TEDxSaikaiLive 2020 実施の記録

TEDカンファレンス映像を長崎の高校生が皆様にお届けしました

Ichi Kanaya
Pineapple Blog
9 min readAug 15, 2020

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TEDxLiveイベントの一環としてTEDxSaikaiLiveを実施した.TEDxLiveとは米国TEDカンファレンスの録画のパブリックビューイングイベントで,世界各地のTEDxオーガナイザがTEDから別途ライセンス承認を受けて実施するものだ.

このブログを読んでくださっている方の中にはご存知の方も多いと思うが,TEDxとはTEDが承認した独立非営利組織で,様々な地域,様々な教育機関が登録されている.僕たちは長崎県西海(さいかい)市という自治体を基盤にTEDxSaikaiとしてライセンスを受けている.当初はTEDxライセンスのある日本最小の自治体だったのだが,一時小ささで抜かれてしまった.(現在は最小に返り咲いている.)

2020年は本家TEDカンファレンスがオンライン開催になっとことと,日本でも新型コロナウイルス感染症に警戒する必要があったので,オンラインでTEDxLiveイベントを開催することにした.具体的には,TEDカンファレンスの録画をMC付きでライブ配信するという方針だ.これに地元の西彼杵高校が全面協力してくれることになり,世界的にも珍しい高校生主体のTEDxLiveイベント開催となった.

僕自身は,薄々お気づきの方もおられると思うのだが,超いい加減なオーガナイザなので,運営は全て高校生にお任せして,NYのTED本部との交渉と技術面のサポートに徹した.

さて,高校側の苦労はいずれFacebookなどで聞けることを期待して,高校からライブ配信イベントを実施するにあたって気をつけたこと,うまく行ったこと,駄目だったことなどを記録しておきたい.

セキュリティ

僕が一番気をつけたのがセキュリティだ.と言うのも,高校からのライブ配信である.事前に宣伝はしなかったが,気付くやつは気付く.えーと,つまり,画面の向こうに女子高生がいるのである.当然,性的嫌がらせや下手したらストーカーになる不届き者さえ出て来かねない.

そこで,不特定多数にライブ配信するプランは最初から消した.まずPeatix(チケット販売サービス)でイベントページを作り,無料チケットを数量限定で配布することにした.もちろん捨てアカウントを作って侵入されたらアウトだが,まったくの公開ライブ配信よりは安全だと判断した.

次に,配信方法としてZoomウェビナーを選択した.これZoom社に対して追加の支払いが発生するが,Zoomミーティングに比べると配信側に配慮された設定が可能になる.例えばZoom参加者がいきなりポルノ画像を送りつけてくるなんて事は防げる.YouTubeライブのようにネットのあちこちで不穏なコメントが残されたりする可能性も低い.

またPeatixチケットからクリックまたはタップ1回でZoomを立ち上げられる仕組みも参加者に優しいだろうという腹づもりもあった.

落ちたときの対策

ライブ配信中に機材トラブル,ネットワークトラブルで配信が落ちてしまうことがあり得る.サーバが落ちてしまうのはどうしようもないが,そこはZoomを信じた.

配信は,僕がホストとして自宅Macからログインし,モニタ用にiPhoneからゲストとして参加した.またMacが落ちた時用に iPad Pro をスタンバイさせておいた.本来はホストアカウントを二つ作って両者ともログインしておくべきなのだろうが,高校側がパネリストとしてログインすることと,ホストの追加には別料金が発生するためここは省略させてもらった.

自宅Macは普段無線LANで接続していたのだが,TEDxSaikaiLive用に有線LAN仕様に変更した.元々Ethernetアダプタを持っていなかったので,これを機にAnkerの Ethernet to USB-C アダプタを購入した.ついでにEthernetケーブルも購入した.特に性能は必要なかったのでCAT6にした.

実はこれが我が家では大正解で,無線LAN接続時よりも安定感が抜群に良くなった.ちゃんとした無線LANルータを設置していれば有線LANとの差はあまりないのだろうが,やはり腐っても有線LANである.腐ってないけど.

モニタ用のiPhoneの音を自宅Mac側のマイク(後述)で拾うと面倒なので,iPhoneはLightning接続のイヤフォンを挿しっぱなしにしておいた.買った時についてくる白いやつだ.イヤフォンを使って時々音が配信されているかをチェックした.iPhoneは自宅回線を圧迫しないように無線LANではなく携帯電話網に接続した.

念の為,出張用に使っていた(けれど出張がもう無い)モバイルWiFiルータや iPad Pro に挿しっぱなしになっている格安SIMも自宅回線が落ちたときには使うつもりであった.

ホスト側機材

先ほどから「自宅Mac」と書いているホスト側機材だが,これは MacBook Pro 16インチモデルだ.カメラは内蔵のものを使い,Zoomのバーチャル背景機能を使って TEDxSaikai ロゴ画像を背景にした.

TEDxSaikai ロゴ背景

音はハウリングを避けるためにヘッドフォンを使った.本当は有線の方が安心なのだが,Beatsのノイズキャンセリングヘッドフォンを普段から使っていることもあって,そのまま使った.

マイクは,元々ふるーいApple製イヤフォンマイク(確か iPod touch に付属していたもの)を長いこと使っていたのだが,ある日自分の音声を録音して聞いてから使うのをやめた.音声に合わせてホワイトノイズが乗っていたからだ.マイクはSHUREのボーカル用マイク帽子を使用した.

手持ち用のマイクなので卓上スタンドで運用しているのだが,常にマイクに向かって話さないといけないので,これかからマイクを買う人にはヘッドセット型マイクのほうがおすすめである.

もともとはUSBマイクを探していたのだが,新型コロナウイルス感染症禍のせいで価格が高騰していたので,逆に価格が暴落していたボーカル用マイクに目をつけた.というのも,偶然にもUSBオーディオインタフェースを持っていたので,それを流用できたからだ.

なんともすっきりしない構成だが,どうせ本業(ハードウェア開発)の方でMIDIインタフェースとしても使うので,普段から繋ぎっぱなしにしている.

また MacBook Pro にはセカンドディスプレイを繋いでいる.これはZoomでKeynoteやPowerPointのスライドショーをスクリーンシェアした時に,発表者ノートを見られるようにするためだ.TEDxSaikaiLive ではスライドショーを使わなかったので,セカンドディスプレイは本当にただのセカンドディスプレイとしてだけ使った.

映像のスイッチング

TEDxLiveではMCのライブ映像とTEDの録画映像とを行ったり来たりすることになる.ライブ映像の方は高校側でビデオスイッチャー (V-1HD) を使っていい感じにしてもらったので,僕の方の仕事はMC映像と録画映像の切り替えだけだった.

で,TEDの録画映像なのだが字幕埋め込みでダウンロードできるものと,字幕が別ファイルになっているものとが混在している.字幕埋め込み映像はそのままQuickTimeプレイヤーで再生してZoomに流せばいいのだが,それだと字幕が別ファイルになっている動画の再生に困る.

そこでVLCプレイヤーをインストールし,ついでに上映順にプレイリストを作成して,VLCプレイヤーの画面をシェアするようにした.VLCプレイヤーはプレイリストに静止画を登録しておくと10秒だけ静止画を挟んでくれる機能があり,これが役に立った.

本番

高校生の準備が手際よく(素晴らしい!)本番30分前にはZoomウェビナーの配信を開始できた.僕の設定ミスで,参加者には本来ウェイティングルーム画面が表示されているべきところ,本番前のわちゃわちゃを生放送してしまっていた(ごめんなさい).すぐに気づいたので,本番開始時刻になるまで TED 2020 からパフォーマンス動画を流した.

本番最初のトークは「パンデミックで求められる世界の協力」

2番目のトークは「生存中にアーティストをサポートし認めるためにできること」

このトークの上映中に西彼杵高校のPCが落ちるというトラブルがあったのだが,ホストから再度パネリストのインビテーションを送ってZoomウェビナーに復帰してもらった.

高校が復帰したときの画面

3番目のトークは「描くことで人はどれほど自由になれるのか」

ここで休憩時間を挟んで,4番目のトーク「難民に高等教育と雇用を」

そして最後のトーク.我々TEDxSaikaiと西彼杵高校生徒会を結びつけたきっかけとなったトークで,戦後75年を迎える長崎から是非発信したかったトーク.Ari Beser による “We are only human.”

このタイミング(2020年8月8日)で,核兵器について考えるこのトークを長崎から紹介できたことは,僕たちにとっては大きな意味があったし,ひとりでも響いてくれたらと願っていた.

後の祭り

TEDルールによって本番映像の公開は禁止されているため,もう二度とお見せできないのが残念なのだが,高校生たち本当によく頑張ってくれた.特にバックステージで機材オペレーションや進行をまわしてくれたメンバー,それを支えてくださった先生方にも感謝したい.

そして何より,視聴してくださった皆さんに感謝申し上げる.皆さんは僕たちと同じチームのメンバーである.

で,実はTEDルールによって参加者へのアンケートを実施しないといけなかったのだが,僕の手違いでいまだ実施できないでいる.Peatix経由で参加者リストを作っていたのだが,参加者のメールアドレスをPeatixが主催者に教えてくれないという点を見落としていた.さすがは強固なプライバシー保護だ.

いまTED本部に「ごめん参加者のメアドわからんのだわ」と問い合わせをしているが,後の祭りである.

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