ニュースレター『STEAM NEWS』を書く理由
「科学者たるものの侵してはならない掟」を破るということ
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ニュースレターを書いている.今週は【第23号】をお届けする予定だ.
最近は音声版も始めた.英語版さえ,始めようとしている.なぜ一介の計算機科学者が,いや最近はそれすら怪しくなってきたが,科学,技術,工学,アート,数学を網羅するようなニュースレターを書こうと思ったのか.あまつさえ,それを広めようとしているのか.
第23号となる今週号で,僕はエルヴィン・シュレーディンガー博士を取り上げる予定だ.いつもの調子とは違って,彼の業績よりも,彼個人の生き方に焦点を当てる.彼の人生は,業績と同じぐらい,いやそれ以上に「独創的」だ.
一言でいうと,女にもてたのである.
それも,ただ何もしなくてもてた,というわけではなく,物理学に対する緻密さと情熱をそのまま,女にも振り向けた結果としか思えないのだ.
詳しくはニュースレターで読んで欲しい.こちらでメールアドレスを登録してもらうと,金曜日の朝7:00に届くだろう.
まだ原稿を書いている最中なので「届くだろう」なのだが,一応はニュースレター開始以降,まだ一度も原稿を落としていないので,期待はしてもらって良いと思う.
さて,冒頭の疑問.
なぜ僕が,自分の専門外の範囲まで手を広げてニュースレターを書くのか.
僕はシュレーディンガー博士について書くにあたって,彼の著作のうち代表的なものをいくつか読んだ.そして,次の文章にぶつかった.
そもそも科学者というものは,或る一定の問題については,完全な徹底した知識を身につけているものだと考えられています.したがって,科学者は自分が十分に通暁していない問題については,ものを書かないものだと世間では思っています.このようなことが科学者たるものの侵してはならない掟として通っています.このたびは,私はとにかくこの身分を放棄して,この身分につきまとう掟から自由になることを許していただきたいと思います.これに対する私の言いわけは次のとおりです.
われわれは,すべてのものを包括する統一的な知識を求めようとする熱望を,先祖代々受け継いできました.学問の最高の殿堂に与えられた総合大学 (university) の名は,古代から幾世代もの時代を通じて,総合的な姿こそ,十全の信頼を与えられるべき唯一のものであったことを,われわれの心に銘記させます.しかし,過ぐる100年余りの間に,学問の多種多様の分岐は,その広さにおいても,またその深さにおいてもますます広がり,我々は奇妙な矛盾に直面するに至りました.われわれは,今までに知られてきたことの総和を結びあわせて一つの全一的なものにするに足りる信頼できる素材が,今ようやく獲得されはじめたばかりであることを,はっきりと感じます.ところが一方では,ただ一人の人間の頭脳が,学問全体の中の一つの小さな専門領域以上のものを十分に支配することは,ほとんど不可能に近くなってしまったのです.
この矛盾を切り抜けるには(われわれの真の目的が永久に失われてしまわないようにするためには),われわれの中の誰かが,諸々の事実や理論を総合する仕事に思い切って手をつけるより他には道がないと思います.たとえその事実や理論の若干については,又聞きで不完全にしか知らなくとも,また物笑いの種になる危険を冒しても,そうするより他には道がないと思うのです.
私の言い訳いわけはこれだけにします.
(強調は引用者による.)
シュレーディンガー博士が例えば1キロメートル先にいたとして,僕が彼に向かって1ナノメートルしか進んでいないとしても,まあ,事実その程度だろうが,それでも,僕はシュレーディンガー博士が見据えていたもの,我々の先,何百光年も先の目標に向かって,ともに歩きたいと思う.
そのための方法は,歩くしか無いのだと思う.歩みが遅くとも,方向が間違っていても,それは歴史家が判断するだろう.
というわけで,こちらから無料登録してもらえると嬉しい.
お時間の無い人向けに,YouTubeでダイジェストもお送りしている.こちらもチャンネル登録してもらえると嬉しい.
では,またニュースレターでお目にかかりましょう.