかこんな普通に言えてるけど、大丈夫かな、とナジーの写真を隠し撮りするレオさんを見ながら思う。インタビューが終わってアリーナに戻ると、アダムスがステップバックスリーを決めていた。アダムスのアップを見逃したのだけが残念すぎた。試合開始前にサイレンを鳴らすように言われてたから、コートに降りて言われるがままにサイレンを鳴らしたんだがしっかりアリーナMCのマルコムとチェキを撮ってもらった。

めちゃくそいい人だったマルコム!

そこで選手の入場を見られるのかと思ったら、あっちにNBA TVのクルーがいるから、と言われて連れ去られた。もはや麻痺しすぎて「はい」とついて行くしかない。デニス・スコットがいた。こんにちは。

実はプレーを知らないんですが。でもすごい人懐こい人で「やあやあ」みたいな感じでハグしてくれ…ハグしてくれたっけ?手がマジで2倍あったのにびっくりしすぎて覚えてない。選手がアップしてる、1mぐらいのところを通る。

デニス・スコットてめえ、押し出すんじゃねぇよ。

まただ、幽体離脱だ。ここにいる人は私が知っている私じゃない。夢を見てることが自分でもわかっている人だ、と思った。じゃあもう何してもいいかなって思った。アリーナで声かけてくれる人といっぱい握手したし、写真一緒に撮ってくださいっていう人もいて、もうなんでもいいやみたいになって撮った。全員の頭が私の半分ぐらいの大きさだったので死んだ。でもみんなが「オクラホマシティに来てくれてありがとう」って言ってくれて、叫び出したい気分だった。君らが見てるのは違う人だよって。あんなに変な気分になったのは生まれて初めてだった。ノー、アイ・ドント・ディザーヴ・ディス。エド・シーランの歌がリピートされて思い出される。私はこのあったかい扱いに値しない人間だった。

試合のことは負けた以外全く覚えてない。あとでカメラロール見たらフェルトンをバーストで撮影してて爆笑した。なんでやねん。レッドパンダにあわせてもらったのと、隣の隣にロバーソンの弟のアンソニーがいたのは覚えている。

試合が終わるとコートの脇を通って裏に連れて行ってもらい、そしたらそこにロバーソンが来た。ロバーソンが来た、だってよ。わあ、ほんとにハグするんだ。ええと、ええと。めっちゃ頭が小せえ…

もう処理能力が追いつかなくて、感動するメーターがぶっ壊れてしまったような感じだった。放心状態だった。あまりにたくさんのことが起こりすぎた。家に帰りたかった。オクラホマ、もっと近かったらよかったのに。

ホテルに帰ったらロビーに受付の女の子たちが何人かいて「テレビ見たよ!よかったね」と声をかけてくれた。麻痺してたからありがとうって言って、そしたらドリンクを作ってくれるというのでせっかくだからいただくことにした。サンダーブルーだよ、と言って作ってくれたドリンクはバスクリンを溶かした風呂みたいな色だったし、味見した女の子が「こりゃ濃いわ」とか言ってたけど、最後に「仕上げのバスケットボール!」と言って載せてくれたくし切りのオレンジがとてもよかった。ホテルのおごりだよ!って言ってくれて、映画みたいだなって思った。

マジで濃かった。手加減ゼロ。びっくりするぐらい酔っ払って、ちょうど会いに来てくれたヨーコさんとベラベラ長時間喋ったからレオさんには申し訳ないことをしたと思う。ヨーコさんから「アップのときにアンドレがななえさんを探してたんだよ〜!」って聞かされても、酔っ払いすぎて爆笑してた。そんなわけあるかよアハハ。マジで〜?!アハハハ〜!

一睡もできなかった。

翌朝は5時ごろにロビーで待ち合わせだった。最後までドアを開けてくれる風習に戸惑いつつ、ホテルを後にした。2日間いろんなところに連れて行ってくれたウンベルトには私の英語がたどたどしすぎて言いたいお礼の1/100も言えなかった。飛行機に乗ったらおじさんが「テレビ見たよ、オクラホマに来てくれてありがとう」と声をかけてくれた。泣きそうになったけどサングラスしてたから事なきを得た。

ミネアポリスへの飛行機は窓側だったから、私は離陸の様子をぼんやり眺めていた。飛行機は加速し、離陸し、どんどん地面が遠ざかっていく。旋回して上昇していく飛行機の窓から小さくチェサピーク・エナジー・アリーナが見えた。バイバイ、OKC。

サングラスはずっとかけっぱなしだった。(完)

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