2010–2020: Reflection and Foresight of the Next Decade

ビジネスデザインの視点で見る〈2010–2020〉

Project ARCH
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12 min readMay 1, 2020

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Photo by Andrew Neel on Unsplash

ビジネスからテクノロジー、政治、社会、人々の暮らし方・働き方まで。2010〜2020年はあらゆる物事が大きく変わった10年間だった。いま起きている変化はどこへ向かい、2020年代にどのような世界をつくっていくのだろう? 2020年代のはじめに、これまでの10年を振り返りつつ、次の10年を考えてみたい。

Speakers:
佐々木康裕:Takramディレクター/ビジネスデザイナー
岩嵜博論:博報堂 ビジネスデザインディレクター

🌍 かくして人類はコンピューターを持ち歩き始めた

佐々木:まず2010年代に何が起きたのかを見ると、ビジネスデザイン的に言うとやはりスマートフォンの登場が大きいですよね。いまでは忘れがちですが、iPhoneって2007年に出た当初は独自アプリしかなくて。それからApp Storeが開放され、アプリ経済圏が生まれ、1人1台スマートフォンをもち、みんなが手のひらの中にコンピューターを持っているという時代が訪れることになった。その状況をベースに生まれたのが、UberやAirbnbやInstagram。スマートフォンがあって初めて成立するようなプロダクトが出てきたのです。

2010年以降にアプリ経済圏ができてからは、シリコンバレーの投資も急速にコンシューマーインターネット側に振れていくということが起きました。エンジニアたちはエンタープライズ向けのプログラムではなく、とにかくコンシューマー向けのアプリで一獲千金を狙うようになってきて。そのなかで多くのおもしろいサービスが出てきた結果、一般の人とデジタルとの向き合い方も変わってきたのかなと思います。

岩嵜:その通りですね。Instagramが象徴的なプロダクトで、ぼくがアメリカにいたときにちょうどフェイスブックがInstagramを買収したんです。上司からInstagramがすごいことになりそうだからちゃんとリサーチしろって言われて調べたら、20人もいないような人数でやっていた。そうした会社が数千億円で買収されたわけです。そうやってアプリケーションエコノミーが花開いて、その傾向はいまでも続いているんですよね。

佐々木:なのでおそらく、スマートフォン中心というのは2020年代も変わらないかもしれない。AirPodsが出てきたなかでコミュニケーション手法がビジュアルからオーディオに変わってきているとも思いますが、それもスマートフォンと接続された状態で使われています。人類がコンピューターを常に持ち歩き、それがある種のベースラインになっていくというのはこれからも続くだろうと思っています。

🌍 デジタルからフィジカルへ

佐々木:2010年代後半にもいくつかのトピックがありますが、ひとつはシリコンバレー的な成長モデルがいろいろな意味で歪みを迎えていること。とにかくユーザーをたくさん集めて囲い込み、その間は赤字でもあとからマネタイズをするというモデルはFacebookのようなサービスが実証しているのですが、その考え方をUberやWeWorkといったリアル世界と接続するサービスに適用しようとしても、実はうまくいっていない。Uberは上場しても黒字化の見通しが立っていませんし、WeWorkも上場申請を撤回しています。「Capital as Moat」、すなわち堀(moat)を築いてユーザーを囲い込むために資本をつぎ込むという方法論が機能しなくなってきているのです。

岩嵜:最初はデジタルの世界でとにかくユーザーをたくさん取って……ということが行われていましたが、デジタルだけではだんだん先がなくなってきた結果、フィジカル空間にこそビジネスチャンスがあるんじゃないかといわれるようになってきたのも2010年代後半に起きたことですね。

佐々木:そうしたデジタルからフィジカルへの転換にも関わりますが、2010年代後半にはシリコンバレーの相対的競争力が徐々に低下してきました。中国がコンシューマーインターネットの震源地としての役割を担い始めていて、イノベーションはもうシリコンバレーよりも中国から生まれつつある。

ほかには2010年代後半の流れとしては、プライバシーの議論がされるようになったこと、機械学習があらゆるビジネスのベースになってきていること、広告モデルからサブスクリプションモデルに移行しつつあることも挙げられます。

岩嵜:D2Cブランドのように、フィジカルな市場における中庸のスケールのビジネスが、大規模にユーザーを集めるモデルに対するアンチテーゼとして生まれ始めている。こうした流れも2020年代につながっていくのかもしれません。

🌍 2020年代の「働く」に当たり前

佐々木:この間ブレンデン・マリガンというアントレプレナーがスタートアップカルチャーの変化についてツイートしていたのがおもしろかったんですが、2010年代は「週に120時間働く」だったのが、2020年代は「適切に感じる量だけ働く」に変わっていく。「利益度外視の成長志向」から「収益を出すサステイナブルな会社づくり」に、「死ぬ気で働け」から「自分自身を労ろう」に変わっていくと。こうした仕事に対する価値観はどんどん変わってきているという感じがありますよね。

岩嵜:あとはデザインシンキングがビジネスの文脈で注目されてきたのも2010年代で、それまではテックドリブンでイノベーションをリードしていた時代から、デザインがビジネスをつくる時代にシフトしていったように思います。典型的な例はグーグルで、創業当初はテックドリブンな会社だったのが、だんだんとUXやデザインに投資をしているように見えますよね。

佐々木:デザインの文脈で言うと、この数年で経営のかなり近いところにデザインが入ってくるようになりました。「アップルの競争力の源泉のひとつがデザインである」というのももはや当たり前の認識になっているし、それを取り入れようとする企業もすごく増えてきたという感じがあります。

加えて、わたしはよく「異種混合格闘技戦」と呼んでいるんですが、業界に関係なくいろんな会社がいろんなことやるというケースも増えてきている。今年のCESで発表された、トヨタが都市開発をやってソニーがクルマをつくるというのも、その典型的なケースといえます。

岩嵜:アマゾンも最初はEコマースの会社だったのがKindleという本を読むためのハードウェアをつくり始めたし、フェイスブックはオキュラスを買収している。アップルのようにハードウェアとソフトウェアを融合しながらビジネスをつくっていくというのは、今後も起きていくのでしょう。

🌍 ロングレンジの課題に向き合う

佐々木:『Exponential View』というニュースレターが「Preparing for 2030」と題して2020年代に起こりうるトレンドを書いているんですが、そこで最初に出てくるのが、気候変動が支配的なナラティブになっていくということ。ビジネスやイノベーションを考えるときにも、常に気候変動というテーマが付いて離れない状況になっていくと言われていて、これには完全に賛成ですね。

岩嵜:気候変動はこれまでに人類が直面してきた問題とは性質が違い、すごくロングレンジの課題である。つまり、たとえいま課題に取り組んだとしてもすぐには解決しないので、ロングレンジで考えたり、システマティックに考えてアクションをするということが求められてくるのだと思います。

佐々木:ヒューマンセンタード・デザインはもう時代遅れで、今後はプラネットセンタード・デザインが必要という考え方もあります。環境負荷をかけながらユーザビリティの高いものつくるというのが、これからは許されなくなってくると思っていて。ユーザビリティをちょっと落としてでも、環境にいいものをつくっていかなければいけない。そしてそうした価値を、ユーザー自身が評価するように変わっていく。たとえば「うちは絶対にプラスチックバックを出しません」というスーパーが出てきたときに、「不便だけど地球のためにはいいよね」と思う感覚を普通の人たちがもつようになるということが、これからの数年で起きるんじゃないかと思っています。

岩嵜:「利便性ファースト」という価値観は、2020年代に崩れていく可能性はあります。つまり、一方的な利便性や一方的な快適性に対する批判・疑問みたいなものが生まれてくるんじゃないかなと。単に利便で快適であることが「=幸せ」という時代が終わり、ちょっと不便でもそれが次の世代のためになるということが心地よいという価値観になるんじゃないかと思いますね。

佐々木:もうひとつの社会的な流れとしては、トランプやBrexitといった政治的分断。そうした分断を解消することがもはや不可能かもしれないなかで、政治に代わって人々は企業に対して政治的アクションを求めるようになるだろうという話もあります。なので企業がどこかに寄付をしたり、制度づくりの旗振り役になったりすることが、これから起きてくるのかなと。それにともなって、プライベートセクターでもパブリックセクターでもないような、中間になるコモンズ的なエリアで議論が起きてくるだろうという話も『Exponential View』では語られています。

岩嵜:これも非常にロングレンジな課題になってきますよね。するとこうした息の長い問題を、経済的な主体がどのように担っていくかということが今後は問われていく。いままでのシリコンバレー的エコノミーのように、パッと短期間でお金を集めて、数年で急成長させて、株式上場して利益を分かち合う、ではないかたちのモデルが問われてきます。

佐々木:2019年にビジネスラウンドテーブルが「もう株主利益の最大化をやめましょう」と宣言をしたのがいちばん象徴的かなと思っていて。今後、コミュニティや従業員といったステークホルダーの利益を重要視するようになっていくと、企業活動の目的自体も変わっていく。この転換は、これから大きなインパクトをもちうると思います。

🌍 変わりゆくメディアとメッセージ

佐々木:もうひとつトピックで取り上げたいのが、世代のシフト。これからの10年って、いまの30〜40代前半の人が、大企業のリーダー層になってくるんですよね。そうしたデジタルとともに育った世代がリーダーになると意思決定の仕方や価値観も変わってくるので、事業活動のあり方自体も変わってくるんだろうと思っています。

たとえばCEOの輩出工場って、昔はGEだったじゃないですか。それが最近はアマゾンに変わってきているという話があって。アマゾンには確固たる働き方のディシプリンがあり、かつリアルとデジタルの両方をやっているので、アマゾンを卒業した人たちは再現可能性をもったままほかの事業を展開できるようになる。だからこれから、グローバル企業のトップにアマゾン出身者のようなテックとリアルをいちばんわかっているような人がなる可能性は大いにあると思っています。

岩嵜:ナイキの新しいCEOも元eBayの人だし、ロレアルのチーフデジタルオフィサーに就いている方ももともとマイクロソフトにいた人物。そうした新しいタイプのCEOが外から来て企業を変革していく、という流れはこれからもありそうですね。

佐々木:なので広告代理店のCEOや家電メーカーのCEO、食品会社のCEOをテック出身の人、あるいはテックに理解が深い人がやっていくというケースは、2020年代に起きていくのかなと思います。

岩嵜:あとは、テクノロジーがどういうふうに変わっていくかというのも個人的にはすごく興味があって。先ほどもオーディオの話がありましたが、テクノロジーはどんどんインビジブルになっていくかもしれない。やはりスクリーンタイムみたいなものが大きなイシューになっているなかで、「スクリーンを見続けること」に対するアンチテーゼはますます大きくなってくる。QOLを上げることに貢献するようなデバイスが支持される世界になってくるという感じがしますね。

佐々木:それにともなって、コミュニケーションのかたちも動画を送り合うようなものになっていくかもしれないですね。書くと10分かかることが、話すと1〜2分で終わるということがあるじゃないですか。異なる言語を話す人同士でも翻訳機能がサポートして、辞書を引きながらメールを読むこともなくなってくる。実際に中国では、WeChatで音声ファイルを送り合うようなコミュニケーションも増えているそうです。そうやってスマートフォンで触れるものがテキストから動画や音声に変わるときに、人がどういうふうに変わっていくのかは考えてみたいテーマですね。

岩嵜:マクルーハンじゃないけれどもメディアはメッセージだから、メディアの形態が変わることによって人がどういう影響を受け、われわれの生活がどう変わっていくのかを考えるのは重要な気がします。

佐々木:今回話したことも、今後逐次アップデートできるといいですね。先のことはわからないので1年後には予想とはまったく違う世界になっているかもしれないけれど、未来思考で先を見ながら考えていくのは大事なことかと思っています。

Learn More:
Preparing for 2030

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