従業員の幸せを第一に

yoshihiro kadota
Presearch Project
Published in
6 min readJan 27, 2020

株式会社大川製作所

2019年4月より、 「浜松ラボ」1期生としての活動をスタートした成蹊大学経済学部の研究室である。一般の文系の大学ではゼミナール(ゼミ)と呼ぶところ、私たちは ラボラトリー(ラボ)として活動している。 「ラボ」と聞くと、研究活動のイメージがあろう。実際に、私たちはプロジェクトを企画・実行することで、社会における諸課題を発見し、新たな価値を創造することを目的とした研究活動を行なっている。座学を通して勉強する一般の「ゼミナール」とは異なり、プロジェクトを通した実践的な活動の場があることから「ラボ」と呼んでいる。

今回私たちは中小企業における海外展開の工夫についてリサーチするという目的のもと、埼玉県川越市で製造業を営む株式会社大川製作所(以下では、大川製作所と呼ぶ)の海外進出の経緯、さらに課題とその打開策を聞かせていただいた。

大川製作所を知ったきっかけは、2019年11月13日〜15日東京ビックサイトで大川製作所が出展されていて、展示してある製品に魅了されお話を聞かせていただいていたからである。その際に、中国に海外展開していること、「匠創り 人づくり」を経営理念に最終的な製品でお客様と社会に価値を出し貢献するために、まず製品を作る従業員の幸せを第一に考えていらっしゃるということをお聞きし、さらに詳しく聞きたいと思い取材を申し込んだ。

産業交流展での大川製作所様の出展製品

大川製作所は主に複合切削加工を手がけ、製造するパーツの用途は自動車や家電、医療関係と多岐にわたる。

また2007年に埼玉県の彩の国工場に指定されている。彩の国工場とは彩の国工場とは、技術力や環境面で優れている工場を、埼玉県知事が豊かな彩の国づくりの協力者(パートナー)として指定するものである。

株式会社 大川製作所 代表取締役 大川博様

海外展開背景

現社長の大川氏は30歳の時に前社長であった父から会社を継ぐことを決意。 しかし、それまで一般企業に勤めていた大川社長にとって製造業は全くの未知の世界であった。当初は、同業者を訪ね回るなど必死に努力なされたという。そんな中でのある人物との出会いが大川製作所が中国へ進出する鍵となったのだ。その方が所属する会社は日本と中国に工場を構えており、会話するなかで大川氏も海外進出を考えるようになっていったという。実際に中国へ進出する際もサポートしてくださり、とても助かったとのことだった。大川製作所が海外進出を成し得た1つ目の理由はここであると思った。中小企業が海外進出をする際に課題となることとして、現地での書類手続きなどのローカルルールへの対応が挙げられる。中小企業は資金面などの理由から現地コンサルティングなどを依頼が難しいという状況であるため、自力で解決しなければならず、時間や労力が大幅にかかる。現地の知識があり、好意的に協力してくれる人物や企業は、中小企業の海外進出には極めて重要であると同時に、こうした人と人との繋がりを大切にすることこそ大事であると思った。そして大川製作所は2011年に中国江蘇省に工場を構えた。

大川製作所は現地での需要があり、進出先に日系企業の進出実績があったため進出したそうだ。ここが海外進出を成し得た2つ目の理由である。新しい事業を行う際に最初の顧客を獲得するまでは困難である。海外において難易度は増す。スタートに躓かず顧客を獲得できることは新規事業を始める上で重要であり、そこをしっかりと押さえることは海外進出の成功へつながるはずだ。 確実な情報収集と需要の見極めは、海外進出の前にしっかりと行うべきであると思う。

中国工場について

海外での拠点が果たす機能は原材料調達・生産・販売・研究開発など色々なケースがあるなかで大川製作所は原材料調達、生産、販売までを一貫して行う事業体系だ。顧客は現地の日系企業で、日本の工場とは異なるパーツを製造・販売している。

中国に進出した際の課題

中国進出で課題となったことは様々あったそうだ。

例えば、政治的な理由で資料が通らないなど交渉がスムーズに行かないことがあったという。審査書類が後回しにされ続けたのを現地パートナーに解決していただいたそうである。また中国人労働者は『賃金』を最も重視して働こうと考えている。日本とは異なる従業員の考えた方だ。こうした、文化の違いに悩まされたという。

日本では終身雇用や年功序列という文化があるため、目先の賃金にこだわらずに働く人が多い一方、中国ではどんどん人件費が上がっているという影響もあり、賃金重視の考え方が日本より濃いという文化の違いがあった。

なので、隣の工場の給料が一元でも高ければ、働いていた工場を辞めて隣の工場に行ってしまうことが一般的であり、賃金に対してとてもシビアに仕事を選んでいる状況であった。

取材風景

文化の違いへの取り組み

このような文化の違いに対して大川氏が行った取り組みは「従業員の幸せを第一に」と、従業員の成りたい姿と会社のあるべき姿をマッチングさせるために一人一人コミュニュケーションをしたという。

具体的にいえば、大川氏は自身が作成した経営計画書に基づき、組織レベルで【会社の将来像】→【将来像から現在足りないこと】→【足りないことを補うために企業として必要なこと】を示し、個人レベルでは【従業員が成りたい姿】から【従業員と会社の目指すべき方向】をマッチングさせるという取り組みをしたとのことである。

こうして賃金とは違う切り口で、一人一人の成長が会社の成長に繋がる【人材の育成】に取り組んだのである。

従業員一人一人が何を考え、何を思ってここで仕事をしているのか。従業員の自発性を引き出していった。

※経営計画書とは

使命感→経営理念→未来像(社員組織事業)→利益計画→売上計画→個別方針などを示したもの

人材の大切さ

今回のインタビューで大川氏は会社で働く人材を大切に思っていることが感じられた。お客様を幸せにすることはもちろんだが、その前に自分の会社の従業員たちに幸せになってもらうことが大切だということ、そしてそれによりお客様に提供できる価値が増し、お客様の幸せにも繋がるということを示していただいた。

会社を作るのはやはり働く人であり、だからこそ従業員をまず幸せにするという考えは、長く愛される会社には、どこの国においても必要不可欠なものだと感じた。

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