MAD MAX Fury Roadから学ぶ「LEANの感覚」

Louis Virgo
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Published in
Sep 10, 2024

「実践的なLEANの感覚は、どうやったら身につくか?」という質問の答えは、映画が教えてくれた話

My name is Louis, my world is agility and creation.

こんにちは、Tanzu Labs by Broadcomのデザイナー、Louisです。

私たちTanzuLabsは「LEAN XP」という考え方をベースとしたソフトウェア開発を、お客様にお伝えしています。

その中で、継続的にサポートをさせていただいてるお客様から

「プロジェクトを進める中で、LEANに基づいた状況判断をすることに、難しさを感じてます。LEANの感覚ってどうやったら身につけられますか?」

と質問されたことがあります。

色々なプラクティスや、考え方は知識としては知っているけど、実際の開発の中で、咄嗟にLEANを意識した判断をするのが難しい、と感じられたそうです。

確かに、これは難しいですよね。私も今も学びを繰り返しながら学んでますが、過去にブレークスルーになった体験があるので、今回はそのことを紹介したいと思います。

ここでやっと、当記事のタイトルに触れるわけですが、ジョージ・ミラー監督の「MAD MAX Fury Road」はご存知でしょうか?

2015年に公開された映画で、シリーズとして27年ぶりに公開された続編、ファンが心底待ち望んだ、という作品になります。
そして、私もMAD MAXは子供の時から長年のファン。続編公開は相当ハイテンションな状態でした。

Fury Road公開当時、ちょうど私はLEANを理解する上で、なかなか実務で実践や体験の機会がなく、「そういうことか」と思える直接的な感覚を得て、腹落ちしたいなあ、と思ってた時期でした。

これからお話しする内容は、あの映画の世界観への愛が止まらない、V8信者であるデザイナー視点からの意見として、参考にしていただけると幸いです!(かなり映画のネタバレ話になります)

ではまず最初に、普段私が関わるソフトウェア開発におけるLEANと、この映画がどれくらい親和性が高いかを説明します。

アジャイルな判断

(心底、この映画を尊敬してる上で)すごく端的にこの映画のストーリーをまとめるなら、

「行って、戻ってくるだけ」です。

もう少し詳しくいうなら、「行ってみて、判断して、学びから柔軟にピボット」

そう、まさにAgile開発やLEANを通ると、見たことある!図です。

既視感!

もうこの時点で、いい予感しかしません。

チーム対比への共感の高さ

登場人物の構成は、

主人公マックスと、砦から逃げて緑の土地を目指すフュリオサと、その目的に共感した独裁者イモータン・ジョーの妻たち

と、

妻たちを追っかけるイモータン・ジョーと、その臣下とか戦士とか、たくさんの人々

となります。

そして、この両チームの特徴は、とてもはっきりしており、その特徴が、ソフトウェア開発者に響く設定となってます。

マックスのいるチームは

「メンバー間の目的が明確で、最小限の人数」

「スペックと機動力重視の最小限の装備」

「メンバー間の意思疎通がスムースで、判断が早い」

と、かなりいけてるチームになってます。

一方、イモータンのチームは、

「必要かわからないけど、集めれるだけの大人数を最初に集めた」

「目的に納得感がない(映画では痴話喧嘩が原因、と周囲に認識されてる)」

「リソース(ガソリン・爆弾)消費が半端なく、動く度に損失を作る」

「中堅リーダーが欲求のままに行動し、周りが盛大に巻き込まれる、または妄信的なリーダーに自爆を推奨される」

という、できれば関わりたくないなあ、というチームの様相を呈しています。

この両チームの戦いとなれば、共感度MAXな予感しかしません!

何百回みても最高にカッコいい追いかけっこ

LEANの感覚は何で構成されてるのか

さて、MAD MAX Fury Roadを参考にするポテンシャルの高さが得られたところで、本題の「LEANの感覚」について踏み込んでいこうと思います。

冒頭に書いた通り、自分もLEANを感覚的に理解したい、という欲求がありましたが、どんな要素でそのことが達成できるか、をこの映画を通して言語化できた気がします。

それは、「確信度」をもとに、今この時に一番重要なことを決め、それ以外の無駄を今は保留する「勇気」。このことを、コントロール下に置けてるな、と自己認識できてることが「LEANの感覚」を持ててると言えそう、と私は考えています。

もう少し、この「確信度」と「勇気」について触れていきます。

“必要なことの確信度“というのは、

今、この瞬間に「知ってる」事に対する確かさ、と定義します。確信、と言ってしまうと、0か100か、の印象になるので、ここでは「確信度」として、度合いがあるもの、としてます。

確信度というのは、プロジェクトやアイディアの初期ほど、高くない場合が多いのではないでしょうか。

唯一知っているのがこれだけ、他と比べてちょっとだけ実例があるから若干確か、とか。そして、リサーチを進めると、新しく得た情報で徐々に高くなったり、または全く別のものが急に確信度高く現れたりします。

その成長していく情報の確信度をもとに、今必要なこと、を決める優先順位もつけられるようになります。

つぎに“今は保留する勇気“です。

上記で話した、確信度が高い必要なものを見極めて、私たちが物事を進めていけると、次に進むか、または前向きに引き返すかの判断基準になる「収穫」を得ることができます。

その大事な収穫を確実に得るためには、確信度が低いものは保留しておくことは、とても大事です。捨てるのでなく、保留です。捨てるのは、決断という大きな勇気を要求されます。

なので、保留=パーキングロットとも言われますが、そこに置いておくだけなら、小さな勇気ですみます。

なぜ小さな勇気を推奨するのか、は後述します。

主人公マックスが伝えた確信度と勇気

LEANの感覚を掴むのに必要な「確信度」と「勇気」が定義できたところで、MAD MAXの荒れ果てた世界に戻りましょう!(ヒャッハー!)

映画の後半、主人公マックス一行は、フュリオサが当初目指していた緑の土地がすでに消滅してることを知ります。

そして、追っ手から逃れるために、広大な塩の大地を、160日間突っ走るという新しいプランを立てるのです。

そのプランに最初マックスは加わりません。理由はいくつかありそうですが、彼はこの干上がった海が、たとえ160日走り続けても渡りきれない事実を、唯一知っている人物でもありました。(彼は自前で地図を作成しており、周囲の地理に強そう、と推測しています)

最初はフュリオサ達の見殺しを選ぶ形で別行動をとりますが、幻覚に諭される形で、マックスは彼らを追いかけ、こう言うのです。

「このまま走り続けても、塩しかない。だが、来た道を戻れば、緑と水の土地がある」

そう、まさにこのセリフに、私が「LEANの感覚」を掴んだすべての要素が入ってます。

マックスだけが知る「走り続けても、塩しかない」という確信度が高い情報を、フュリオサに与えます。

同時に、すでに全員のメンバーが知る、「来た道を戻れば、緑と水の土地がある」=フュリオサらが住んでいた場所という、脅威の100%の確信度を持っている情報も与えます。

マックスは、彼女にとって確信度が高いと思う道を選べ、と言ってるのです。

確かに追われているなら、そのまま突き進み干上がった海に逃げ込むのもありですが、そのプランを保留(この状況は却下になりますが)にする勇気も試されています。

フュリオサたちの最優先事項は、独裁者イモータン・ジョーに支配されず、全員が平等に緑と水の中で生活できること。それを叶えるのは、今や元々住んでいた場所のみが確かな事になりました。

ただし、元いた場所に戻るには、イモータン・ジョーを消す必要があり、「かなり困難な道のりだ」ともマックスが言います。

しかし、この100%の確信度がもつ人を動かす力は強く、結果全員がこの困難に立ち向かうことを決め、独裁者を消す、という収穫を得たのち、緑と水を平等に手にいれる目的を達成するのです。

映画を見終わった私は、開発のサバイブのみならず、LEANはこんなに荒れ果てた世界でも、活用できる術だったのかまで感動が爆発してました。

そんな経験から掴んだ感覚ですが、掴んだだけではダメで、実践して使いこなしていく必要があります。できれば荒れ果てた世界に行かずに、身につけるにはどうしたらいいでしょうか。

確信度と勇気を持ちやすくするには

ここでも「確信度」と「勇気」にポイントを置いて話していきますが、この二つを上手く使うためには、対象になる物事をできるだけシンプルにするのがポイントかと思います。

シンプル=情報や物事を端的な言葉にまとめ、理解や取り扱いがしやすい状態、とも表現できるかもです。2時間ある映画の概要を、一言でいう、のも似た変換かと思います。

シンプルな物事ほど確信を持ちやすく、物事がシンプルなほど勇気を出しやすいので、動きやすさが出てきます。

情報粒度が荒くて、都度頭で整理しながら判断を繰り返すと、頭も疲れてきます。なので、できるだけ情報を理解の負担が低い状態に加工して、プロジェクト内で持ち歩けると、リサーチプランを作る際に手際よく進めることが多く、その成功体験の蓄積が、次の勇気を出す力にも繋がります。

そして、実際にシンプル化する練習は、日常生活で試すのをお勧めします。

実は仕事でLEANの感覚を鍛えるぞ〜!と思っても、仕事だとなかなかタイミングよく試せなかったりするんですよね。

私自身が映画から学べたように、LEANの感覚というのは、日常生活の中にも存在します。逆を言えば、実は身近な感覚とも言えるかもしれません。

一例ですが、もし今、何か自分で達成したいことがあれば、目的の達成をするのに必要なこと、モチベーションを維持するために心に留めておくべき事項などを、自分が思い出しやすく、意識しやすいシンプルな言葉で形にしてみるのもおすすめです。

その扱いやすい言葉を元に、今自分が選択して進む方向や、行動の優先順位をつけることは、今回お伝えしてる「確信度」や「勇気」を、研ぎ澄ますいい機会だと思うので、試してみてもいいかもしれません。

そして、ちょっと気分転換にMAD MAX Fury Roadを観て、私と同じ気持ちになれた方がいたらとても嬉しいです!

V8!!

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