Gaming in the Corona Age

コロナ時代のゲームの可能性

Project ARCH
Project ARCH
9 min readMay 1, 2020

--

Minecraft

COVID-19の影響によってリモートワークが新しいスタンダードになりつつあるなか、オンラインゲームが「人と会う時間」をつくるために大きな役割を担おうとしている。新しい市場としてのゲーム実況、みんなで観るNetflix、教育コンテンツ化する『Minecraft』。コロナ時代にアップデートされる「オンライン×みんな」で過ごす体験と、ゲームの世界の新しいブランドコミュニケーションのかたち。

Speakers:
佐々木康裕:Takramディレクター/ビジネスデザイナー
岩嵜博論:博報堂 ビジネスデザインディレクター

🎮 「デジタル×グループ」のトップランナー

岩嵜:今日はこのコロナウイルスの危機下で佐々木さんとぼくが見直している「ゲーム」をテーマに話したいと思います。

佐々木:最近買った『どうぶつの森』の話をしたいんですけれども、まずはシンプルにめちゃくちゃおもしろい。画像がきれいでびっくりしたことに加えて、スマホアプリとの体験がすごくシームレスなんですよね。ゲーム内でも会話はできるんですけど、タイピングしづらいのでコミュニケーション速度がすごく落ちてしまう。そのコミュニケーションのところだけアプリで外部化することで、オンラインでスムーズな共通体験をつくっているところが上手だなと思っています。

なぜわたしが急に「Nintendo Switch」を買おうと思ったかというと、こういう時代なので、あらゆる産業が「デジタル×グループ」の領域に移行してくるんじゃないかと思っているからです。そのトップランナーがゲームだろうということで、そのプロダクトやUXを研究してみようと思って買ってみたんですね。

岩嵜:任天堂はアプリ単独のゲームも出されていますが、ここに来てアプリとコンソールのソフトウエアを連動させるという体験に一気に踏み込んでいる感じがおもしろいですよね。

佐々木:それはスマホと一眼レフの関係に似たところがあると思っています。いまはスマホでもきれいな写真は撮れますが、一眼レフを使うとやっぱり一眼とスマホの間には越えられない壁があることに気づいてしまう。「ゲームもスマホでできるじゃん」と思いがちですが、コンソールを買ってみると全然違いますよね。もうスマホのゲームに戻れないな、というふうに感じています。

🎮 「ゲーム実況」という不思議な市場

佐々木:いままで「デジタルでひとり」「アナログでひとり」「アナログでみんな」という体験はあったんですが、「デジタルでみんな」という体験が今回のコロナ危機で注目されるようになってきました。たとえば「Netflix Party」という、みんなで同じNetflix番組を見れるサービスも出てきたりしている。これまでソロ・エクスペリエンスだったものを、グループ・エクスペリエンスに変えちゃおう、という動きといえます。

岩嵜:この領域は本当におもしろい。ぼくはTwitchに代表される「ゲームの実況中継」という不思議なジャンルが生まれてきたことにも注目しているのですが、Twitchは今回のコロナ危機で視聴時間記録を30%も更新したんですよね。視聴時間ベースで言えば、YouTubeやNetflixを追随する存在になってきている。

彼らは自分でコンテンツをつくっているわけでもないし、YouTubeのようなCGMでもない。「誰かがつくったコンテンツをプレーするところを実況する」ということがコンテンツになっている。それを展開するプラットホームがまたビジネスになるんだと考えた人は、本当にすごいと思いますね。

佐々木:『どうぶつの森』は、「ゲームをする」の共通体験化ですけど、Twitchは「ゲームを見る」の共通体験化になっている。ゲームをするのも見るのも、どちらもが産業として大きくなっているのはおもしろいですよね。

岩嵜:これだけ人を惹きつけるコンテンツの秘密は何だろう?と思って、ぼくも夜な夜なTwitchの実況中継を見ているんですが、やっぱり不思議な世界ですよね。実況者たちは高性能のマイクを使ってしゃべっているので、ポッドキャストみたいにすぐそこにその人がいるような感覚になる。同時にチャットができるウィンドウもあって、そこでメッセージが流れていく感じは本当にデジタルじゃないと実現できないリアルタイム性だと思っていて。こういうところに価値の源泉があるんだなと思って見ていますね。

佐々木:Twitchを買収したアマゾンがいま何をやろうとしているかというと、実況解説をコマースにつなげようとしているんですよね。つまり、Twitchをライブコマースのプラットホームとして活用しようとしている。

中国ではファッションショーができなくなったので、ライブコマースを行いバイヤーではなくコンシューマーが直接買えるような環境をつくっているといいます。Twitchもいまはゲームに特化してコンテンツを配信していますが、個人が買ったものを紹介するような使い方はこれから増えてくると思います。

🎮 デジタルとフィジカルの体験を融合する

岩嵜:もうひとつトピックとして紹介したいと思っていたのが『Minecraft』です。ご存知の通り、Mojang(モヤン)というスウェーデンの会社が開発する「レゴのゲーム版」のようなソフトで、ブロックを使って好きなものをつくれるというものです。これが世界中の小学生や中学生の間で爆発的な人気になっている。

『Minecraft』の何がおもしろいかというと、「ゲーム」と「教育」を統合したものとしてよくデザインされていること。現在はモヤンを買収したマイクロソフトが提供しているんですが、マイクロソフトは今回のコロナ危機に際して『Minecraft』の教育コンテンツを無料で提供していたりもします。

佐々木:昔流行った『Second Life』にも似たところがありますよね。

岩嵜:そうですね。ただ一方で、『Second Life』が極力現実世界をコピーしようとしたのに対し、『Minecraft』はレゾリューションをあえて下げた世界をつくっています。とはいえ動物の動き方がけっこうリアルだったりして、その辺のバランス感覚がよくできている。『Second Life』や『Minecraft』はミラーワールド的なテーマとも関係しますよね。

佐々木:これは極端かもしれませんが、現実世界の生活より『どうぶつの森』のなかの生活のほうが楽しくなる可能性が出てきたなと最近は思っていて。わたしは最近もう少し郊外に移住しようかと思っていたんですけど、『どうぶつの森』を始めて「もうここでいいや」と思ったんですよ(笑)

岩嵜:今回のコロナ危機でリモートでのコミュニケーションという「デジタルの世界」が進むと同時に、料理をしたりインテリアに凝ったりといった「フィジカルの世界」も大事にされている。その先にある両者の接点に新しい可能性があるよう感じます。たとえば最近では、『ポケモンGO』が家の中でもプレイできるようになったというニュースもありました。デジタルだけの世界とフィジカルだけの世界の間に、「デジタルとフィジカルをうまく混ぜ合わせた世界」が生まれ始めているように思っています。

🎮 ゲームの世界と新しいブランドコミュニケーション

佐々木:ブランドの視点から言うと、現在の状況で消費者との接点をどう持つかを考えたときに、「Zoomで集まってCEOと話せます」といったオンライン・ギャザリングをやっている企業もあるんですよね。そうしたオンライン・ギャザリングを『どうぶつの森』のなかでブランドの島をつくってやったり、『Minecraft』でひとつの世界観をつくってやったりするということがこれから出てくるんじゃないかと思ったりしています。

岩嵜:去年のカンヌライオンズで賞を取ったアイデアに、ハンバーガーのウェンディーズが『フォートナイト』を使ったキャンペーンがありました。ウェンディーズは冷凍のお肉を使わないという思想をもっているんですが、『フォートナイト』上で彼らのつくったキャラクターが世界の冷凍庫を壊しまくるという(笑)。キャラクターによるゲーム上での行動がブランドコミュニケーションになっている、という事例です。

いままでのブランドコミュニケーションだと、こうしたアイデアはあまり考えられてこなかった。だけど、現在盛り上がっているゲームやゲーム実況の世界をブランドが活用できる方法はあるんじゃないかと思います。

佐々木:最近見つけておもしろいと思ったのが、中国のある『どうぶつの森』ユーザーが、WeChat PayのQRコードをカスタムして貼ることでゲーム内でモノを売っていたことです。ゲームの世界に人を呼び込んで、そこから買ってもらうという方法が確立されてくるかもしれません。

岩嵜:そんなことができるんですね。ある意味、ゲームをハックしていると。そしてこれからは、Eコマースのプラットホームもコンテンツと融合していくのでしょう。オーディエンスが時間を使う場所がゲームやコンテンツ寄りになっていくなかで、ショッピングモールのような「フィジカルの世界」とゲームのような「デジタルの世界」の両方でモノを売ったほうが効率的だからです。

今後の課題としては、オーディエンスがどんどん”トライブ化”していくことでしょうか。「どうぶつの森・トライブ」の人だけにものすごく理解されるもの、「フォートナイト・トライブ」の人だけにものすごく理解されるものはつくれても、それらのトライブに属していない人にはまったく届かなくなってしまう。そうしたオーディエンスとの関係性も、ゲームならではの特徴のように思います。

佐々木:ゲームで培われたオーディエンスとの関係や没入感のつくり方、個人の体験をグループの体験にしていくためのメソッドやスマホとの連動体験といったプラクティスが、スポーツや食といったほかの業種にもこれから染み出していくのだと思っています。なので、ゲームという領域はますます重要な研究課題になってくると思いますね。

--

--