仮説思考で意思決定を先送りする

一番リスクが高い仮説を特定して真っ先に検証する

Goki Omata
Product Run
9 min readApr 9, 2019

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どうしてこうなった?という事態

「ああ…当初に当たり前だと思いこんでいた前提が間違っていたのか… 」

プロダクト開発をしていると予想していたこととは違った結果に終わってしまうことはしばしばありますが、その時になって振り返ってみてはじめて自分の思い込みの存在に気がつくことがあります。

自分の思い込みをあらかじめ認識して確かめることが事業やプロダクトを作る上で重要です。この記事ではそのために必要な考え方とはなにかをカバーしていきます。

「コーヒーとキムチチャーハンの組み合わせは受け入れられるだろう」という仮説

本記事の対象読者

アジャイル開発の導入を社内に進めたい方およびその上司

目次

プロダクト開発における仮説思考とは

仮説とは A は Bであるという2つの要素について、その時点で考えている関係性を記述した「仮の説」です。

Pivotalのプロダクト開発における仮説は大きく以下の3つに分類されます。
1.ビジネスに関する仮説
2.ユーザーに関する仮説
3.技術に関する仮説

プロダクト開発における仮説思考とはチームのアイディアを仮説という形で管理しながらその検証を通じてリスクの低い意思決定を重ねていく態度であると考えています。アジャイル開発は変化への積極的な対応を特徴としていることから仮説思考と相性が良いと言えます。

その重要性の一方で組織的に仮説を取り扱うことは簡単ではないようです。ある企業では文化として根付かないため、また別の企業では社内の意思決定プロセスと沿わない、仮説の取り扱い方がわからないなど理由はさまざまのようです。

意思決定の品質と期限のトレードオフ

https://steemit.com/psychology/@krnel/hasty-decisions-reduce-accuracy-the-speed-accuracy-trade-off

ソフトウェアを開発することは意思決定の連続です。どれくらいの金額を投資するか?システムはどのように構成するか?どのような機能からリリースをするか?などさまざまな粒度の意思決定が行われています。

わたしたちは持っている情報を最大限に活用して意思決定をしますが、意思決定に必要な情報が十分に整っていないこともあります。こうしたタイミングではその時点で意思決定をするのかどうか?ということを判断しなければいけません。

多くの場合、意思決定を先送りできるならしたいでしょう。その方が更に豊富な情報に基づいて意思決定をすることができるからです。しかし、意思決定が遅れると連動する活動も遅れて損失につながります。一般的に意思決定の品質をあげようとすれば期限が遅れるというトレードオフの関係が存在します。

こうしたトレードオフに対して、Pivotalの開発プロセスでは意思決定する内容を見直すことで意思決定内容の一部を決めずに先送りできないかを考えます。

決めずに先送りするとは具体的にはこういうことです。
開発に30億円かかるQRコード決済アプリのアイディアがあるとします。このアイディアは社内でも期待がかかるものであり、翌年の事業展開に重要な役割を果たすことから今から動き出さないと翌年の事業計画にも大きな影響が出ます。社会的にもキャッシュレス化の流れがありますが、多くの企業が参入しているために競争は激化しています。

こうした状況に対して現時点で意思決定をしなければならないことは何でしょうか?

  • プロダクトの開発に30億円を投資をする
  • アイディアを構成する仮説の中でリスクが高いものを検証するためのMVPを作るチームの活動費として3000万円を投資する

という2つの選択肢がパッと思い浮かびます。

仮に後者を選ぶとしたら、この選択は残り29億7000万円分の意思決定を先送りしたということになります。いずれの選択肢にも正解/不正解はありませんが、果たしてあなたの会社は後者の選択肢を意思決定のテーブルに上げているでしょうか?

アイディアは仮説の組み合わせ

アイディアは仮説に分解できる

アイディアは仮説の組み合わせでできています。実際の例で考えてみましょう。社長向けにUberの飛行機版を作って儲けようというアイディアです。

アイディアは単純化して語れる

このアイディアを仮説に分解するとたとえばこんなものが出てきます。

アイディアを仮説にすると複雑な論理の組み合わせに見えてくる

さまざまなタイプの仮説があります。「社長クラスの人は移動時間をもっと短くしたいはずだ」はユーザーが抱える課題についての仮説ですし、「飛行機は車よりも速く移動できるはずだ」はソリューションについての仮説です。このようにいくつか出てくる仮説を処理していきます。

リスクを基準して仮説を評価する

「もし間違っていたらアイディア全体が崩れてしまう」という仮説を探したい

仮説を取り扱う上で重要な観点がリスクです。リーンスタートアップの考え方では時間やお金といった資源をムダにする可能性をリスクとして捉えます。

アイディアの土台となる仮説とはなんだろう?

リスクが高い仮説は他の仮説に対して与える影響が大きく、全体の土台と考えても良いでしょう。上の図を見てもらうと根本的な仮説が正しいかどうかわからないにもかかわらず大きな投資を決めてしまうことが危険であることがイメージしてもらえるのではないでしょうか。

少人数の横断チームでリスクの高い仮説を先に検証する

この仮説が間違っていたらアイディア全体が崩壊してしまうのでリスクが高い

リスクの高い仮説が抽出できたらこの検証が最速で終わるように計画を立てます。この段階ではチームメンバーは少人数でビジネス・ユーザー・技術の3つに対する知見を持ったメンバーが100%コミットしている状態が理想的です。

リスクの高い仮説をすばやく検証することでムダを抑える

少人数でクロスファンクショナルチームであることは重要です。
人数が多くても仮説検証の速度があがるわけではなく、むしろコミュニケーションコストが上がるリスクがあります。プロダクトのフェーズによりますが根本的な仮説を検証する段階にある場合はむやみに人数を増やさずに、フィードバックサイクルを極端に短くすることで仮説を検証するための作業工程に手戻りが発生しないようにしましょう。

仮説の検証方法はさまざまです。具体的な手法についてはProduct Designer のErikaさんの記事が詳しいので参考にしてみてください。

予想通り行かないという前提を持つ勇気

明日のことさえ正確に予測するのはむずかしいことです。天気のようなものなら可能かもしれませんがプロダクト開発の世界はもっと複雑です。予測が簡単ではないからこそアイディアをうまく試した人が勝てる世界だということでもあります。

会社のサイズが大きかったり、事業がうまく行っていなくて停滞感があるときは「投資するからにはうまくいくんだろうな?」といったプレッシャーがかかるケースが多いです。口に出すかは別としてそのような問いに対して言えるのは「正直うまくかどうかは現時点ではわからないんですが、小さく試す価値はあります。まずは全部を決めないでいちばん大事な仮説から検証させてください」と態度で臨めると良いと思います。

もしあなたが組織の新しいアイディアの担い手を応援する立場であれば、ここまで述べてきたような「重要な仮説をいち早く検証する」ということに価値を見出してほしいと思います。誰も成功を保証することはできませんが確実にうまくいくアイディアを探し出すまでなにも決めないのは単なる時間のムダです。一方で、なにも根拠がないまま大きな意思決定をすることも大きなムダを生むリスクをはらんでいます。

予想通りにいくこともいかないこともあります。なにが予想通りにいかなかったら大変なことになるか?ぜひこうした観点を持ってプロダクトを作るチームの良き理解者であっていただければと思います。

次回予告:意思決定の先送りとデリバリーの関係

「先送りできたらいいけれどそれだとリリースが遅れるのでは?」
という疑問にお答えする内容を書きたいと思います。この記事へのフィードバックをいただけると頑張れるのでご意見・ご感想をお待ちしています!

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