Bridging Between Business and Design
「Project ARCH」とこれからのビジネスデザイン
さまざまな専門領域のエッジを探究するTakramのリサーチプロジェクト「Mark@」の一環として、ビジネスデザインの研究と啓蒙を目的にした「Project ARCH」がスタートする。日本ではまだまだ語られることの少ないビジネスデザインに関する議論を行い、メディアとして発信をすることで、未来のビジネスデザイナーのための思考の糧を提供するためのプロジェクトだ。
これからの社会を考えるうえで、なぜ「ビジネスとデザインの架け橋」が必要なのか? Takram 佐々木康裕と本プロジェクトのパートナーである博報堂 ビジネスデザインディレクターの岩嵜博論が、「Project ARCH」が生まれた背景と活動内容、今後のプロジェクトで扱っていくテーマについて語った。
Speakers:
佐々木康裕:Takram ディレクター/ビジネスデザイナー
岩嵜博論:博報堂 ビジネスデザインディレクター
🌵 お茶目な架け橋
佐々木:「Project ARCH」は、わたしと岩嵜さんで2年ほど前から行っている「Business Design Talk」というイベントベースの取り組みを下敷きにしています。ビジネスとデザインを越境して活動されている方々を毎回ゲストにお呼びして、2時間ほどビジネスデザインのトピックについて話すというものです。
「Business Design Talk」を始めた背景には岩嵜さんとわたしのなかである問題意識があって、それは日本のなかで、「ビジネスデザインがどのような課題に対してソリューションを提供できるのか」「どういう人がビジネスデザイナーになれるのか」といったことに関する言説や議論の総量が少ないということでした。そこでわれわれが議論の場をつくることによって、ビジネスデザインに関する言説を増やすことを目的に行っていました。
しかしイベントベースの取り組みだったので、いかんせん回数を多くこなすことができないという課題がありました。そこで今回、Takramの社外活動(Mark@)としてビジネスデザインを探究するプロジェクトを立ち上げ、岩嵜さんにもメンバーに入っていただき一緒に進めていこうということで「Project ARCH」がスタートしました。
岩嵜:佐々木さんとわたしは、もともとビジネスバックグラウンド。佐々木さんは商社にいらっしゃったし、わたしも広告会社のなかで事業開発やコンサルティングを行っていました。そしてたまたま、2人ともイリノイ工科大学デザインスクールに留学をしていたという経歴があり、普段の仕事のなかでもビジネス領域とデザイン/クリエイティブ領域を行ったり来たりしています。なので今回のプロジェクトでも、その両方を行き来するビジネスデザインというものに、いろいろな角度から光を当てていきたいと考えています。
佐々木:「Project ARCH」ではビジネスデザインに関するメディアをつくり、われわれがブログを書いたり、ポットキャストの収録をしたりすることで、世の中のさまざまなテーマに対してビジネスデザイン的な切り口で光を当てていく。その事象が「ビジネスとクリエイティブの交差点」という観点からどのように見えるのか、それによって世の中がどのように変わっていくのか、ということを語っていきたいと思っています。「ARCH」というプロジェクト名は岩嵜さんに付けていただきましたが、その意味について教えていただけますか?
岩嵜:「ARCH」とはシンプルに、橋の構造のこと。「ビジネスとデザインの架け橋」を表す象徴的な名称として「ARCH」と付けたという感じですね。
佐々木:調べてみると「ARCH」という言葉には別の意味もあって、「ひょうきんな」「お茶目な」「いたずらっぽい」といった意味もあるんですよね。なのでこの取り組みでも、ちょっとお茶目なトピックも扱っていけるといいかなと思います。
岩嵜:ビジネスというと、いままではかなり堅苦しい世界があった。だけど世界が複雑になり、先が見えない、いままで当たり前だと思っていたものが当たり前じゃなくなってくる時代においては、堅苦しさだけではなく、エスプリみたいなものももち合わせながら文化や社会を視座に入れていくことが、ビジネスパーソンにも求められてくるはずです。
🌵 ビジネスデザインは「建築的」である
佐々木:「ビジネスデザインとはそもそも何か?」ということについて簡単に触れておきたいと思います。岩嵜さんは、ビジネスデザインについて普段どのように説明をしていますか?
岩嵜:シンプルに言えば、「ビジネスと創造的な活動をうまく融合させていくこと」だと思っています。ビジネスへの向き合い方として、「オプティマイゼーション(最適化)とバリュークリエイション(価値創造)」の話をすることがあります。これまでのビジネスの文脈では、オプティマイゼーションに重点が置かれてきた歴史がある。古典的なビジネススクールの教育も、どちらかと言えばオプティマイゼーションよりなところがあったと思うんです。しかし未来がどうなるかわからなくなり、より創造的で構築的な活動がビジネスにおいても重要になってきているなかで、デザインやクリエイティブ、創造的なアプローチといったものをビジネスがどう取り込めるかというのが、ひとつの背景にあると考えています。
もともとわたしは学生時代に建築都市デザインを学んでいたので、その頃からデザインの現場を見つつ、一方で博報堂ではマーケティングプランナーとして働き始めたなか、どんどんやっていることがビジネス領域に広がってきたというバックグラウンドがあります。そして世の中のビジネス領域で活躍している人には、実は建築出身の人が結構いたりするのですが、彼らはビジネス的な活動とデザイン的な活動をうまくひとりの人格のなかで融合させているんですよね。そういう人たちを見ているなかで、ビジネスとデザインを行き来することが大事なんじゃないかと思うようになったんです。
佐々木:建築は面白いですよね。世の中との接続や時間軸的な観点を考えないと建築物はつくれないので、常にメタ的な視点をもたなければいけない。そうした視点が、多元的なステークホルダーがいるなかで最適解を見つけていくビジネスデザインとも親和性が高いと思っています。
岩嵜:建築には多くの制約があります。土地の制約があり、敷地の制約があり、構造の制約があり、法規の制約がある。その一方で、制約だけで建物をつくっても社会や経済を前進させることはできない。そこで建築家は、「社会や経済に貢献できる建築物を制約のなかでどうつくれるか」を考えるわけですが、それはビジネスデザイナーが「社会を前進させる創造的な経済活動をビジネス的な制約のなかでどうつくるか」を考えることに似ているところがありますよね。
🌵 未来のビジネスの当たり前
岩嵜:「Project ARCH」ではビジネスデザインという領域の輪郭を明らかにしながら、そこに関わってくる人々とつながり、一緒に目指していく世界を明らかにしていけるといいですよね。ビジネスの世界にいるとなかなかクリエイティブに対する理解が進まなかったり、逆にデザインやクリエイティブサイドから見たときに、ビジネスってちょっと距離が遠いということもあるので、その間をうまく埋めていけたらいい。
佐々木:そうですね。ビジネスデザインってまだまだ概念的にフワッとしたものでもあるので、「こういうものです」と言い切ることはせずに、いろいろな角度から光を当てながら、全体像がぼんやりと明らかになっていくといいかなと考えています。
今後プロジェクトのなかで扱っていきたいトピックをお伝えすると、
- D2Cはどんな社会的変化の兆しなのか?
- リセールエコノミーと未来のものづくりのあり方とは?
- ポスト・スマホ時代にやってくるものとは?
- 経済の分散化とタコツボ化に企業はどう対応したらいいのか?
- フードデリバリーは何をもたらすのか?
といった話をしたいと思っています。
岩嵜:「兆し」「未来」「ポスト」という言葉に象徴されるように、少し先の社会や経済の変化を見据えつつ、「その先にあるビジネスの姿ってどういうものなんだろう?」ということを、ビジネスとデザインの両方の視点から考え、議論をお伝えできればと思っています。乞うご期待。