【後編】大企業×スタートアップ協業のベストプラクティスとは?

Haruka Ichikawa
Plug and Play Japan Blog
9 min readMay 7, 2019

みなさんこんにちは!Plug and Play JapanのHarukaです。前回の記事では「大企業がスタートアップと連携するためのベストプラクティス」というテーマで、企業間の連携において陥りやすい落とし穴についてご紹介しました。本稿では、世界中で年間1,000件以上のスタートアップをアクセラレートしているPlug and Playの調査に基づき、大企業×スタートアップ協業へのベストプラクティスをご紹介します。

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1. 課題を明確に定義する

大企業パートナーにはそれぞれイノベーションを促進させるべき課題があります。しかし、イノベーションのゴール設定は曖昧で不明確なものが多いです。スタートアップに対して具体的にどのようなイノベーションを模索しているか、解決したい課題をしっかりと定義付けることで、生産性を高めることができます。

もし、具体的なゴールが見出せない場合も、スタートアップに対して「御社のプロダクトについてもう少し詳しく聞かせてください」と伝えることで、スタートアップは大企業が必要としている情報を足し、大企業のゴールに即した提案ができ、より効果的なミーティングを行うことができます。一方で、大企業側により具体的なニーズがある場合、スタートアップは彼らが持つプロダクトやソリューションが、どのように企業課題を解決できるかという点に焦点を当ててピッチをすることができます。詳細なディカッションは、スタートアップが大企業のニーズに本当に合っているのかお互いに確かめる上で重要です。また、スタートアップは彼らのソリューション/プロダクト/ビジネスモデルにどのような長所と短所があるのかフィードバックを得ることができます。

明確なゴール設定は、イノベーションの現場をただ傍観するという事態を避け、イノベーションの意義を確かめることができます。スタートアップと大企業パートナーがお互いにフィットがあるのかどうかきちんと見極め、スタートアップのソリューションが有効と感じられる場合、どのようなことについて話し合うべきか、より具体的かつ実りあるミーティングへと進めることができます。課題の定義付けはお互いのゴール設定における不明瞭性を排除し、より効率的なミーティングを実施することができます。

2. 企業文化におけるスタートアップのフィットを確認する

大企業はイノベーション促進のPR目的のためだけにPoCを実施したり、ディスカッションの場を設けようとすることがあります。あるスタートアップによると、大企業が本契約を結ばない前提でPoCを実施したという事例があったそうです。大企業は、スタートアップとの協業により立場が悪くなることを恐れた関係部署による内部圧力があり、先に進めなくなってしまったといいます。スタートアップにとってみれば、実装するつもりもないPoCをなぜ実施しなければいけないかという疑念が残ります。これもひとつの経験と呼ぶことはできるかもしれませんが、このようにして費やされた労力や時間はもっと他のことに活用することができたでしょう。

大企業はスタートアップが協業に適しているかどうか、企業文化を一度振り返ってみてください。PoCの同意前に、関連部署や意思決定者からのフィードバックが必要です。先例にあるように、大企業のイノベーション推進部はスタートアップと協業を希望しているが、関連部署からは承認が得られないというような場合においては、協業に踏み切るべきではありません。両者にとって生産性の高いパイロット案件を実施したいのであれば、スタートアップは協業大企業の組織内において強い支持が必要です。

3. スタートアップにとって本当に必要なコネクションを提供する

どんな大企業であっても、イノベーションを促進させることは容易ではありません。組織を説得することには時間がかかります。それでも、大企業はスタートアップが正しいコネクションを広げられるようサポートしなければなりません。窓口となるイノベーション推進部の担当者は、社内の関係者へスタートアップを顔繋ぎする必要があります。実装や協業の決定権のある意思決定者に会わせる機会をつくりましょう。

大企業パートナーとスタートアップとの協業において、能力の高いチャンピオン(※Plug and Playパートナー企業側担当者をチャンピオンと呼びます)の存在は必要不可欠です。変化に強い抵抗のある大企業の組織体制に対して、スタートアップの参画が組織にベネフィットを与えるという確信をもっているステークホルダーの介入は両社にとって成功への鍵となります。キーマンへのアクセスを可能にし、契約に至るための大企業内ヒエラルキーをナビゲートできる強力なチャンピオンの存在は、協業において必須といえるでしょう。

4. パイロットプロジェクト後のフレームワークの明確化

大企業パートナーとスタートアップは、パイロットプロジェクト終了後、どのようなステップで展開すべきか、フレームワークを構築する必要があります。まず、パイロットの成功に向けた明確なKPIや評価基準などを策定しましょう。そして、パイロットプロジェクトの終了後、どのようなステップを設けるかアウトラインを作成します。パイロットプロジェクト後の行き詰まりを避けるために、商用化に向けた予算や実装期間などの重要項目を決定しましょう。パイロットプロジェクトの成功に伴い、スタートアップのソリューションをどのように活用するか決めることが、その後の財源確保や契約プロセスにおいて中途半端な状況となることを避けるために重要です。

パートナーシップの契約期間内において、あらゆるステップにタイムラインを設けることも重要です。資金調達〜本契約〜実行過程において時間軸を含めたアウトラインを設けることは、パートナーシップのレビューや成功具合を測る上で有効です。実装過程では詳細な計画通りに進めることは難しいかもしれませんが、パイロット後の計画を立てる上で基本的なフレームワークを設けることは、大企業、スタートアップ両社間におけるイノベーションの促進に効果的です。

5. コミュニケーション・チャネルの強化

Plug and Playにおいて最もイノベーションに成功している大企業パートナーは、組織内でのコミュニーケションとエンパワーメントに長けています。イノベーション事業部は様々な部署と繋がり、パートナーシップの合意前段階から関係部署による強い支持を集めています。これは組織内のコミュニケーション強化によってもたらされた結果といえるでしょう。成功しているイノベーション事業部は様々な部署毎のニーズと、そのニーズを解決できそうなスタートアップを把握しており、組織内で異なる役割をもつ様々な部署に対して変化を受け入れられる風土を醸成する役割を果たします。

最も成功している大企業パートナーは、組織内でのコミュニケーションに長けているだけではなく、スタートアップとのコミュニケーションにも優れています。彼らはどのようなスタートアップと協業すべきかという判断が早く、効率的なイノベーションプロセスを構築しています。スタートアップは大企業の協業意図を誤解することなく理解して進めることができます。

スタートアップにはミスリードをフォローアップする時間的なリソースはありません。初回のミーティングの後に、大企業側がスタートアップの事業内容に興味をもてるかどうかその場で回答することは、後から具体的な回答を得るためにマンパワーと時間を費やすための負担が大きいスタートアップにとって大きなベネフィットとなります。スタートアップは貴重な時間や労力を割いてアイデアをピッチしているので、大企業側は大企業にとって付加価値を与えうるものであるかどうかすぐに知らせることが重要です。騙すようなことをしないことこそが、スタートアップ、大企業両社にとって、本当に価値を与え合えるコラボレーションを実現するベストプラクティスへの鍵といえるでしょう。

6. ファンドプロセスの簡易化

大企業は、PoCを進めるにあたりスタートアップが必ず突破しなければならない法務およびセキュリティ関連のプロセスを効率化することが大切です。何百個にもわたる長々しい質問項目を含んだセキュリティ文書を渡す前に、スタートアップに特化した質問文書を準備しましょう。無駄な項目を省いておくことでスタートアップがレビューにかける時間を削減することができます。また、必要に応じて内容を改定しましょう。

複数部署間での協業を予定している場合は、何度も同じことを繰り返さずに済むよう、資金提供のプロセスをテンプレート化しましょう。複数部署との協業は大企業におけるユースケースを増やすことにつながり、また、スタートアップとっては彼らのソリューションを大企業の組織内でうまくスケールさせるためのプラットフォームをつくることにつながります。

さらに、パートナーシップの締結前に両社間でタイムラインや調達プロセスの範囲をしっかりと理解しておく必要があります。パートナーシップを脅かす可能性のある法務的障壁をクリアにしておくことが大切です。法務・セキュリティ上の負担を減らし調達プロセスを効率化することは、PoCを早めることができます。

7. スタートアップへ大企業のテストデータを提供すること

ソリューションを提供する上で、多くのスタートアップは大企業のデータからを必要としていますが、セキュリティの観点から大企業データへのアクセスは時間を有します。スタートアップのソリューションを試験的に利用するためのモデルデータがあれば、業務効率化につながります。セキュリティプロトコルを減らし、両社間においてデータへのアクセスにかかる時間やリソースを削減できます。

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いかがでしたか?新年度、これから新たにオープンイノベーション事業に参入される方や新天地で新たなスタートを切る方が増える季節となりました。新規事業やリレーションの構築など、すべての協業におけるTipsとして取り入れることができるものがあるように思います。ぜひ実践してみてください!

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