クリエイターを信じるということ

少し前になりますが「スペックワーク」という言葉が注目されたことがあります。「スペックワーク」とは、コンセプトにあっているかどうかとか戦略的に考えたいからなどの理由で、一旦サンプルをデザイナーに作らせて、そのサンプルを見て気に入ったらお金を出す(気に入らなかったらお金は払わない)という製作の進め方のことを言います。もし気に入ってもらえなかった場合はお金は全く払われないということになるので、完全なタダ働きということで問題視する意見が出たり、海外ではこういったクライアントからの依頼にはNoを言おうと作られた動画が話題を呼び、言葉自体が注目されていました。

言葉が変わると新しく感じますが、実際、古くから業界で一般的な所謂コンペ方式は「スペックワーク」です。クライアントにしてみたら都合がいいのでしょうが、クリエイターからするとたまったものではありません。働いても働いてもお金にならないばかりか、コンペに勝てない=能力がないと感じてしまって自分のデザインに自信がなくなってしまうことも考えられます。クリエイターにとっては良い点はまったくと言ってありません。しかし、コンペ方式で行われる案件はまったく減っていません。クラウドソーシングにいたってはコンペ方式の方が主流でしょう。そのような方式がなぜ未だに主流で使われているのでしょうか。

判断をしないといけないという勘違い

実はつい最近、私が担当した案件でこの「スペックワーク」のようなシチュエーションがありました。そして、結果的にその案件では、私の判断ミスで私も含めプロジェクトに関わってもらったクリエイターにタダ働きをさせてしまいました。非常に申し訳ない話なのですが、幸いそのプロジェクトではそこまでのワークをしていなかったので、結果的にはクリエイターたちもそこまで大きなロスをするということにはなりませんでした。

その案件で私が感じたのは、クライアント側も悪気があって「スペックワーク」のような依頼をしているわけではないということです。当たり前ですが、タダ働きをさせてやろうと思ってやっている人はほとんどいません。逆にそんなあからさまな要求はこちらも気づくので断ることができます。しかし、実際はそんなに簡単ではありません。逆にそうでないからタチが悪いです。クライアント側が悪気がないので、受けるこちらも断りづらいです。まるで当たり前のようにそのような依頼してくるので、とにかく断りづらいのです。

でも、なぜクライアント側は悪気がないにも関わらず「スペックワーク」を依頼してしまうのでしょうか。私なりの結論は、クライアント側が自分たちで作品の良し悪しを判断しないといけないと思ってしまっているからではないかということです。

いかにクリエイターを信用するか

どんな人であっても、いきなりパッと出てきた作品を良いか悪いか判断するのは難しいことです。自分がデザインの巨匠であれば多少の判断がつくかもしれませんが、大抵のクライアントはデザインができないから、もしくは自分よりも良いデザインができるだろうからと、プロにお願いしているわけです。だったら、判断なんてできるわけがありません。

そこで自分はプロではないし専門的なことがわからないからと、腹をくくって好みで判断すれば面倒なことにはならないのですが、なぜかそこで理由を欲しがる人が出てきます。なぜ、そのデザインにしたのかと理由を欲しがるのです。こうなると一番手っ取り早いのはコンペです。他の作品が出てくれば、そのデザインを比べることができます。比較という作業は特徴を掴むのにもってこいなので、こっちの方がよかったと理由も作りやすくなるということです。

例えば巨額の資金を投入しなければいけない建築物や社会的にインパクトのあるデザインに関しては、比較検討して万全を帰すという方法を行うことは納得がいきます。多くの人を納得させなければいけない場合、コンペ方式が有効であるということもあると思いますが、なんでもかんでもコンペというのはいかがなものでしょうか。

クリエイターと一緒に作っていくという考え方

でも、あがってきたデザインを元にデザイナーと話し合って良いものを作るという方法なら、誰だってできるはずです。コンセプトに関してうまく伝わっていない点はないか、もっとよく見せる方法はないか、話し合いながら意見をもらいながら進めていけば、今より絶対いいものができるのは明白な事実です。自分のイメージを何度もコミュニケーションして伝えていけばイメージ通りものができる可能性だって高まるはずです。

だいたい過去の作風を見れば、自分のイメージに近い作風かどうか判断つくでしょう。そうしたら後はデザイナーの能力を信用すれば良いのです。彼らは第一線で働いているプロフェッショナルです。デザインに関しては彼らにまかせておいても問題ないでしょう。それよりも、クライアント側はこのクリエイティブを使って何を表現したいのか。つまり、見せたいものをどう見せるかということに注力する方がよっぽど効率がよいです。そうしたらより効果的なものができるはずです。だからデザイナーとは距離が近い方がいい。会ったことのないデザイナーに依頼するよりは顔が見えているデザイナーの方が絶対いいものができる。

私は、コンペ方式ではなくて、コラボ方式がいいのではと思っています。デザイナーとコラボレーションしてクリエイティブをしていくと方式です。この方がうまく行く可能性が高いし、何より楽しいはずです。そして、デザインをより効果的なものに磨き上げていけるはずです。