「正しさ」を追求した先にあるもの

Saho Hamahira
Product Run
Published in
Jun 7, 2023

こんにちは OR はじめまして! VMware Tanzu LabsでPMをしているSahoです。 :) この記事では「正しい」とは何なのか、「正しい」のその先について考えてみたいと思います。

「これって正しいですか?」

突然ですが日々仕事をこなしていく中で、自分自身がこんな質問をしたことや、あるいはされたことがある人は多いのではないでしょうか。

「これからリサーチを実施する予定なんですが この仮説は正しいと思いますか?」「ロードマップを今このタイミングで描き始めることは正しいですか?」

私はLabsで利用しているプラクティスについてクライアントからそのような質問を受けることが多々あります。何気ない言葉ですが普段皆さんがこの「正しい」という単語を どこまで意識的に利用しているのか興味深いところです。

「当たり前」が変わっていく世界

仕事の種類によって「これこそが求めている結果だ」と明言できるものはあると思います。「マニュアル通りに作業をしないと次の作業に影響が出てしまうので これが正しい」「法律で決められていることなので 今はこれが正しい」。

このような明確に言語化され、指示され、あるべき姿が定義されている仕事は、実行する側も そして任せる側(上司や依頼先など)も コミュニケーションがシンプルになりやすいのではないかと思います。正解でなければ すぐに明確に違う(それは正しくない)と判断することができるからです。これは仕事が確実に、そして着実に、いつかは「正解」に辿り着くことができることを意味します。テストの点数のように、採点者が明確な期待値を持っている世界です。

幸か不幸か、現代のソフトウェア開発の世界では「今、正解と言われることが数年後も正解だ」と断言できないことの方が多いと思います。不確実性の高い世界で正しさを決めるその指標は、ユーザーの置かれている状況や環境と共に変化しています。

「日本でもマイナンバーの普及に伴い、今まで直接対面で行わなければならなかった役所の手続きが、役所に行かずともコンビニで対応できるようになってきた。」

「対面の授業が当たり前とされていた教育現場でも、コロナ禍により非接触が強く求められたことで オンライン授業をより積極的に取り入れる学校が出てきた。」

ユーザーの「当たり前」が変わっていくため、そこに向けてサービスを提供しようとすると、作り手側(事業者側)の「マーケット戦略などの当たり前」も変わっていくことになります。それはどのような立場の人であれ(企業のトップであれ、あなたの直属の上司であれ)「”過去”に正しいと認知してきた方法」を参考にしながらも「”今”のユーザーに向けてとにかく少しやってみる。そしてその結果から学び、次のアクションに繋げる」しか手はないのではないでしょうか。

本質を探る力

この記事では「正解は必ずあるはずだ、と思い行動する人」を「正解追求者」と呼ぶことにします。そして実は、まさに社会人を始めた頃の私自身がこの正解追求者でした。

正解追求者だった私は、仕事をこなす上で「誰かが必ず正解を持っている」と信じていました。自分は無知であり、正解を手に入れることで次のステップへ進める、と。

正解追求者は正解がない状況を不安に感じます。そして、自分より立場が上だと判断した人(例えば先輩や上司)から得た情報を、そのまま素直に受け取る傾向があり、「自分は〇〇さんからこの方法を学んだ。だからその通りに動くのが正しい。」「(自分より立場の上の) 〇〇さんがこう言っている。だからその情報が正しい。」という思考に至ります。

前述した通り、今の私は幸運にも「不確実性の高いこの世界において、絶対的な正解を持つ」ことの難しさに気づくことができました。そのため、過去の自分と同じく正解を強く求めている方に対して 心がけている行動が2つあります。

1つ目は、何故それが知りたいのか その動機の確認です。この動機の認識を怠ると 話の方向が定まらず 質問した側も、その質問に対応した側も不完全燃焼となり とても残念な状態となってしまいます。(正解追求者は相手が自分の期待する答えを提示してくれなかったことにモヤモヤし、また対応した側も 納得しない相手に対してモヤモヤしてしまいます。)

冒頭の「これからリサーチを実施する予定なんですが この仮説は正しいと思いますか?」と言う問いに関しては「この仮説に関してチームやあなた自身は今どんな風に感じていますか?そう感じている理由も知りたいです。」と動機を確認し、そして「この仮説が検証できるとチームは次にどんな行動を起こせると考えていますか?」といった具合でに質問者自身の頭の整理に寄り添います。そして多くの場合、その整理の過程で自ずとそれが「正解(という名のより良い次の一手なのか)かどうか」が見えてきます。

2つ目は自分の考えを決して正解という定義、枠組みでは伝えないことです。例えば自分の意見を言う際には「自分は今この状況をこう捉えていて、こういった理由で この方法が良いと考えている」と伝えます。この「結論だけではない その手前の思考の流れ」を付け加えるかどうかで 受け手の印象が全く違うものになると感じています。

「ロードマップを今このタイミングで描き始めることは正しいですか?」と言う問いに関しては「ロードマップを作成することは、関係者(特にステークホルダー)とのコミュニケーションを促進するための方法論の1つだと考えているので、もし今関係者との認識が揃っておらずチームとして苦戦している場合は今描き始めることは良いことだと思います。」といった感じでしょうか。

私が正解追求者であった時、上司や先輩に「これが正解だ」と提示された瞬間に解が手に入った、と安心し そこでよく思考が停止していました。そして手に入れた「正解」に対してアクセル全開で進むものの、少し違う状況に遭遇すると 臨機応変に対応できず、またすぐ新たな「正解」を周囲に求め始めてしまうのです。

Do the Right Thing

少し話題は移りますが、VMwareの前身、Pivotal Labs社の頃から私たちLabsメンバーがとても大切にしているモットーの1つを紹介してみたいと思います。それが「Do the Right Thing」です。

この英文を日本語に直訳すると「正しいことをする」という表現になりますが、この“Right”と言う英単語を辞書でひくと2つの意味が載っています。

Right

①良いこと、適切なこと、正しいことに従っている。
②事実、理由、真理、または何らかの基準や原則に合致している、正しい。

ここで興味深いのは、この正しさ(Right)という表現の前者では「(その時の状況や主語を誰にするかによって)柔軟性のある情報」を指すことができる一方で、後者では「(基本的に証拠に基づき語ることができる)確固たる情報」を取り扱うこともできるという点です。

つまり「正しさ」を追求する際には「この両者のどちらをあなたは今、意図しているのか」といった視点を持ってみると 、あなたが得た「正しい」情報に対する捉え方にも変化がでてくるのではないでしょうか。

今求められていることは?

世の中には多種多様な仕事が存在します。その中には「仕事を渡され、その仕事を指示通り的確に、迅速に実行する」という仕事もあります。そのような仕事が求められている場があることも事実で、今の 社会はそういった仕事で働く人々にも支えられ回っています。

ここで伝えたいのは、あくまでその作業の先にどのような貢献や影響が(誰に対して)あるのか、その背景を理解することで視野が広がり あなた(ないしチーム)にとって「より良い可能性」を見出せるチャンスがあるかもしれない、ということです。提示された解をただひたすらに実行すること、それがあなたに求められている仕事なのか、そのことを確認することが もしかするとスタート地点なのかもしれません。

「正しいという解」がはっきりとある世界は時に心地よく、しかし時に自分の成長を感じにくく、つまらないと感じることがあるかもしれません。

「正しいという解」がはっきりとない世界は自分の言動や判断に責任が伴い、その状況に対し不安を感じるかもしれません。しかしその環境は同時に挑戦的で 可能性に溢れた世界だと捉えることもできるのではないでしょうか。

みなさんの毎日の仕事の中に絶対的な「正しいという解」はどれくらいありますか?:)

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Saho Hamahira
Product Run

Senior Product Manager, Application Transformation, VMware Tanzu Labs