CDP: Unlocking Climate Solutions に挑戦するPart2

piqcy
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10 min readNov 15, 2020

CDPコンペティションのゴールであるKPI開発について検討します。企業や都市が、環境や社会へのインパクトを考慮に入れた活動をしているかを計測する指標が本コンペティションで開発を求められているKPIです。私の専門は企業価値分析なので、もちろん企業に対するKPI開発を検討します。

本記事ではKPI開発案のベースとした「Hybrid Metrics」の紹介と、それに必要なデータを収集します。収集したデータは以下で公開しています(External Data Prizeにsubmitしました)。

構成は以下の通りとなります。

  1. Hybrid Metricsとは
  2. CDPコンペティションにおけるHybrid Metrics
  3. データの収集

Hybrid Metricsとは

Hybrid Metricsは、Shared Value Initiativeが提唱した財務と非財務を組み合わせた指標です。

Shared Value Initiativeは経営学で著名なマイケル・E・ポーター教授が提唱した共有価値(CSV=Creating Shared Value)を普及促進している団体です。共有価値は企業の経済的価値と社会的価値双方(“Shared Value”)を創造する(=”Create”)ものです。近年のマテリアリティとも通じる価値です。

”Shared Value”をどう計測するのか?は長年の課題でした。というのも、会計については決まった規則がありその通り開示されますが「社会的価値」は開示方法に規則がなく故に計測が困難なためです。何をもって「社会的価値」とするのかも曖昧で、今回のCDPコンペティションでは「環境や社会へのインパクト」と読み替えられていますがその定義は一様でありません。

Hybrid Metricsは現状の定量的な指標で”Shared Value”を計測する手法です。以下のような指標を例として提示しています。

Hybrid Metricsの素案

現時点でのHybrid Metricsの特徴は以下3点です。

  1. 社会的価値に関連する計測可能な指標を、財務指標と組み合わせた
  2. 業界ごとに組み合わせる指標が変わる
  3. 組み合わせる指標間の因果関係は未だ証明されていない
  4. 財務指標と同様、指標の分解が可能

全会社に適用できる汎用的な指標を作ることはあきらめています(2)。CO2排出量がIT業界において持つ重みと石油化学業界において持つ重みは異なるということです。また、Hybrid Metricsは個別企業の事例で効果が検証されている段階で、多くの企業に適用した統計的な分析はありません(3)。そのため、まだドラフト版という状態です。

Hybrid Metricsは割り算で構成されるため、分解が可能です(4)。以下は健康にいい活動(ダイエット)をした人に報酬を与える企業の指標例です。健康改善⇒行動改善⇒インセンティブに繋がる、ゆえにValue/Member(=労働生産性)が上がる、と解釈できます。

Figure3より

CDPコンペティションにおけるHybrid Metrics

本コンペティションでHybrid Metricsが使えるか検討します。求められているのは「企業や都市が環境/社会へのインパクトを考慮し活動をしているか」の計測です。財務/非財務の組み合わせの観点からすると、少ない二酸化炭素排出量で多くの収益を上げていれば「燃費がいい」と言えそうです。燃費の改善=「インパクトを考慮した活動」とすれば、Hybrid Metricsを活動の計測指標と考えられそうです。

データの収集

Hybrid Metricsの計算には財務・非財務双方のデータが必要です。財務についてはHybrid Metricsで使用されているEBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization)や売上原価の計算に必要な項目を取得します。EBITDAは営業CFに近い値です(実質的に1年間で得たキャッシュ量)。

財務数値の取得

財務数値はもちろん決算書から取得しています。日本のEDINETにあたるEDGARから決算書を得ることができます(※EDINETがそもそもEDGARをモデルに作られた)。EDGARを運営するSECはBigQueryでデータを公開しています。

ただ以下の難点があり、EDGARからの取得は行いませんでした。

  1. どのタグが何に対応しているかタクソノミから判定する必要がある。
  2. 企業によって使っているタクソノミがまちまちで正確な取得が困難。
  3. CDPで使われている証券コードをデータに持っておらず、外部マスタと突合が必要(SECではCIKというコードを使っている)。

代わりに使用したのがSimFinというAPIです。

無課金の場合直近のデータが取れない、回数制限がありますがきれいに財務データを取得できます(今回は大人の力で課金しました)。また開発用キット(SDK)があり、EBITDAの関数も実装されています。EBITDAには2つ数式があるのですが、両方に対応しています(どちらを使用しても基本的に大差はない)。

SimFinとCDPのデータを証券コードで突合し、財務非財務がセットになったデータを作成しました。こちらは以下で公開しています(External Dataset Prizeに応募したものです)。

非財務数値の取得

CDPからは非財務の定量的なデータを取得可能です。今回は気候変動に焦点を絞りたいと思います。質問の定義書を参照すると、どの質問で排出量が回答されているかわかります。以下は質問の例で、フローチャート状になっています(なぜか2020年の質問の定義書にはフローチャートが掲載されていないですが)。

C4 Targets and performanceの回答フロー

排出量の計算方法とその値の記載があるのはC4 Targets and performance、C5 Emissions methodologyとC6 Emissions dataです。結論から言うとC6からの取得が最も効率的です。

  • C4: 排出量削減計画の回答で、目標と進捗状況を報告
  • C5: 基準年の排出量を報告
  • C6: 報告年の排出量を報告

上記の中で、純粋な当年の排出量の報告はC6のみです。C4の目標値と進捗状況からも取得は可能ですが、目標値は様々なScopeが混じっており上手く仕訳けるのが困難です。Scopeとは排出量の計測範囲のことで、以下3種類があります。

  • Scope1: 自社の燃料で排出した量
  • Scope2: 他社で生産されたエネルギー量(電力など)
    供給箇所の平均に基づく原単位を使用する方法(location-base)と、調達方法に基づく原単位を使用する方法(market-base)の2種類がある。market-baseの場合、再生可能エネルギーを指定して調達している場合などに反映ができる。
  • Scope3: サプライチェーン全体の排出量
    製品の調達など、サプライチェーン上の関係15種に応じて報告を行う。

Scope2についてはこちらに公式の解説があります。

Scope3については環境省が資料を公開しています。

実際取得する方法をKaggleのKernelにまとめて公開しています。

C6から取得した排出量を、Altairを使用しインタラクティブなグラフにまとめました(この記事上は画像でインタラクティブには動きませんが・・・↑のKernel上で動かせます)。

左がScope別排出量、右が業種別の排出量となります。右の赤は飲料、ピンクは製造業なのですが、飲料が減る一方製造業は伸びています。報告する企業が増えたのか、実際排出量が増えているのかは気になる所です。

いずれにしても、財務・非財務両方の数値がそろいました。次回は。これらを使用しHybrid Metricsを計算したいと思います。

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All change is not growth, as all movement is not forward. Ellen Glasgow