事例紹介:JR東日本アプリ開発を振り返る<後編>

マネジメントの立場から見た Lean XP の現場

Mario Kazumichi Sakata
Product Run
13 min readMar 25, 2019

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Product Run をご覧のみなさま、こんにちは!プロダクトマネージャーの Mario です。この記事は、Pivotal Labs が東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)様と共に、2017年6月から半年に及んだ JR 東日本アプリ「GO! by Train」新規開発プロジェクトの当時の様子を、インタビュー形式で振り返ります🚃 前編と後編に別れており、今回はその後編になります。前編をまだ読んでいない方は先ずはそちらから読むことをオススメします😎

Ono さんのプロフィール
JR東日本に入社後、車掌の教育あるいはヒューマンエラーの研究などの業務を経て、マーケティング調査やサービス向上に資する研究業務に従事。現在はデータやICTを活用したビジネス展開を様々な角度から実施する業務を統括。

Ito さんのプロフィール
JR東日本に入社後、指定席予約販売システム(MARS)の運用や売上管理、旅行商品造成・観光開発などの営業部門に従事。現在はICTを活用したビジネス展開を志向した複数のプロジェクトに携わる。

Taka さんのプロフィール
JR東日本に入社後、運輸車両部門を経て、ICTを活用した情報提供やビジネス展開の研究・開発に従事。2014年3月に「JR東日本アプリ」をリリースし、リアルタイムの列車運行状況などをお客さまにスマホで提供するサービスを実現。

ーー今も、Pivotal に来ていたメンバーとほぼ同じメンバーでプロダクト開発を続けていらっしゃると聞きましたが。

Taka さん:Pivotal に常駐していたメンバー4人は今も一緒に仕事を続けています。会社に戻ってからすぐにデベロッパーを2人増やしました。あとは当社内に「デベロッパーになりたい」という若い社員がいて、彼をデベロッパー見習いとしてチームに加えました。まだスキルは十分ではないですが、チームの一員として頑張って貢献してくれようとしています。帰社後1年経ってもなお、皆で Lean XP を愚直に続けている、という感じです。デザイナーとユーザーインタビューを月1~2回ペースで続けてもいます。

プロジェクトの最終日、おつかれさまでした!

ーーPivotal で半年過ごし、卒業されてから1年経ってもプロダクトの開発を続けているとのことですが、その後、大きく変わったポイントを教えていただけますか?

Ito さん:私は正直言ってこのメンバーの中では、一番技術的な知識は乏しいと思っているのですが、それでもアプリとかシステム開発の考え方が変わったと思います。これまでは要件定義をして、「これで頼んだ」といって、あとは「いつまでできるんだ」というスタンスでしたが、途中のプロセスがよく理解できるようになりました。

プロダクト開発の様子

あとは「本当に必要なものはどれなんだ」と探すプロセスとか、そういったことを学んだことが、他のプロジェクトも動かす際にも参考になっています。

Ono さん:Lean XP の考え方は、なぜだかスッと私の中に入ってきたんです。恐らく自分がこれまで顧客視点に関わる仕事をし、課題感をもっていたからだと思います。顧客視点での開発手法が体系立って語られているがLean XP だと思うので。

自分の言葉できちんと語って、皆が本気で厳密な議論するということが、良い物を生み出す。そういうことが非常に必要なのだな、ということを改めて認識できたことが、大きく変わった点かなと。

Taka さん:担当として一番大きく変わったなと思うのは、「帰社後も社内で内製化が続けられている」という点ですね。「内製化を実現したい」という気持ちだけありましたが、Lean XP を実践するためには、当社で決められたルールに対して例外的な措置を施さないとできないことがいくつかあることは分かっていました。なので、正直帰社後は続けるのは難しいだろうと覚悟していました。

元の開発体制(週1のミーティング)に戻るのだろうけども、一緒にPivotal で Lean XP でやっていた仲間たちがいるので、少しは考え方が変わって良いプロダクトが生み出せるようになるかな、と実は思っていたんです。ですが、帰社する頃には、内製化するための什器を揃えようというところまで話が進んでいて。Pivotal で使っているテーブルや Mac のパソコンも発注してくれていました。最初に与えられた部屋は休憩室の一角でしたが。本当に続けられるんだというのは、結構私の中でインパクトが大きかったです。

社内のいろいろなところと調整しないと実現できないことなので、上司の2人は相当な苦労したのだろうな、と。

Ono さん:勢いです。

Ito さん:そうですね。始めちゃったからやるしかない。

Ono さん:対象がJR東日本アプリだったことも良かったのかもしれない。運行にダイレクトにかかわる製品だとか、そういったものではないので、「やってみたら?」と。

ーーありがとうございます。終わりの時間が近くなってきたので、そろそろ最後の質問にうつっていきたいと思うんですが、Pivotal でのプロジェクトを終えて、一番印象に残ったことを教えていただけますか?

Ono さん:やはり全力で皆さんが仕事をしていることが、一番印象に残りました。私は、そういうことが絶対必要だと思っているので。それを実践できた。あと彼( Taka さん)がすごく変化したというか、成長したというか、それがすごいことだと思います。

Taka さん:え?今までどう見られてたんだろう…。(苦笑)

Ono さん:元々前向きでどんどん仕事を回していたけれど、「こういうことをやればいいじゃない」という主張をする感じだったのが、人の話を更にもっとよく聞くようになって、チームの皆をまとめている。

Ito さん:背筋が伸びたね。

Taka さん:伸びますね。「ユーザーインタビューの結果、実はこうでした。自分の考えが思い込みでした。」とお伝えすることが最近よくありますよね。

Ono さん:そう、そんなこと言う人じゃなかった。

Taka さん:実はそれが、私が Pivotal で学んだこととして特に印象に残ったことなんです。私はこれまでプロダクトを作るときは、正直言うと「想い」が一番大事だと思っていたんです。とにかく「こういう物を作りたい」「きっとお客さまも喜んでくださるはず」「会社にとっても必ずや有益だ」と。事業者ではあるけれど、ユーザーの視点も持ちながら、自分のなかでひたすら考えて。

でも、Lean XP はプロダクトマネージャー、デザイナー、デベロッパーという3つのポジションからなるバランスチームで、役割分担してプロダクトを作るじゃないですか。

私が Pivotal に来る前は、自分はプロダクトマネージャーでもあり、デザイナーでもあり、デベロッパーでもなければならないと思っていたんです。自分がプロダクトのことを一番よく知っていて、事業者の視点も持っていて、ユーザーの視点も持っていて、技術的なトレンドも把握している、だから自分が考えれば、何かアイディアが出てくると信じていたんです。むしろ自分がアイディアを出さないといけない、と。

なので、世界で誰よりもJR東日本アプリのことを考えているのは自分であり、それが大きな価値を生み出すと思っていたのですが、マリオさんと話していて、「それって思い込みじゃない?」とか、「それって仮説ですよね、どうやって検証したんですか?」と言われたときに、「え?」となったんです。一緒に開発を進めて行くうちに「なるほど」と思えるようになりました。

「想い」とか「誰よりもプロダクトについて考えている」というのは必要条件ではあるのですが、十分条件ではない。この経験が一番自分の中では印象的で、いろんな人に会うたびにこの話をしています。思い込んでいることを検証して、正しい問題を発見して、検証された答えから、ソリューションを見つけていく。思い込みから始めるのだけど、最後は思い込みをなくしたものに整えていく

検証済みの仮説をPMとデザイナーが一緒にユーザーストーリー書いている様子

そのためには必ずユーザー、お客様に聞かなきゃいけない。自分自身で短期間に何人ものユーザさんにインタビューをやってみると、「あまり意外性のある回答の得られなかったユーザーインタビューだったな」という時もあるのですが、それでもシンセシス(インタビューの結果のまとめ)をすると、発見があったりするんですよね。

「あれ、これも自分の思い込みだったの?」ということが多々あって。これは本当に勉強になっています。なので最近、人が話しているのを聞いていて、「この人思い込みで喋ってるな」と感じることができるようになってきたんです。例えば、ステークホルダーにいろいろ言われることがありますが、あまり怖くなくなってきました。「いやいや。それあなたの思い込みですよねー。」と心の中で思ったりして。これまでは、言われたことを全て受け止めて、自分の中に代案が即座に思いつかない場合は「すぐやらなければ」と思っていましたが、そうではないと思えるようになって、とても自分自身が心強くなりました。これは実践してみないと腑に落ちないかもしれないですね。答えはユーザーが知っていて、自分は知らない。想いは自分が強く持っていなければならないけど、答えを持っていないことが大きな問題にはならないという感覚。

ーーIto さんはいかがですか?

Ito さん:アプリの最初のリリースの規模が、「こんなので出すの?」というくらいシンプルだったですよね。出してみたら、「これ、シンプルでいいからこのままいじるな」という人がいたくらい。それが印象的でした。ただ逆に言うと、期待を持たせる形での船出になるので、なるほどなという感じかなということですかね。

今の思い込みの件を、私の立場から言うと、やはり上からも言われるし、実は私も結構いろいろなことをやりたい派なのでいろいろ思うのですが、そこで彼にぶつけると、「いやいや」と、結構優先順位を低くされるんです。

Taka さん:本当に思い込みなので(笑)。

Ito さん:確かにその通りだなということです。

Taka さん:でも検証すれば答えが見えてくるので、優先順位が上がってくることはもちろんあります。

ーー最後になってしまいましたが、何でもいいので、今後どのようなことに挑戦していきたいか、思いがあればお1人づつお聞かせ願いたいのですが。

Ono さん:このやり方を広げたいです。当社の様々なところへ。「デジタルでいろいろなことをやり始めなくてはいけない」ということが、様々な箇所で沸き上がり、プロダクトを作ってはいるのですが、開発の仕方は従来型なので、できるときにもう時代遅れみたいな感じになるかもしれない。「いやこういうやり方もあるんだよ」というのを、少しずつ関わり合いながら進めていきたい。皆がこういうこともできるようになれば、JR東日本がより面白い会社になるのではないかと。まずは、この取り組みを全体に広げたいと思っています。

Ito さん:今は「このアプリを作って、それでユーザーと繋がっていくというのがいいね」という感じなので、「続けて行きたいね」というようになればと。それが3年後、5年後に、どう変わっていくかまだ分からないところもあるし、新たなソリューションに代わっているかもしれませんが、そういったことに対して柔軟に対応できるような体力と言いますか、対応力をつける必要がある

そのためには、先程も話した通り、この取り組みがもっと広がっていったら良いなと。「一回ソリューション作ったら10年使える」みたいなことを言う人もいるのですが、そうではなくて、いろいろなことに対応していく力をつけることに挑戦していきたいなと思っています。

ーー最後、Taka さんに締めていただきたいです!

Taka さん:Lean XP のような開発手法や、アジャイルな開発スタイル、ユーザー中心で本当にやっていく姿勢、予定を決めずに進めていくこと、これらは当社にとってチャレンジングで、まだ社内からも様子見されているなと感じています。

結局まだ実績を出せていないからなのだろうな、と思っています。会社の名を冠したアプリとして、お客様や社内外のステークホルダーからの期待に応えていくアウトプットを少しずつ着実に出していくことによって、存在感を出して行ければよいなと思っています。

せっかく「こうあるべきだ」と思える手法も習って、チームも出来て、種になるプロダクトも出来ているので、そろそろ結果を出していきたいです。2019年はそういう年になると思っています。最終的には2人の話のような目標に到達することをめざしますが、まずはしっかりと求められていることに応えつつ、期待を上回る結果も出していきたいと思っています。

「GO! by Train」について

お客さまの日々の列車での移動や駅の利用が、もっと便利で快適になることを目的として開発されたスマートフォン向けアプリです。必要な機能を厳選し、シンプルなデザインとしています。

主にできることは以下の通りです。

  1. ひと目でルートを選べる
  2. 運行情報がひと目でわかる
  3. 乗りたい列車がどこにいるかわかる

Pivotal Labs では、定期的にワークショップ型イベントを開いたり、ブログでプロダクト開発やチームビルディングなどについて紹介していきます。

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Mario Kazumichi Sakata
Product Run

Staff UX Designer based in Tokyo. Born in Brazil, raised in US. Father of two.