人間拡張テクノロジーは、人の可能性を拡げるか

Daiki Enomoto
THE Telepathy. -books, ideas and future-
6 min readMar 28, 2016

小さい頃からSFの映画やストーリーが好きだった。
大学生のときに観た攻殻機動隊に感化されて、大学の専門外のことを勉強した(大学では酵素をあつかう研究室だった)。

専攻を変えるわけでもなく、技術系の就職をするわけでもなく、いまは子どもから大人までを対象としたヒューマン・サービスを提供する会社でサービスの開発と研究をしている。

ヒューマンサービスの対象は、学ぶことや伝えること、働くことに障害を持った人たち。

一般的には「障害者」とくくられる彼ら彼女らに対峙する仕事を選ぶとは、少なくとも大学在学中には全く思っていなかった。かといって、「これがしたい!」という明確な方針もなかったのだけれど。

いろいろな縁により、働いて4年が経とうとしている。

そして、今になってようやくひとつの地平が見えてきたなと実感している。それは、人の可能性を拡張する、ということ。

きっかけはいろいろあるけれども、そのうちの大きな一つは、東大の稲見先生の書籍「スーパーヒューマン誕生!」を読んだこと。

付箋をたくさんつけたその本にはこんな一節がある。

(中略)「SFなどエンターテイメントと研究には相互作用がある」という点に気づいた。私のように、エンターテイメントやフィクションにヒントを得て研究が進むこともあれば、逆に研究をヒントにフィクション作品がつくられることもある。

100%共感した。現実世界は、いつも人の想像力を追いかける形で形になる。

たとえば、Cerevo社の「ドミネーター」。これは、アニメ「PSYCHO-PASS」に登場する銃。

アニメの中ではドミネーターが向けた対象の心理状態を瞬時に診断し、そのときに下すべき処置を行うというもので、もちろん現実世界では販売されているものはオモチャに過ぎない。しかし、「しょせん」という言葉で一笑に付される事柄だろうか?

ぼくはそう思わない。人の想像力は、空想を現実にする力学が働く。

同じことが人体の拡張においても言えるだろう。

人体の拡張とは誤解を恐れずに言えば、「機械を用いて、自在にすることができることを増やすこと」である。【自在にする】というのは、思うがままになしえるということ。意識下よりもむしろ無意識下の営みのほうがおおいのかもしれない。

稲見先生のことばを借りると、「人機一体」というコンセプトである。

僕が人の可能性に対して「無限大だ」ということを思う瞬間は、時間軸である。実際、20代後半にさしかかろうとする自分とこれから進路を選択して歩んでいく10代後半の若者、どちらが無限大の可能性を感じるかと言ったら一般的には後者だろう。これは、実際には認知バイアスがかかっているかもしれない。

Illustrated by Anna Vital

It's never too late to start.ということばが至言たる理由は、実際には{今日}の連続の中で生きる僕達はいつでも可能性に満ち溢れているからかもしれない。

しかし、空間軸での「人の可能性」になると少し話の次元が異なる。

まず思い浮かべるのは、「身体障害者」。

身体障害者福祉法の対象となる障害は、1) 視覚障害、2) 聴覚障害・平衡機能障害、3) 音声・言語障害(咀嚼障害を含む)、4)肢体不自由、5)心臓・腎臓・呼吸器・膀胱・大腸・小腸・免疫等の内部障害の5種類に大別される。−Wikipedia

とのことで、「身体障害者」として認定されている約350万のうち約176万人が肢体不自由である。−H18年度厚労省調査より

手足が自由に動かせなかったり、視機能、聴覚や前庭覚の機能に何らかの問題があるためために「障害者」と位置付けられる。位置付けられることで、福祉サービスや公的補助等を受けることができるようになる。

ここでは福祉の法制度や障害者権利などについてよりも、純粋な人体の可能性について考えてみたい。

身体機能がいわゆる「ふつう」の働きをしていないことが、障害者とみなされる所以なのだが、ここに一つ視点を付け加えると、環境や社会側が「ふつう」以外を排除せざるを得ない構造が潜んでいるともいえる。効率性や規模の経済を追求することで、柔軟性を欠いた構造となる。

しかし、「今の身体障害者であるわたし」+機械により、
①「ふつう」と同等の機能を持ちうる
②「ふつう」で果たす機能と同等の機能を果たしうる
③「ふつう」を超えた機能を発揮することができるようになる
などの効用が得られるのではないか。そして、そうすることで、柔軟ではなくなった社会側の障害を埋めることができるのではないか。そう考えることもできる。

こうなると、「障害」というものが、実は所属するコミュニティや社会に規定された「つくり」なのだと言える。

目の前の事象を【自在にする】ことができるようになる。それは、まさに人体の拡張によるものである。

有名な例で言うと、陸上のオスカー・ピストリウス選手や、exiii社のhandiiiだろう。

photo by Ochi Takao

ひとが目の前でみたことは、自分の中では紛れも無い事実なる。そして、事実は考えや信念を構成し、その信念の集まりが集団の規範や常識になる。

身体拡張テクノロジーが普及することは、人の可能性を拡げるか。

人の可能性を拡げる、と信じて動く人たちの手によって、身体拡張テクノロジーは普及し、やがて人の可能性を拡げる事実を作ってゆく。未来の当たり前を作ってゆく。

--

--

Daiki Enomoto
THE Telepathy. -books, ideas and future-

Researcher at LITALICO Inc.「テレパシーがある未来を創り出す。」をテーマにしています。