台風15号の影響で丸1日羽田にいた話

台風15号の影響で成田空港が陸の孤島と化していた時、羽田空港では何が起こっていたのか

Shin Hashitani
Sep 26 · 17 min read

プロローグ

10:00 — パニックというよりどこかしら停滞感の漂う羽田空港

「フライトが見つからない…」

9月9日月曜日朝は急いでいた。
その日出張で10:20発の飛行機に乗る必要があった。通常であれば羽田空港までリムジンバスに乗れば1時間だが、その日は台風15号が東京に上陸していたので焦っていた。紆余曲折あったが何とか空港まで辿り着く。もう出発まであまり時間がない。私以外にもギリギリ到着する人は多いだろうし、出発を直前にして空港は大混乱になっているだろうと思いながら羽田空港へ向かった。

空港に到着して目の前に広がったのは、ごった返した、それでいて何となく停滞感漂う重たい空気だった。あと20分で飛行機が出るのに、何故誰も騒いでいないんだろう。ギリギリに到着した搭乗者をグラウンドクルーの方々が血眼になって探していないのは何故だろう。そしてそもそも、本来後20分で飛び立つフライトの情報が運航状況のモニタに出ても来ていないのは何故だろう。

そう、実は羽田空港でもそれどころではなかったのである。そして私自身もそれから1日とちょっと同じ停滞感の中に身を委ねる事になる。今回はこの私にとって長い一日となった2019年9月9日の私目線での観察と、少し垣間見た人間模様について書いてみたいと思う。


2019/09/09 6:00 自宅(世田谷某所)

前日からかなり早く起きる事は決めていた。

台風の想定進路から考えると飛行機の出発時刻には通り過ぎるはずだったので飛行機は飛ぶだろうと考えていた。しかし前日からJRを含めた鉄道各社が朝からの運行休止を宣言していたので、いかにして空港まで辿り着くかが課題だった。空港リムジンバスで向かおうと考えていたが、朝起きた時点で運悪くリムジンバスも朝の便は軒並み運休と決まっていた。理由はどうあれ飛行機が遅れないのであれば何とかして時間までに辿り着かなければならない。出発まで4時間前だが6:30には家を出て空港に向かう。

最寄駅ではないが接続の多い二子玉川駅に到着。
実はここまで来るのもさほど容易ではなく、通常のバス路線は動いてはいたものの大幅に遅れていた。結局バスは30分近く待ってようやく到着。そして一度は乗ったもののバスの通る多摩堤道路は渋滞で混乱を極めていた。駅まで3つ前の停留所で運転手さんが「お急ぎの方はここから徒歩を」と促した瞬間にバスを降りて歩く。迷っていたところに背中を押された形になったが、他にも同じように数人即座にバスを降りた。

8:00 — 運転再開予定時刻になっても東急は全線運休のまま

「二子玉川に到着する頃にはどれか動いている路線はあるだろう」という淡い期待は外れ、駅に着いてはみたものの全線運休のままだった。同じようにとりあえず二子玉川に向かった方は他にも多く、タクシー乗り場には長蛇の列が既に出来ている。中には大きなスーツケースを持った人もいたので私と同じ状況で羽田に向かっているのだろう。

田園都市線が動き始めたのでまずは渋谷を目指そうかと迷ったが、東京モノレールとりんかい線は動いていることが分かった。時間はかかっても大井町まで出れば空港には行ける。優先すべきは確実性だと判断する。だいぶ二子玉川で時間を無駄にしてしまったが、大井町線が段階的に復旧し始めたので大井町を目指すことにする。

Observation — パニックとモラルハザード

誰も先が見えない状況ではあるがパニックは起こらない。皆整然としており、駅の運行状況をずっと固唾を呑んで見守る人、ほとんど動かない長い列の中でずっとスマホをみている人、皆比較的状況に対して受動的である。駅員に質問する人は絶え間なくいたが、声を荒げたり騒ぎを起こす人も私は見かけなかった。

これはおそらく皆が皆「何もわからない」というある意味フェアな状況だったからではないかと思う。「他の人は何かしら私の知らない情報を得ているのではないか」という懸念が生まれにくく、多くの人がある意味腹を括って自分なりの判断をしていたのではないか。改札の前で腕組みをして待つ人、長いタクシーの列でスマホをじっと見る人、道路でほとんど来ない流しのタクシーを拾おうとする人、それぞれ自分なりの賭けでそこにいる。

その時点では飛行機の遅延の情報も何も出ていなかったので私と同様相当焦っていた人も多いとは思うが、外に対してフラストレーションを放出するより自分にとってベストな判断をする事に徹していたのではないか。


2019/09/09 10:00 羽田空港出発ロビー

私のフライトは10:20発で、私が羽田空港の出発ロビーに到着したのは10:00。ギリアウトなタイミングである。大昔に金浦空港(仁川が出来るだいぶ前)に国際線出発20分前に到着した事があるが、この時は出発ロビーに着くなり話したアシアナ航空のグラウンドスタッフの方に手を引っ張られて色々ショートカットし、それでもギリギリでずっと走っていた。今回はギリギリ到着したのはおそらく私だけではないだろう。これはダメだろうとは着く前から思っていたので、東京モノレールで上司には先に「もしかしたらダメかも」とメッセージを送っておいた。

11:00 — 延々と続く長い列を渡り歩く

この時点ではインターネット上どのサイトを見ても乗る予定の飛行機の遅延情報は出ていない。見る限り「予定通り」であり10:20に出発する予定だと考えていた。出発ロビーに着いてまず運航情報を確認する。ここでの情報が最新のはずだ。しかしながら、そもそも私が乗る予定の飛行機が運航状況モニタに出ても来ていない。昨日の夜中発便もまだ沢山残っており、私のフライトと同じくらいの時間帯の飛行機には既に昼出発と遅延が決定しているものもあった。

とにかく分からない。私のフライトは一体どうなっているのか。どうして運航状況が表示されないのか。

長い列が至る所で伸び、限られた数のグラウンドスタッフが移動する度に人に囲まれているのだけが見えるが、それ以外に大きな混乱はない。私に一体何が起こっているのかが理解出来なかった。私の様に何が起こっているのか理解出来ず右往左往する人と、達観した様に何も言わず長い列に並ぶ人。そのどちらかである。

Observation — 2つのグループの分岐点

結局出発10分前にようやくグラウンドスタッフの一人を捕まえ私の乗るフライトの状況を確認したが、返ってきた返事は「そのフライトは遅延が決まっているが、まだいつ出発するかは分からない。少なくともすぐには飛ばないので落ち着いて欲しい。」という言葉だった。フライトに間に合わなかった訳では無かったという安堵感と、到着日にしか確保出来なかった自由時間が恐らく無くなるという落胆で、私も急に大人しくなった。そうか、この状況下で黙って列に並ぶ心理状態にはこうやって達するのかという妙な納得感を持って、私も1つずつ長い列を渡り歩く事にする。

選択肢が無いこと、そしてやる事が明確になれば、人は驚くほど従順になる。損得勘定も影響している。そもそも求める情報を誰も持っていないのは分かるし、私が騒いだところでまだ右往左往している人が分岐点に到達するまでの時間が掛かるだけである。他人はおろか自分だって得をしない。騒ぐ意味が無いのである。


2019/09/09 15:00 国際線ターミナル

15:00 — 混乱の割にあまり慌しさをあまり感じない

手荷物のチェックインとセキュリティチェックにはそれなりに時間が掛かったが、出国審査は随分スムーズになったと関心しながらターミナルに出てきたのは12:00頃。列に並びながらも出発時刻が決まるかと、ただただ淡い期待を持ちながら待っていた。

出国審査を通過した時にはさすがに安堵し、そしてまだ出発時間が決まっていない事が分かり落胆する。空港に到着した頃の分岐点と同じ様な、安堵と落胆が同時に訪れるアレである。これが疲れる。

それから30分毎にアップデートがアナウンスされる。もしかしてと淡い期待を持ち毎回アナウンスに聞き入ったが、何時間たっても未定と同じアップデートを聞くだけだった。期待も徐々に失望に変わる。

搭乗すると早めに食事出るので昼食は控えていたが、さすがに限界というか、もう未来の腹具合の様な些細な事はどうでも良くなったというか、食事をとる事にする。空港に到着して5時間が経過していた。

Observation — 共通認識を探す人たちと共通言語としての愚痴

この時間帯から人の話し声が耳に入ってくるようになった。多くは愚痴で(当然かも知れないが)、遅れながらも離陸する飛行機が増える中自分の飛行機が飛ばない事、運航状況が一向に更新されない事、何ら作業しているように見えない飛行機がそこにある事、これらについて皆色々な憶測を言い合うようになった。何処かしら「自分達だけ後回しにされてアンフェア」という意味合いが込められていた。

当初の出発時刻を5時間以上超えたことによって、我々には納得出来ない「作業の見積りに5時間以上かかる理由」を模索するというか、その状況に対しての共通認識を持とうとするというか、これらの会話には何処かしら同意形成の意味合いがあるよう感じた。もしかしたら自分が理解していない状況になっていないだろうか、自分だけが不安になっているのではないか、その不安を埋めるために自主的に情報共有し始めたのかも知れない。


2019/09/09 18:00 機内 — 8時間遅れで搭乗

19:00 — この時点では飛ぶと信じており皆寛容だった

昼食を済ませてから2時間半程経った後、急にアナウンスがあり搭乗できることになった。実は私は搭乗ゲートからかなり離れたところで時間を潰していたので聞いておらず、ターミナル全体のアナウンスで名指しで呼ばれて急いで向かった。申し訳ないと小走りだったが、グラウンドスタッフの方から「そんなに急がなくても大丈夫ですよ🙂」と言われ、それでも謝りながら飛行機に乗り込む。機内の通路を歩きながら「どういう意味だろう?」と少し分からなかったがとりあえず着席する。

隣はニューヨークに戻られるというご夫婦で、流石に少し疲弊した感じだったが飛行機は今何だか整備をやっているとの事。「なるほど、滑走路が混んでるから準備でき次第すぐGoという感じで先に搭乗なんだな」と勝手に解釈して待つことにする。ようやく搭乗出来たので会社のSlackには「色々ありましたが行ってきます」とメッセージを残し、折角なので「ロケットマン」を見ながら待つことにする。


2019/09/09 19:30 機内 — そして…

ロケットマンの中のエルトン ジョンはどんどんビッグになってスターダムに伸し上がり、苦悩のピークに達しようとしていた。だが一向に整備の進捗に進展がない。時差調整もあるのでそろそろ晩御飯でも出してくれればいいのに、いや離陸しないと食事提供は出来ないルールか何かあるのかも、と呑気に考えていると映画も終わりに近づいてきた。そんな中、19:30頃に急にアナウンスがある。しかもそれまでのようにCAからではなく、グラウンドスタッフからのアナウンスが機内に唐突に流れる。

この便は明日の午後1:00まで延期

そう、この機は飛ばない。理由は整備に関連する事まではわかるが、とにかく飛ばず、既に明日の13:00に飛ぶ事まで決まっている。これから我々と我々の荷物は飛行機を降り、出国取り消し手続きなる手順に沿って出国自体を一旦白紙に戻し、荷物を受け取ってターミナルから出なければならない。(羽田から入国した乗客の場合)そして、また明日同じ事を繰り返すことになる。

帰りのリムジンバスの中で成田の状況を確認する。多少知っていたつもりだったが、自分の事に目一杯であまり注意を払っていなかったので、改めて成田の混乱に驚く。時計を見ると22:00。空港に到着してから12時間が経っていた。

Observation — 苦笑にも似た笑い

このアナウンスが流れた時、もちろん「えーっ」という声も上がったが同時に笑い声も上がった。急に降って湧いた災難。理由はどうであれやらなければいけない事、この災難からくる弊害等、色々考えるとまず笑うしかないという心境だったのかも知れない。単に失望からくる失笑だったのかも知れない。飛ぶと信じていた自分のナイーブさを笑ったのかも知れない。いずれにせよ笑いは起こったし、隣席のご夫婦も笑い声から察しがついたという事なので感覚的にはユニバーサルなものだったのは確かだろう。

私も笑った。私の笑いは飛ぶと信じていた自分のナイーブさを笑ったものだった。

Observation — ストレスが論理的な事実を無視させる

この飛行機を9月9日には飛ばさない。この判断をしたのはCAでもグラウンドスタッフでも、もちろん整備を行なった整備士自身でも無い。CAさんに詰め寄ったところで事実は変わらず、彼女らに出来る事は基本的に無く、そして問い詰めた場合の回答にもある程度予測はつく。それでも人はCAさんを呼び止めては当たり前の質問をし、苛立ち、謝罪を受けようとする。乗客は論理的では無い理由で自らのストレスを表面化させる必要性を感じたのではないか。

合わせて乗客は「1日を超える遅延で大きな被害を被る」「期待させ丸一日空港で待たされる」という二重苦を自覚している。自らの怒りを表面化するに充分な正統性も感じていたように思う。

当然9月9日中に飛行機が飛ばなくなった時点で初めて被害が無視できないものになった人もいるだろう。近隣では無く遠方から羽田にいらした方、もしくは観光客の方にとってはその晩をどうするかという緊急の課題を解決しなければならなくなったとも思う。ただ実際私の耳に入ってきた多くの苦情はそもそもの話が多く、なぜ飛ばないのか、なぜ飛ばないのに待たせたのかを問い詰めるものが多かった。


2019/09/10 11:00 羽田空港出発ロビー — 再び

翌日11:00 — 再び…

夜遅くに帰宅し翌日再び羽田空港に向かう。

前日とうって変わってのんびりしたものである。電車は動いているし旅行準備も済ませている。朝ゆっくり起きると、ニューヨークの初日に着るつもりだった服をカバンから取り出して身支度を済ませる。

結局羽田に到着した時点で飛行機はさらに30分遅延した事が分かり、さらに出発直前に15分ほど遅延したようだが誰もあまり気に留めなかった。前日と違いチェックイン手続きも保安検査もスムーズで、いつものように時間を潰し、いつものように搭乗口に向かう。飛行機に乗ると(当たり前なのだが)昨日隣だったご夫婦は今日もお隣だった。ホテルが何とか手配出来たようでホッとしたと、そして随分スッキリされた感じだった。

Self Observation — 上から意識

遅延便のカウンターは全ての座席を取り扱っていた。グラウンドスタッフの方は時折座席の種類を確認して周り、ビジネスクラスの乗客がいると列から誘導して優先的に手続きしていた。至極当たり前のことなのだが、自分の前で2組も横入り(横入りではないのだが)されるとイラっとした。

私は昨日からずっと平静だったしここでも取り乱しはしなかったが、何故今頃になって苛立ちを感じたのだろうと自分の事ながら興味深かった。昨日の出来事に比べれば何てことはない。そもそも悪いことでは無く、自分がビジネスクラスの乗客だったら当然優先的に手続き出来て然るべきと思うだろう。そして、別に急いでいない。

やはり自分のどこかに「許してあげている」「寛容になってあげている」という上から意識があるから裏切られたように感じたのではないかと思う。ちゃんと片付けをしないからやってあげると「ものが見つからない」という子供にえらく頭に来るのと似ている。「してあげている」という意識の時には感謝されないだけで頭に来る。

ちなみに勝手に片付けて文句を言うと「大きなお世話」という子供は言うので腹が立つが、その主張は最もかもと初めて思った。


不運に学ぶ - 何が残念だったか

個人的に最も残念に感じたのは最新の情報が手元(航空会社のモバイルアプリ)で確認出来なかった事だった。わざわざ飛行機に乗る際に便利なようにインストールしたアプリである。刻一刻と変わる状況をこのアプリで確認出来ないことはナンセンスだと感じた。アプリからフライト遅延のプッシュ通知が届いたのは帰りのバスの中である。つまりバッチ処理で通知を送っているのだろう。これでは当日には意味がない。そして空港でフライトの最新情報を簡単に確認出来ない事は大きなストレスである。

今回のような大幅な遅延に限らず、搭乗ゲートの変更や30分程度の遅延は良くある。空港で何が不便かというと(キャリアのラウンジを利用出来る一部の人を除くと)変更等の最新情報の通知が音声でしかなされない事である。ターミナルではひっきりなしにアナウンスがあり、何か聞こえる度にヘッドホンを外したり、眠りから覚めたり、もしかすると自分のフライトに関するものかも知れないと思うとゆっくり出来ない。もしアプリが必要な情報だけプッシュで通知してくれれば、もっと快適に過ごせるのにと思う。

リアルタイムな情報の扱いにはアプリ以上にバックエンド側にそれを処理出来る仕組みが必要になるのは理解している。しかしながら、モバイルアプリというプラットフォーム上に顧客との接点がある限り、他のモバイルアプリ同様の即時性を期待してしまう。モバイルアプリとは、その場で銀行からペイシステムにチャージしたり、自分を迎えに来ている車が今何処を走っているかを逐次確認できるようなプラットフォームなのである。


エピローグ

個人的にはデータをリアルタイムで扱う事は正義だと強く感じる経験だった。とかくデジタルトランスフォメーションというコンテキストではDevOpsだのマシーンラーニングだのモバイルアプリだのが話題にのぼるが、ビジネスの血液であるデータをいかに迅速に企業体に循環させるかも重要な課題である。それが達成出来て初めて可能になるイノベーションは多い。

世の中にはバッチ処理が未だに多すぎる。


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PivotalジャパンのPlatform Architectとして、Pivotal製品導入とお客様のデジタル推進のお手伝いをしています。前職は生命保険会社でアーキテクトマネージャーとして、アジア地域におけるクラウドネイティブ推進を担当していました。

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